名前の由来は“北欧の王様”? 近距離無線通信に革命を起こした規格「Bluetooth」を改めて解説

「Bluetooth」、意外な名前の由来

もうひとつのBluetooth「Bluetooth LE」

 ここまで高速化を進めてきたBluetoothだが、同時に、より省電力な方向での進化も模索されていた。そしてバージョン3.0からほぼ間を開けずに登場したバージョン4.0では、大幅な省電力化を果たした「Bluetooth Low Energy」(LE)が登場した。Bluetooth LEでは通信速度が1Mbps(実行速度は100kbps以下)と低速になった代わりに、ボタン電池1つで数ヶ月〜数年の利用が可能なほど省電力化されており、シンプルで低価格に実装できる。家電やセンサー機器などが長期間、一度に短時間(数秒程度)しか利用しないような用途を想定している。

 Bluetooth LEは、元々ノキア社が「Wibree」という名称で開発していた規格をBluetoothに統合したものだ。このため実はバージョン3.0までのBluetoothとは独立した存在で、互換性がない。各デバイスはBluetooth BR/EDRとBluetooth LEのどちらか片方をサポートするか、両方をサポートするかを選択できるが、現在は両方サポートしている機器が多い。なお、Bluetooth 3.0までを「Bluetooth Classic」と呼ぶこともある。

 Bluetooth LEには、「ブロードキャスト」と「コネクション」という2つの通信方式がある。コネクションは従来通り、マスターとスレーブ(セントラルとペリフェラルとも呼ぶ)の関係があり、ペアリングが必要で、コネクションに参加した機器同士でしか通信できない。一方ブロードキャストでは、各デバイスはデータを発信するデバイス(ブロードキャスター)と受信するデバイス(オブザーバー)側に分かれているが、各デバイスは両方の役割にもなれるし、片方だけでもいい。

 この仕組みを利用して「ビーコン」という使い方が登場する。ブロードキャスト専用のデバイスを置いておき、スマートフォンなどが近付くと、そのデバイスに向けてデータ(メッセージ)が届けられるというものだ。たとえば、店に入ると割引クーポンが送られる、特定の品物に近付くと商品の説明が表示される、といったことがBluetoothで可能になる。これを利用した遺失物捜索用タグ製品も市販されており、同一製品を使っている場合、近くをスマートフォンが通るとタグからのブロードキャストを拾い、その時の位置情報をクラウドにアップロードすることで、タグがGPSを搭載していなくても最新の位置情報がわかるという仕組みだ。

 また、直接通信が送れない距離にある機器へも、機器同士の通信を通じて到達できる「メッシュネットワーク」が構築できるようになった。メッシュネットワークによって実現するものとしては、例えば商業施設などの照明制御だ。広大な環境でも、強力な出力の無線機器を使ったり、隅々まで配線を引いたりすることなく、照明を細かく制御できる 。IoT分野においてもBluetoothメッシュネットワークは活躍するだろう。

 メッシュネットワークではブロードキャストの仕組みを使って機器同士が網の目のようなネットワークを構成する。どこかのノードが欠落しても他の経路で到達するため、冗長性が高い。

 メッシュネットワークでは各ノードが送受信したメッセージのリストを作り、リストにあるものは無視、ないものは転送するというルールで順繰りにリレーしていく。こうした技法を「フラッディング」と呼ぶ。

 Bluetooth LEの最初のバージョンであるバージョン4では、Classicと比べて通信速度が大幅に遅くなったが、バージョン4.1、4.2と改良されるにつれて通信速度も上昇。バージョン4.1ではワイヤレスイヤホンでお馴染みになった「自動再接続機能」もサポート。一度ペアリングした機器であれば、接続操作を行わずとも、利用可能になれば自動的に再接続できるようになり、利便性が高まった。バージョン5では最大通信速度が2Mbpsまで高速化したほか、通信速度を125kbpsまで下げる代わりに、到達距離が最大で400mまで拡張された。バージョン5.1では電波の受信角度(AoA)や放射角度(AoD)を使った方向探知機能も搭載されている。Bluetooth HSの需要がさほど大きくないこと、省電力への需要が高まっていることもあり、今後はBluetooth LE系の技術が主流となっていくだろう。

 ところでBluetoothという言葉、英語で「青い歯」という意味だが、実はこれ、歴史上の実在の人物から取られている。これは10世紀のデンマーク王、ハーラル一世ゴームソンのあだ名「青歯王」が元になっており、ハーラル一世がデンマークとノルウェーを交渉によって無血統一した功績にちなんで、複数の機器をつなぐ通信技術の名前として、また乱立する無線規格を統一したいという願いを込めて、Bluetoothを推進していたスウェーデンのエリクソン社の技術者によって命名された。ハーラル一世がなぜ「青歯」と呼ばれたかについては、歯の一本が死歯(神経が死んだ失活歯)で青く変色していたという説のほか、王の権威を示す青い服を纏っていたため、「青い王(族長)」を表す単語が訛ったという説もある。Bluetooth機器を使うとき、はるか北欧の歴史に思いを馳せてみるのもいいだろう。

(メイン画像=Unsplashより)

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