『マトリックス レザレクションズ』から考えるメタバース 仮想空間とともに生きていくということ

巨大テックが支配するメタバース社会を我々はどう生きるべきか

 『マトリックス』はサイバーパンクのスタイルで、人が生きるとはどういうことかを問いかけるシリーズだ。今作は、メタバースというリアルとは異なる空間を獲得し始めた人類が、その新たな世界でいかに生きるべきかを示している。

 今作の敵が投げかける問いは非常に切実だ。ネオたちは人間たちの自由への意思を信じていたからこそ、前作では解放のために戦ったのだろう。だが、今作の敵は、結局多くの人間は支配されることを望むだろうと言う。

 メタバースとはデジタルネットワーク上に展開する空間だ。現実には、そこは必ずどこかの企業が提供する空間である。グーグルで検索すればその検索履歴が残るのと同様、メタバース空間上での活動は必ず何かしらの痕跡を残し、それは企業のデータとしてビジネスに活用されていく。

 我々がただその空間で活動すると、それが企業の肥やしになるわけだ。『マトリックス』の世界では、マシンが人間を発電の材料にしていたが、我々の現実では人の行動が企業の材料になるわけだ。

 ある意味、メタバースで生活するというのは、そうした巨大テック企業の支配下で生きるということでもある。メタバースの普及は、巨大テック企業の支配構造を強化するだろうと主張する者もいる。

「リアルと同じ触感をもった仮想現実を構築するには、データサイエンスの助けも重要である。いわゆるビッグデータを収集し、どうすれば利用者が喜ぶのかを抽出する。そのとき、利用者が喜ぶキーファクターを見つけられるかどうかは、残酷なくらいデータのサイズに依存する。
 アクティブユーザが1000人ほどしかいないニッチなゲームメーカーに、勝ち目はない。
 <a href='https://shinsho.kobunsha.com/n/nb1175862b96b'>メタバースはテックジャイアントの支配構造を強化する―『メタバースは革命かバズワードか~もう一つの現実』by岡嶋裕史|光文社新書</a>」

 人々がメタバースで過ごす時間が長くなればなるほど、人々の行動履歴のデータは蓄積され、そのデータを用いてさらに良いサービスを提供し、人々はその空間でより長い時間を過ごすことになるだろう。そうなれば、人々のプライバシーはサービス提供事業者には筒抜けであり、プライバシーは失われていく。そういう危険がありながらも、ビッグデータに基づいて提供される快適なサービス提供に人は抗おうとは思わない。前述した岡嶋裕史氏は、そんな状態を「快適な犬小屋(https://shinsho.kobunsha.com/n/nd46cd83c3aba)」と表現する。

 すでに人々はSNSで自分の都合の良い意見ばかりを見るようになり、それぞれが心地よい空間に耽溺するようになっている。高度なアルゴリズムによるパーソナライズされたオススメ情報だけを頼りに何の動画を観るか決める人も多いだろう。そういう傾向はこれからも加速していく。そんな時代に、仮想空間で生きること自体を否定するのは現実的ではないだろう。

 では、そんな時代に我々はどう生きるのか。仮想空間を否定するのではなく、仮想空間とともに生きていくことを模索するべきだ。しかし、ただ仮想空間で犬のように飼い慣らされるのではなく、「個々人の人生の選択肢を拡げる方向へ作用するよう、考え、利用していくこと(岡嶋裕史氏)」を考えなくてはならない。ネオとトリニティがマトリックスの世界を作り変えていくと宣言したように。

 仮想空間がこれからの生きるプラットフォームとなるのなら、そこをより良いものにしていくために絶えずコミットし続けることが大切だと『レザレクションズ』は描いている。

 テックジャイアントたちによるメタバース支配が近づく時代に、『レザレクションズ』は、過去のシリーズがこれからの時代を予見したように、またも先見的な姿勢を示しているのだ。

■公開情報
『マトリックス レザレクションズ』
現在公開中
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカー・チョープラー、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
配給:ワーナー・ブラザース
(c)2021 WARNER BROS. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:matrix-movie.jp
公式Twitter:@matrix_movieJP

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