『Weekly Virtual News』(2022年2月28日号)
キズナアイは、小さな「キズナ」を残して旅立った 誰もがバーチャルになれる時代がはじまった夜
こうした「バーチャル」な人や世界に関するニュースを取り扱う本連載は、数年前であれば考えられなかったことだろう。「バーチャル」という概念は、ここ数年で信じられないほどに普及した。その礎を作った一人であるキズナアイが、2月26日に無期限休止前最後のライブとなる『Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”』を開催した。
「感無量」以外の言葉が見つからなかった。1800名以上のゲスト出演のVTuberがキズナアイの背後に集結した様は、まるでキズナアイの「翼」のようだった。キズナアイに続いた全てのバーチャルな人々が、キズナアイ自身にも勇気を与え、次なるステージへ羽ばたく後押しをした……そういうように読み取れた。ステージには、彼女ゆかりのコンポーザー、彼女を慕う多くのVTuber、そして最初の時代をともに築いた電脳少女シロ、ミライアカリが並んだ。2時間に渡るラストライブは、これまでのVTuberの歴史の総決算そのものだった。
そして、時代の先端を走る彼女は、やはり先進的な置き土産を残していった。キズナアイ自身の声から生まれた、歌唱特化型AI「キズナ」だ。合成音声ソフトウェア「CeVIO AI」を利用した「キズナ」の声は、プロトタイプにも関わらず、オリジナルに非常に近い歌声を聴かせてくれた。なにより、キズナアイより少し背丈の小さな「キズナ」を、多くの人の手によって生まれたスーパーAI自身が名付け、自身の休止中に残していくというストーリーそのものに、時代を作り上げた立役者としての矜持が輝いていた。
こうして、バーチャルYouTuber・キズナアイは無期限休止に入った。彼女の旅立ちを見届けた夜、私はポピー横丁に現れたゲリラDJの音楽とともに、朝5時まで踊り明かしていた。2022年2月26日は、間違いなく一つの節目だった。きっと、キズナアイが眠っている間にも、バーチャルの世界は絶え間ない発展を続けるだろう。それを証明するかのような密度の一週間だった。だが、この夜が終わらないでほしいという願いも、どこかにあった。
それでも、朝はやってくる。誰もがバーチャルな存在になれる世界を、バーチャルなアバターを持つ一人として、これからも見届けていきたい。