SNSで見かける「ゲームのバナー広告」作りのリアルとは デザイナーが語る制作の流儀

「ゲームのバナー広告」作りのリアルとは

 ブラウジングやSNSを楽しんでいる際、ふとした瞬間に目に留まる「新キャラクター登場!」といったゲームのバナー広告。あるいは、アプリゲームのホーム画面を彩る「イベント開催中!」などのゲーム内バナー。

 それらを手掛けるのが、HIKE(ハイク)。各種企業やユーザーに向けて、アニメーション、ゲーム、音楽、舞台などに関するコンテンツの開発からプロモーションにいたるまでを一手に引き受ける、総合エンターテインメント企業だ。

 今回は、そんなHIKEでは“ゲームのバナー広告”が実際にどのような過程を経て制作されているのかを、同社の制作本部・プロモーション部に所属するチーフデザイナー・鈴木泰地氏と、デザイナー・山下顕一氏に聞いた。

 普段目にする数多くのバナー広告、しかしその制作に携わる“ゲーム愛”と“クリエィティブへの情熱”にあふれたクリエイターの存在を、我々はあまりにも知らなすぎたのかもしれない。

「出稿先は300件にも」ゲームのバナー広告の制作現場はいろいろと桁違い

――はじめに、おふたりのこれまでのご経歴をお聞かせください。

鈴木:前職は出版系で、おもにゲームの攻略本をDTP(※)で制作していました。HIKEのプロモーション部にも、ファンブック・設定集・画集といったファンアイテムの制作チームがありますので、現職でも変わらず出版物の制作に関わりつつ、Web広告を手掛けています。

※1……Desk Top Publishingの略。出版物をパソコン上で制作すること。

山下:昨年まで、いわゆる総合デザイン事務所に所属しており、広告やパンフレットなどの制作を担当していました。HIKEに入社するまではゲームやアニメの仕事に一切関わってこなかったので、ゲーム攻略本の制作現場と言われると想像もつかないです。

――スタッフのみなさんは、出版系やデザイン系の経験をお持ちの方が多いのでしょうか?

鈴木:基本的にはそうですね。ゲーム会社やWeb制作会社でUIデザインをやっていた者から、なかには元漫画家でイラストが描けるということから入社したケースもあります。私も前々職までさかのぼると建築設計の仕事をやっていたので、経歴としては特殊なほうかもしれないです。

山下:やはり、グラフィックデザインの基礎ができている方のほうが有利というか、この仕事でも勘どころを押さえやすい傾向はあると思います。

――ゲーム内のバナー広告制作と聞くと、かなり特殊な技能が必要とされそうな印象があるのですが、業務にフィットするまでにはどのくらいの期間がかかるものなのでしょうか。

山下:僕はまだ入社から1年半しか経っていないので、日々修行中ではあるのですが……。それこそデザイン会社で働いていれば、みなさん、似たようなものを作る機会は間違いなくあると思います。

 ですのでチューニングに時間がかかるとしたら、商材がゲームやIP(※2)であるがゆえに、ゲームの世界観への理解や、IPとそれを取り巻くユーザーコミュニティに対する理解度がある程度必要とされるという部分だと思うんですけれども。ゲームが好きであればすぐに適応できるようになると思いますね。

※2……IIntellectual Propertyの略。キャラクターなどの知的財産のこと。

――これまで経験されたお仕事と比べて、ゲーム内バナー広告制作のお仕事で「ここは特殊だな」と感じたような点はありますか。

鈴木:私は前職にて攻略本を制作する過程で、自分たちが作った本の告知をするためのバナー広告も作っていまして。攻略本のバナー広告は1個作って自社サイトに掲載して終わりだったのですが……。

 ゲームのバナー広告はそれとは違い、さまざまなWebサイトやSNS上に掲載してもらう必要があるので、出稿先が300件に上るといったケースもよくあるんです。そこはまさに桁違いだなと。

山下:デザイン面で言うと、前職のときと比べて最も違いを感じたのは文字の処理や装飾ですね。文字に立体感を出したり、輪郭を何重にもくるんだり、そこにさらにシャドウをつけたりと、とにかく“盛り盛り”にしていきます(笑)。

 文字を“盛り”まくりつつも、読みやすさを担保することは絶対条件ですし。それでいて、それぞれのゲームらしさや、そのときどきのキャンペーンやイベントごとのトーンを反映していく必要もありますから、そのあたりの兼ね合いも含めてうまく表現するには相応の技術が求められますね。

ゲームプラットフォームによってバナーのサイズは異なる。参考画像=『戦国IXA』© SQUARE ENIX
ゲームプラットフォームによってバナーのサイズは異なる。参考画像1=『戦国IXA』© SQUARE ENIX
ゲームプラットフォームによってバナーのサイズは異なる。参考画像2=『戦国IXA』© SQUARE ENIX
ゲームプラットフォームによってバナーのサイズは異なる。参考画像2=『戦国IXA』© SQUARE ENIX
Xに掲載する目的で作成したバナー。参考画像=『戦国IXA』© SQUARE ENIX
Xに掲載する目的で作成したバナー。参考画像2=『戦国IXA』© SQUARE ENIX

わずか1週間で、“デザインの3秒ルール”のその先へ

――ゲームのバナー広告は、どのような制作フローを経て作り上げていくものなのでしょうか。

鈴木:一般的なパターンとしては、まずゲーム会社さまのプロモーション事業部から発注をいただき、依頼書を確認しつつどのような内容にしていくかや、デザインの要望などについてヒアリングしていきます。

 その後、ヒアリングした内容に沿ってバナーの基本フォーマットを制作し、それをもとに別パターンのデザインや、各出稿先に応じたサイズを別途制作し、納品します。

 もちろん各制作段階で内容のチェックをいただきますし、広告内容がコラボものだった場合には、コラボ先の企業さまにも監修をお願いすることになります。その都度、修正が発生したりもして……。

 こうやってお話すると長い道のりに聞こえるかもしれないのですが、実際は、発注いただいてから納品までがだいたい1週間程度。これを毎月複数本、同時並行でやっていくというのが常です。

鈴木泰地氏
鈴木泰地氏

――これほどの工程をわずか1週間でやられているとは驚きです! バナー広告ならではの制作上の留意点や、気を遣う部分などはありますか。

鈴木:ポスターやチラシといった広義の広告は、それそのもので情報が完結するものになっている必要がありますよね。たとえばイベントの告知なら、日程、会場名、入場料金など全ての情報がチラシの中に入っていなければなりません。

 対してWebのバナー広告は、あくまで見た人にクリック・タップしてもらって、リンク先のページにジャンプしてもらうという誘導が目的になるので、情報を詰め込みすぎないことが重要なんです。

 パッと見て興味を持ってもらうことが最大の目的であり「詳しい情報はリンク先のページを参照ください」というスタイルなので、バナーに入れる情報は絞り込まなくてはなりません。

山下:ブラウジング中や、SNSの投稿を見ている方の目線や気持ちをギュッとつかまなければならないので、ビジュアルもワードもガッと目に飛び込んでくるようなデザインが求められます。

 良いデザインの指標として「ターゲットが3秒以内に興味を持てること」と言われることがあるのですが、バナー広告はより瞬発的に「見た瞬間に気持ちが惹きつけられること」を指標にする必要があると思います。

――極限まで情報量を削ぎ落としたなかで、見た人の心をつかむバナーを作らなければならないんですね。

鈴木:あと、これはゲームタイトルやデザイナーの考えかたにもよるところなんですが、個人的に私が最重視していることは、“遷移先のページの情報とバナーに載せている情報とのあいだに齟齬がないか”なんです。

 たとえば“ゲーム内でコインを350枚配布します!”というキャンペーンがあったとして、それを告知するバナーの中に350枚以上のコインを配置してしまっていたら、それは誇大広告になってしまうじゃないですか。

 もちろん景品表示法上の懸念もありますし、そもそもそうしたバナーを見てリンク先に飛んだユーザーの方に「画像と実際の内容が違う!」と思われてしまったら、ゲームのイメージダウンにつながります。それは広告として絶対にあってはならないことですから。

――見た人をガッカリさせてしまったら、たしかに広告としては逆効果ですね。ちなみに、ゲームのバナー広告の中でとくに注目を集めやすいのは、どのような内容のバナーなのでしょうか。

鈴木:スマホゲームなどの運営型タイトルで言うと、やはり新キャラクターの実装告知は反響が大きいですね。ただ、新キャラクターを扱うバナーでも見せかたのトレンドは年々変わっています。

 ひと昔前は、キャラクターのビジュアルをできるだけ拡大して大写しにしたバナーが好まれる傾向があったのですが、近年はわりと引きの画でしっかり見せるデザインが求められていると感じます。

山下:当然ながらゲームのバナー広告にもトレンドがあるので、他社さんがどのようなバナーを作っているかは常に注視していますね。

ゲームやIPの世界観に寄り添い、ともに作り上げていく仕事

――これまでに制作したバナー広告のなかで、とくに思い出深いものがあれば教えてください。

鈴木:あるスマートフォン用RPGゲームタイトルのコラボイベント告知バナーでしょうか。そのタイトルが2周年記念のタイミングでもあったので、“コラボ”と“2周年”というトピックを同時に打ち出す必要がありました。そのため、プレゼント情報など本来ならバナーに載せる情報としてフックになりそうなものも、思い切ってかなり小さめにしてメリハリをつけたんです。

 その後、別タイトルとのコラボの際には「コラボが決定したことをまず前面に押し出したい」というご要望があったので、レイアウトを大きく変えました。

――同じタイトルにおけるコラボイベント開催告知であっても、ケースバイケースでレイアウトを変えているんですね。

鈴木:ゲームのバナー広告には大きく2種類あって、いまご紹介したのはSNSなど外部で告知する用のバナー。もうひとつが、ゲーム内のホーム画面などに表示するためのバナーです。

 ゲーム内バナーに関しては、よりゲームの世界観や、ビジュアル、UIデザインなどに合わせてバチッとハマるバナーを作っていかなければならないので、ゲームのメインビジュアルなどを研究しながらデザインしていくことになります。

 ゲーム内イベントの開催告知バナーなどはロゴも含めて制作することもよくあるので、たとえばバレンタインイベントでは、チョコのラッピングをイメージした“リボン”や“箱”のデザインを配置していたりもしますね。

――ゲーム内イベントの雰囲気に合わせたロゴのフォント選定なども、バナー制作チームのお仕事なんですね。

鈴木:イベント自体の雰囲気や方向性はハッキリと決まっていないけれど、イベント告知バナーは作り始めないと間に合わないといったケースも、じつはよくありまして。その場合は我々の中で独自にイメージを膨らませながらバナー制作を進行していくことになるので、後から書体などの修正依頼が入ることも多いですね。

 ただ、こういったケースでは我々のほうから「こういったデザインはいかがですか?」とご提案したものを、クライアントさまに気に入ってもらえて採用いただけたり、「そのバナーのデザインに合わせてゲーム内の書体も少し変えてみようと思います」といったお話につながったりすることも、レアケースながらあります。

 そんなときには、「ゲーム会社さんといっしょにゲームを作っていっているんだ」という感覚がいつも以上に強く味わえて、大きな喜びとやりがいを感じますね。

“ゲーム好きが作るバナー”はユーザーからの反響も大きく

――バナーの広告効果を高めるために、デザイン面で気をつけていることや、心がけていることを教えてください。

山下:サービス開始してからあまり日が経っていないタイトルや、「これからどんどんユーザーを獲得していきたい!」という段階にあるタイトルであっても、いわゆる“メジャー感”をバナーから漂わせることは大事だと思っています。

 変にハッタリを利かせるという意味ではなくて、表現のリッチさやレイアウトの隙のなさによって説得力を持たせるというか。初めて目にするものであっても、“長期運営を続けてきたおなじみのタイトル”のような雰囲気がバナーから出ていたら、それだけでもゲームへの信頼につながるんじゃないかなと。

 あと、これは一見「デザインの3秒ルール」と相反するような話ですが、詳しい人が見ないとわからないようなキャラクターのステータス値などの深い情報を、あえてガンガン載せていくような構成でデザインすることもありますね。

――言うなれば、新規層を置いてけぼりにするような内容のバナーを作ることが、結果的には新規ユーザー獲得につながるケースもあると。

山下:はい。「既存ユーザーに向けた告知ですよ」という見せ方をすることによって、「この情報を噛み砕いて理解できるくらい、そのゲームを深く楽しんでいる人たちがいるコミュニティがあるんだ」「そこまでハマっている人たちがいるゲームなら、自分も足を踏み入れてみようかな」と思ってもらえるからです。

 新進気鋭のタイトルだからといって、必ずしもフレッシュ感のみで勝負しなくていいというか。タイトルのおかれている状況に応じた、より効果を生み出すための戦略を考えていくことが大切だと考えています。

山下顕一氏
山下顕一氏

――逆に、長期運営タイトルのバナーを制作する際に心がけていることはありますか。

山下:運営が2年、3年と続くタイトルでは、たとえばバレンタインやクリスマスなどの季節系イベントだったり、定例イベントなどの告知バナーを「ああ、いつものやつか」という感覚で見るユーザーさんが多くなるので、デザインのマンネリ化は避けなければなりません。

 とはいえ、いきなりいつもと全然違ったビジュアルになってもそれはそれで拒絶反応を示される可能性がありますから。みなさんにおなじみのテイストを保ちながらも、アクセント程度に変化をつけて違和感なく新しさを感じてもらえる、そんな表現の塩梅を特に気をつけています。

 くわえて、そのときどきのトレンドに合わせてデザインをアップデートしていくことも重要ですね。たとえば文字やイラストのドロップシャドウ(影)の濃さや長さにも流行り廃りがあるので、そのあたりも細かく調整しています。

――これまでに制作したバナー広告のなかで、とくに苦労したエピソードがあれば教えてください。

鈴木:タイトルは伏せるのですが、「新キャラクターを紹介したいのですが、紹介のしかたはすべてお任せします」という発注をいただいたことがありまして。あのときは本当に大変でした(笑)。

 キャラクターのパラメーターなどがまとめられたシートを送っていただいたので、それとにらめっこしながら、「このキャラはここが強みなのではないか?」というポイントを探していき、“いままでにない役割がこなせる”ことを前面に押し出したパターンや、“既存のスキルの上位版的な性能を持つスキルを持っている”ことを強調したパターンなどを用意してみて。

 それらのパターンをもとに、「どれが最もユーザーに刺さる広告になり得るのか、A/Bテスト(※3)をしたいです」と申し出て、そのための予算を作って……と。

※3……異なる複数のパターンを比較して、成果が出ているほうを採用する手法。

――それほどまでに手探りでバナー制作をするケースも、なかにはあるのですね。

鈴木:本当にレアなケースではあるのですが、イチからご提案ベースで広告施策を作り上げていくという貴重な経験を蓄積することができました。

 ゲーム会社さんのなかにはプロモーション業務を限られた人数で回さなければならず、手いっぱいになられている方も多いと思うんです。そういった場合には弊社にお声がけいただければ、「なにをどのように訴求するべきか」からご提案できるノウハウがございますので、お力になれるかと思います。

――おふたりのお話を伺っていると、やはりゲームに対する深い理解が求められるお仕事なのだなと感じます。

鈴木:そこは重要ですね。たとえば2名のキャラクターを渡されて、「このふたりでバナーを作ってください。配置はお任せします」という発注をいただいたことがあって。調べてみたら「じつはこの2名、どうやらゲームのストーリーのなかで結婚するようだぞ」と。

 そうなったときに、バナーでこのふたりを意味深に向かい合わせるようなデザインにしてみたところ、クライアントさまからも喜んでいただけましたし、実際にバナーとして掲示された際にユーザーさんからもかなりの反響があったようなんです。

 そうやって、ゲームやIPを知っているからこそできるデザインがあるわけですし。「バナーを作っている我々もこのゲームが本当に好きなんです!」という気持ちがユーザーのみなさんにも伝わると、やはり喜んでもらえるんですよね。

常に一番新しい表現で、人々の心揺さぶるバナーを

――最後に、今後もゲームのバナー広告を世の中に送り届けていくうえでの意気込みをお聞かせください。

山下:これはバナーに限らず広告全般に対して言えることだと思いますが、やはり世に出した瞬間が一番フレッシュでなくてはいけなくて。1回1回で消費されていくものとして、毎回が本番であるという意識は常に持ち続ける必要があると思っています。

 たとえ前回のマイナーチェンジのものであっても、古く見えてしまわないようにトレンド意識であったり、最新の色使いであったりを取り入れ続けなければならないですし。静止画か、動画か、あるいはそれに代わる何かであるのか、といった表現手法も含めて、そのときどきで一番新しいものを作り続けていきたいです。

鈴木:基本的に弊社は発注をいただいて、それに沿ってバナーを制作するという形でやらせていただいているので、これは個人的な野望に近いお話なのですが、自社発で「こういう施策をやりませんか」というご提案をしていけるようになれたらいいなと思っています。

 広告内容に関しても、現在は静止画が主流ですが、たとえば映画広告のようにシーンをつなぎ合わせた動画広告のようなものも今後はどんどん作っていきたいなと。ストーリー性のあるバナーで、もっともっと多くの方の感情を揺さぶることができたらうれしいです。

■株式会社HIKE
https://hike.inc/

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