意外とわかっていないテクノロジー用語解説
名前の由来は“北欧の王様”? 近距離無線通信に革命を起こした規格「Bluetooth」を改めて解説
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。第14回は「Bluetooth」について。マウスやキーボード、ワイヤレスイヤフォンなどの周辺機器で利用されるBluetoothだが、Wi-Fiとの違いや存在意義がよくわからないという人もいるだろう。そこで、今回はIoTでも活躍する無線技術Bluetoothについて紹介したい。
周辺機器をつなぐモバイル向け無線技術
Bluetoothが登場する前、パソコンや携帯電話、周辺機器との接続は手段が統一されていなかった。接続方法としてはシリアルケーブルや赤外線通信「IrDA」などが使われていたが、ケーブルが太い、通信速度が遅い、接続の際に機器と相対して置かないといけないなど、利用上不便なことも多かった。
そこで、あらゆるモバイル機器をワイヤレス接続するための規格としてBluetoothが開発された。Bluetoothではモバイルに最適化するため、小型・軽量で低消費電力であること、1対多の接続が可能であること、音声とデータを統合的に扱えること、電波状況に応じて適切にデータパケットを伝送できること、セキュリティがしっかり守られることを目標として設定された。
同じ2.4GHz帯を利用するWi-Fiとの差は、利用目的の違いだ。Wi-FiがLAN(イーサネット)の代替として、高速通信と広いエリアでの利用を前提としているのに対し、Bluetoothは周辺機器を対象としており、通信速度は最大で1Mbpsと、そこまで速くなく、利用距離も数m程度の想定だ。また、Wi-Fiが基本的にアクセスポイントを利用するのに対し、Bluetoothではマスター(ホスト機器、PCやスマホ)と、最大7台までのスレーブ(デバイス)が直接接続される、ハブ&スポーク型のネットワークになっている。
マスターとスレーブは最初に「ペアリング」する必要がある。ペアリングでは双方が「パスキー」を入力することでペアリングが完成する(マスターのみ入力する場合も多い)。一度ペアリングが成立すれば、次回からは単純に接続するだけでいい。スレーブをほかの機器に接続するときは、一度ペアリング解除の手続きを行なって、再度ペアリングの手続きを行う必要がある(複数の機器とペアリングできる機器もある)。勝手に他人のBluetooth機器に接続したり、勝手に使われたりしてしまうことを防いでいるわけだ。
マスターとスレーブは「ピコネット」と呼ばれるグループを構成する。面白いのは、ピコネットのマスターは、それ自体が他のピコネットのスレーブとして動作することもできる点だ。たとえば、ヘッドフォンをスレーブとして接続しているスマホ(マスター)が、同時にPC(マスター)のスレーブとして接続し、ファイルの交換や、モデムとして機能することもできる。こうした重層的な構成を「スキャッターネット」と呼ぶ。この構造により、柔軟な接続が実現できている。
BluetoothではUSBのように、マスターとスレーブは直接接続される。スキャッターネットのような重層構造でも、上位のマスターはスレーブにつながっている孫スレーブにアクセスすることはできない。
Bluetooth機器には電波の強さによってClass 1〜3までに分類されており、下から約1m、約10m、約100mと、利用可能な距離が分かれている。約100mまで飛ばせるClass 3機器は消費電力も高いことから、主にパソコン側のレシーバーなどで採用されていることがほとんどで、大半はClass 2(実行距離で5m前後)対応となっている。
各機器には「プロファイル」が設定されており、マスターとスレーブ双方が同じプロファイルをサポートしていることで、初めて利用できる。また、プロファイルをサポートしている場合は特別なドライバーソフトなども必要ない。プロファイルは機能によって細かく分かれており、複数を組み合わせて1つの機能を実現していることも珍しくない。プロファイルの存在によって機器の機能や接続性がわかりやすくなる反面、Bluetooth自体のバージョンアップに伴ってプロファイルも増え続け、逆にわかりにくくなっている側面もある。
Bluetoothは最初のバージョン1から、バージョン1.1、1.2とアップデートされるに従い、対応するプロファイルが増え、Wi-Fiとの干渉対策が施される。そしてバージョン2.0ではEnhanced Data Rate(EDR)モードが導入され、最大3Mbpsまで拡張される(従来のBluetoothはBasic Rate:BRと呼ばれる)。バージョン2.1ではペアリングの手続きが簡素化されたほか、非接触通信規格「NFC」に対応。これによってスマートフォンとヘッドフォンなどが、NFCでタッチするだけでペアリングできるようになった。さらにバージョン3.0では、最大24Mbpsの通信が可能なHigh Speed(HS)モードがオプションで導入された。いずれも最新の機能を利用するには、マスターとスレーブ、双方が対応するバージョンをサポートしている必要がある。