サブスクやネットショップのレコメンド機能は大脳を甘やかす? 専門家に聞いてみた

レコメンド機能は大脳を甘やかす?

レコメンド機能で人間は“多様性”を失いかねない?

――レコメンド機能のデメリットはありますか?

玉宮:私たちは認知的倹約家であると同時に“考える葦”でもあります。脳科学の観点から、私たちがほかの動物と異なる点として、発達した大脳があります。大脳は私たちが複雑な思考をする際、とても重要な機能を担っているのです。そして、“大脳は使い続けることで、その機能を維持できる”などが研究から明らかとなっています。便利なレコメンド機能に頼り切って自ら考えなくなることは、大脳にとってあまりよくないことかもしれません。

――「時間節約=考える機会の喪失」と言えますからね。

玉宮:また、社会心理学からもレコメンド機能について様々な指摘が可能です。私たちは自分と同じ趣味・嗜好の人を好む傾向にあります。これは、自分と相反した価値観が社会的に”正しい”ということを、目の当たりにすることによって生じる不快な感情“認知的不協和”を避けるため、と考えられています。そのため、ファンクラブに入ったり、SNS上で同じ趣味の人同士でつながったりするのです。

 レコメンド機能は、私たちが認知的不協和を避けることに一役買っています。なぜなら、レコメンド機能はその人と似たような人が過去に行った行動に基づいて選択肢を呈示してくれるため、自らの趣味・嗜好と異なった選択肢を見ないですむからです。

――心地よくない意見や価値観を遠ざけるのですね。

玉宮:その通りです。“不快な思いをしないで済んでいる”という意味で素晴らしいことですが、裏を返せば、レコメンド機能によって実はとても貴重な機会を失っているとも言えます。現代のキーワードの1つに“多様性”が挙げられますが、社会は色々な価値観を持った人々によって構成されています。自分と違う価値観を持った人々と接することで、新たな発見が可能になり、成長することができます。

 しかし、レコメンド機能に頼りすぎると、いつも同じ趣味・嗜好の物事ばかりと接することになり、価値観が単一化してしまいます。近年、世界中で問題となっている政治的分断は、まさにこの典型例と言えるでしょう。

たまにはレコメンド機能と離れることが重要

――たまには心地よくないものを受け入れる必要がありそうですね。

玉宮:はい。想定外の新たな発見を“セレンディピティ”と言いますが、私たち研究者はこのセレンディピティを頭の片隅に置きながら研究を行っています。そうすることで、自らの仮説の延長線上にはない、これまで明らかになっていない真実にたどり着ける可能性があるからです。レコメンド機能はとても便利で役に立つものですが、たまには自発的に情報を収集し、選択をすることで、思いもかけない素晴らしいものに出会えるかもしれません。

――レコメンド機能は今後、どのように進化していくと予想していますか?

玉宮:行政による規制との兼ね合いにもなりますが、領域を超えたデータベースの構築が考えられます。たとえば、ECサイトの購買履歴データと携帯基地局やSuicaなどの移動・交通系データを統合することで、さらに複雑化しつつも効果的なレコメンドが誕生するかもしれません。

 また、量子コンピューターの汎用化によってレコメンドエンジン(AI)の処理速度が飛躍的に上がり、今までは不可能だった、より高度なアルゴリズムに基づいたレコメンドが瞬時に提示されるといったことも予想されます。

(画像=Unsplashより)

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