ゲームは本当に「リアルなほうがいい」のか? 『エースコンバット7』や『グランツーリスモ7』の例から考える

ゲームの「リアリティ」について考える

 線や点で表現された記号的なものから始まって、ドット絵やCGなどの多彩な技術を取り入れたビデオゲームは、いまや世界的な娯楽になっている。ゲーム機でいうなら、PlayStation 4とNintendo Switchの販売台数はそれぞれ1億台以上。最近のヒット作でいうなら、カプコンの『モンスターハンター:ワールド』は約1800万本、任天堂の『あつまれ どうぶつの森』は約3800万本、フロム・ソフトウェアの『エルデンリング』は約1300万本を売り上げた。オンラインやオフラインを問わず、さまざまなゲーム大会が日夜世界中で開かれ、ものによっては億に近い人と賞金が動く。“サブ”とは言わず、ゲームがただ“カルチャー”と言われる日も遠くはないだろう。

 一方で、リアリティの線引きは年々難しくなっているように思える。少し前にTwitterで“Unreal Engine5”が話題になったとき、そのエンジンによって表現された日本の駅は、私には現実と区別がつかなかった。

「これは実写?それとも3D?」な駅の映像が話題 『Unreal Engine 5』がゲーム体験にもたらすものとは

『Unreal Engine 5』を用いて表現された3D映像が話題を呼んでいる。  制作したのは、海外の3Dアーティスト・Lo…

 画質が変われば演出も変わる。いままではアニメ調だから合っていた演出も、現実さながらの画質に合わせるのなら、違和感がないようこぢんまりとするのが常だ。ゲームではそのバランスがとくに難しい。ゲームは書籍や映像作品よりもはるかに時間を食う娯楽であり、その苦労に見合った見返りをプレイヤーに与えるよう、開発者は作品をデフォルメしなければならない。

 本稿では『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』と『グランツーリスモ7』というふたつの作品を例に挙げながら、ゲームにおける現実性と娯楽性の両立について書いていく。

リアルな飛行体験か、絶対不動のエース体験か

 『エースコンバット7』は、2019年に発売されたフライトシューティングゲームで、「エースコンバット」シリーズの最新作にあたる。2004年に発売された『エースコンバット5』から約10年後の世界を舞台に、プレイヤーはオーシア空軍のパイロットとしてエルジア王国との戦いに身を投じる。

 ナンバリングタイトルとしては『エースコンバット6 解放への戦火』以来12年越しの続編ということで、対応機器も当時のXbox 360から現行機のプレイステーション4とXbox Oneに移行。画質や質感が向上したのはもちろん、無人機をテーマにした物語や緻密に再現された航空機も話題になった。各機体は丹念に作り込まれており、コックピット内部の計器類も当然再現されている。さらに飛行高度や姿勢がしっかり反映されているのだから、飛行機好きにはたまらない。

 もうひとつ、本作を語るうえで欠かせない要素がある。それは「気候」だ。本作ではリアルな気候を再現していて、雨雲に入ると操縦席を覆っているガラスに水滴が付いたり、放っておくと凍ったりする。当然見通しは悪くなり、雲のせいで自機の性能は下がり、敵機を補足しにくくなってしまう。ほかにも、気流が乱れた場所では思うように飛べず、落雷を受ければ電気系統に異常が生じ、画面が一時乱れることもある。現行機の画質にふさわしい、リアルな演出だった。

 気候という本作の新要素について、プレイヤーの評価は割れた。「リアルな飛行体験が楽しい」、「爽快感がなくてつまらない」。SNSや通販サイトを見回ると、肯定派と否定派の意見の詳細はおおむねそういうものが多い。

 私はどちらかといえば肯定派だ。まさにリアルな飛行体験が楽しかった。だが、私が楽しかったと言えるのは、厳しい気象のなかでもミッションをこなせるだけの技量を持っていたからに過ぎない。機体が流されても、視界が凍り付いても構わずに敵機を追い回すことができたおかげで、本作のリアルで厄介な天候は、むしろ自分がエースパイロットとしてその場にいることを錯覚させる舞台装置として機能した。

 下手だとそうはいかない。悪天候でまともに飛べず、空中戦で逃げられる、地形には衝突する、効率よく動けず時間制限が過ぎる。とてもじゃないが、エースにはなれないだろう。敵機のミサイルから逃れるために雲を利用することもできるが、そもそも雲を利用できるくらいの腕が自分にないと意味がない。結果、本作の核であるはずのエース体験を邪魔するものとして、リアルな気象が逆に足かせになる。腕前次第で、本作の天候に対する印象がガラリと変わってしまうのだ。

 さまざまな制約下の空で空戦機動を取るという努力に対し、プレイヤーが自分はそこにいるという臨場感を得られる。腕が立つ人にはそれで十分だが、下手な人にはマイナスでしかない。ミッションの成否も懸かる要素にしては、努力と見返りのバランスが悪かった。悪天候のミッションでは獲得できるゲーム内通貨が増えて機体やパーツを買いやすくなるとか、もっと腕前に依らないゲーム的な見返りがあれば、否定派の反応も変わったかもしれない。

 リアルな空戦を描くために気象条件を取り入れるのはおもしろい。より深いエース体験をするにはむしろ必須だろう。一方、エンタメである以上はプレイヤーを喜ばせなくてはならないわけで、遊ぶ側に都合が良いようどこかで折り合いをつける必要がある。その明確な基準が存在しないのが、ゲームの難しいところだ。

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