キズナアイは、小さな「キズナ」を残して旅立った 誰もがバーチャルになれる時代がはじまった夜

キズナアイが旅立ち、新たな時代がはじまる

 2月26日に発売された『VRChatガイドブック ~ゼロからはじめるメタバース』は、現役のVRChatヘビーユーザーが手がける「VRChat」の入門書だ。特徴的なのは、「VRChat」のサービス仕様や、周辺技術の解説のみならず、おすすめのワールドやイベント、「VRChat」で活躍している人の声、そしてなにより、マナーや楽しみ方のコツについても記している点だろう。本としてのあり方は、Webサービス解説本というより、外国旅行のガイドブックに近い。それは、もう一つの世界たるメタバースに対する、最も的確なアプローチと言えるだろう。

 この本の発売日に、出版記念イベントがVRChatワールド「ポピー横丁」にて開催された。数あるVRChatワールドの一つである「ポピー横丁」は、新宿ゴールデン街を彷彿とさせる飲み屋街だ。そこには、アクティブなプレイヤーから、この日に「VRChat」を始めた人まで、たくさんの人々が集っていた。

 活気あふれる飲み屋街に、私は居心地の良さを感じ、長居していた。初対面の人と、酒を酌み交わしながら語らうのが楽しいからでもある。だが一方で、激動だったこの一週間を、自分の中で消化したかったからかもしれない。

 メタバース業界は加速が続く。2月21日には、株式会社ポリゴンテーラーと株式会社ポリゴンテーラーコンサルティングの法人設立完了と、1億円の資金調達を発表した。アバター販売ECや、メタバース参入支援を担う「ポリゴンテーラーグループ」は、代表取締役も含め、全従業員が数千時間ものメタバース滞在時間を誇る熟練者で構成されている。「TRUSTED.」というコーポレートスローガンのもと、住人視点の確かな事業展開に期待がかかる。

 一方、株式会社Gugenkaは、2月24日から「VRChat」の法人契約代行サービスを開始した。「VRChat」の公式パートナーでもある同社は、過去に「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」を筆頭とした、質の高いVRChat開催イベントを手掛けてきた。ワールドの速やかな公開や、外部誘導リンクや広告の設置など、公式パートナーの強みを活かしたスムーズな企業参入の入口が国内に開かれたと言えるだろう。

 「VRChat」向けアバターには、「人気3Dモデラーの新作」という概念が存在する。2月23日発売の「リーファ」や、2月26日発売の「桔梗」など、この一週間はそうした人気モデラーが手掛ける新作アバターが多く発売された。アバターのみならず、対応衣装も連動して一斉に発売されており、ユーザーたちは思い思いのカスタマイズを始めている。アバター市場は、芽吹きの段階を超えつつある。

 この一週間は、VTuber業界も大きな動きを見せた。NIJISANJI ENからは、男性5名で構成された新グループ「Noctyx」がデビューした。デビュー楽曲を引っさげてデビューするNIJISANJI ENは、いま最もプッシュの強い勢力の一つだ。今回のデビューでNIJISANJI ENは男女ともに10名ずつとなり、男女ともに豊富なタレントを有する国内にじさんじに近い形になった。幅広いタレント層による新たなファン獲得が、英語圏でも期待される。

 ホロライブのインドネシア向けグループ・ホロライブIDのムーナ・ホシノヴァは、同グループで初めてYouTubeチャンネル登録者100万人を達成した。2018年からVTuber市場が存在したインドネシアだが、ムーナ・ホシノヴァはインドネシアVTuberとしても初の100万人達成者とのことだ。一方で、インドネシアVTuberの草分けともいえるMaya Putriが、実に2年ぶりに謎めいた動画を投稿している。インドネシア圏の動きにも注視が必要だろう。

 なにより衝撃だったのは、ホロライブ・潤羽るしあの契約解除だろう。100万人達成者の一人でもあるトッププレイヤーに、突如としてその活動にピリオドが打たれたのだ。その理由は「第三者への事実と異なる情報の流布ならびに業務上のやり取りを含む情報流出」である。潤羽るしあに関しては、直近でいわゆる“炎上”が起きていたものの、複雑な話題なので本稿では詳細な言及は避けたい。いずれにせよ、企業運営のVTuberにおけるコンプライアンス遵守の重要度は、この一件でさらに引き上がったのはたしかだろう。

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