『本屋大賞』受賞作装丁、アパレルブランドのディレクター……雪下まゆが語る、肩書きに囚われない自己表現

雪下まゆが語る、肩書きに囚われない自己表現

 様々な表現方法が存在するなかで、デジタルツールを使いこなし作品を生み出すデジタルアート。NFT(=non-fungible toke:非代替性トークン)の爆発的な流行も後押しし、改めてその価値が再定義され、注目されるアーティストも増えてきている。特集「Roots of Digital Creators」ではそんなデジタルアーティストたちのバックグラウンドに迫っていく。彼らは、どんなものに影響を受け、育ち、作品を生み出しているのだろうか。

 本当に見つめられているような、思わずドキッとしてしまう人物画を描くイラストレーター・雪下まゆ。これまで音楽アーティストのジャケットやグッズ、本の装丁など数々の作品を手がけてきたが、最近では自身のアパレルブランド『Esth.』のディレクションや、DJやラジオ好きとしてイベントへ出演するなど、活躍の幅を広げている。1つの肩書きに囚われない、様々な表現活動を行う彼女が今後目指したいものとは。(編集部)

『多重人格探偵サイコ』の影響でファッションを描くことにも興味を持った

ーー雪下さんはなぜ絵を描くことが好きになったのでしょうか。

雪下まゆ

雪下まゆ(以下、雪下):これといったきっかけはなくて、物心ついたときからずっと絵を描いていて、当時は図鑑に載っているものの絵とか描いていましたね。そこから親や幼稚園の先生から褒めてもらうこともあって自然と絵を描くことが好きになっていきました。

ーーいまのイラストのルーツとなったような、影響を受けた方などはいますか?

雪下:田島昭宇さんの作品が好きで、とくに『多重人格探偵サイコ』の絵をずっと模写してましたね。『多重人格探偵サイコ』と出会って、それまであまり注目していなかったファッションのかっこよさも絵に取り入れるようになったんです。田島さんの作品は雰囲気もですが、キャラクターのファッションがとっても素敵で。自分のいま描いている絵も、ファッションに力を入れて描いているので、影響を受けているかもしれません。

ーーご自身の作品はどのようなことから着想を得ているのでしょうか。

雪下:その時々でバラバラですが、直近で自分がずっとモヤモヤ考えていることを反映しています。昨年はメイクについて考えていて。プロのメイクさんのメイクを間近で見たときに奥深いなと思ったのがきっかけだったんですけど、メイクってすごい儀式的なものだなと思ったんです。メイクの歴史にいろんな国の儀式が紐づいていたり、そういったものが現代のメイクのルーツになっていたりもしますし。そのぐるぐると考えていたことを絵で表現してみたいと思って、自分や友達の顔をベースにメイクを施すシリーズを作っていましたね。

ーーいま着られているお洋服もその作品のひとつでしょうか?

雪下:そうです。これはさらに宗教的な要素も絡んでいて。悪魔崇拝とか宗教について調べたり考えたりするのも好きで、そういった表現を取り入れました。ただ、こういった作品を海外で展示した際に、あまり内容について触れられないことがあって(笑)。日本ではあまりないですが、海外では宗教が絡んでくると少しシビアに展示しなければならないんだと実感しました。

ーー3月にはそちらのご自身のブランド『Esth.』と写真、油絵をミックスした展示を行っていました。こちらはどういった展示だったのでしょうか。

雪下:この展示は私がモデルの子を撮影して、それを油絵に描いて、絵を洋服にプリントして、洋服をモデルに着せて、私が写真で撮って……という形で作品を作りました。私の絵っぽく表現できた展示だったと思います。

 当然、日頃私の絵を見てくださっている方の中から、新しく始めた洋服の方に興味を持って頂ける方の割合は絵とは変わってきますし、そこでどのように新しい自己表現としての「服」を見てもらうかを考えてこういう複合的な展示にしました。絵とファッションを掛け合わせることで、今後も相互的に興味を持ってくれる人が増えてくれたら嬉しいです。

本屋大賞では装丁した2作品がノミネート。創作とクライアントワークの両立

ーー2022年の本屋大賞では『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)が大賞、『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成)がベスト5入りと雪下さんが装丁を担当した作品が続々とランクインしましたね。

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(PRTimesより)

雪下:ありがとうございます。絵が好きな人以外にも自分の作品を多くの人に見てもらいたいという思いがずっとあったので、本の装丁をやることは目標だったんです。それを本屋大賞という形で知ってもらえる機会をいただけて、とてもありがたいですね。

ーー本屋大賞以外の作品でも、雪下さんが装丁された本をよく見かけます。

雪下:大学を卒業したタイミングではアーティストさんのジャケットやグッズ、Webの広告が多かったんですが、最近は本の装丁も割合としては多くなってきましたね。

ーー活動の幅が広がったきっかけはあったのでしょうか?

雪下:尾崎世界観さん、千早茜さんの『犬も食わない』で初めて装丁を担当したんですが、それがきっかけでコンスタントにお仕事いただけるようになりましたね。あとは辻村美月さんの『傲慢と善良』を描かせていただいたことも大きなきっかけだったかなと。

ーーご自身の作品とこういったクライアントワークの両立はどのようにしていますか?

雪下:大学生までは主に自主制作しかしておらず、クライアントワークに自分の作品がハマるとは思っていなかったので、こうやってお仕事をいただけてありがたいです。クライアントワークは結構楽しくて、たとえば本の装丁でいうと、登場人物やシーンを想像して自分の絵に落とし込んでいくという過程が楽しいですね。

 一方で作家活動とクライアントワークの両立は難しくて悩んでいることでもあります。だからうまくバランスをとるために、昨年はクライアントワークが多かったので今年は自分の個展を開くなど作家活動も増やしていこうかなと思っています。やっぱりお仕事と自分自身の創作を並行に進めていると、頭のなかがごちゃごちゃになってしまうので、個展の前は少しお仕事を控えたりとか、うまく調整するようにしています。

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