eスポーツ新興勢力・FENNELが感じた、ファッション界進出の可能性
FENNELは、国内のeスポーツ関連企業の中でも、ファッション事業に注力する数少ない企業の1つだ。同社は2019年の8月にeスポーツのチームや大会を運営する組織として発足し、10月に法人化。2021年に入ってからは企業ロゴや自社サイトのリニューアルをはじめとしたクリエイティブ領域への注力を開始した他、日本最大規模のゲーミングベース「FENNELベース」の設立など、事業の多角化も行っている。
同年にファッション事業も本格的に始動。ショールームの設立やポップアップストアの開催など、ファッション領域での活動も精力的に行っている。「2022年以降はファッション事業をさらに加速させる」と語る弱冠23才でFENNELの社長を務め、「仏」という名前でストリーマーとしても活躍する堀田・マキシム・アレクサンダー氏に、ファッション×ゲームの可能性を探った。(石塚 振)
会社設立は大学3年生の時
ーー最初に、FENNELを設立した経緯について教えてください。
堀田・マキシム・アレクサンダー(以下、堀田):FENNELの共同創業者で会長の遠藤(将也)に出会ったのがきっかけでした。出会った当時、僕は大学3年生で、就活を控えていたのですが、「ビジネスの経験があった方が就活も有利になるのではないか」と思っていて。自分自身が「仏」という名前でストリーミング活動をしていたこともあり、ゲームの配信事業でビジネスができないかと考え始めました。
そんな時に、不動産の領域でビジネスを行っていた遠藤とTwitter経由で知り合いました。彼も『荒野行動』をやっていて、「ゲームで事業をやってみたい」と思っていたことや、たまたま僕の配信を見てくれていたこともあり、コンタクトしてくれたんです。最初はSNS経由ということもあり「少し胡散臭いな」とも思っていたのですが(笑)、送ってもらったポートフォリオを見たところ、すごくしっかりされている方だと思ったので実際に会ってみました。会ってからは2ヶ月ほどで会社の設立まで進みましたね。
ーーかなりスピーディーに会社を設立したんですね。
堀田:そうですね。ただ、設立当初はチームや大会の運営こそしていましたが、正直、事業と言える状態ではありませんでした。特に最初の1年間は、とりあえず配信機材などに投資をして、eスポーツのビジネスについて学んでいた、という側面が大きいです。事業としても、組織としても企業らしくなってきたのは今年に入ってからだと思います。
事業の多角化、組織体制の見直しに繋がった1つのミス
ーー企業らしくなってきたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
堀田:昨年の冬に実施した『VTuber最協決定戦』という大会で、集計ミスが起きたのがきっかけです。ミスの要因はいろいろあったのですが、根本を突き詰めていった結果、そもそもミスを事前に防げるような組織体制ではなかったな、と痛感しました。そこで僕自身もゲームに割く時間を減らし、さらに経営に集中するようにしていったんです。FENNELを組織として大幅に見直しつつ、eスポーツの部門の拡大やスポンサーの獲得にもさらに注力するようにしました。
ーーその他にも、企業ロゴと自社サイトのリニューアルといったイメージの刷新や、ファッション部門の設立など、クリエイティブにも注力されていますよね。
堀田:もともとファッションの事業は友人から「ニューヨーク・ヤンキースがキャップなどを展開しているように、FENNNELもファッションをやってみてはどうか」と言われていたこともあって、挑戦したいなと思っていましたし、それにともない、企業ロゴなどもよりシンプルかつシンボリックなものにしなければならないな、と考えていました。
そういったなかでクリエイティブに力を入れるようになったのは、今年の初めにファッションディレクターの方と出会ったことが大きいです。彼がファッション事業全体の統括をしてくれたり、ロゴを考えてくれるデザイナーや自社サイトを設計してくれるアートディクレターを紹介してくれたりしています。今年の5月にオープンした「FENNELベース」の空間作りにも協力してくれていますね。
ーーファッションディレクターの方とは、どのようにして知り合ったのでしょうか?
堀田:設立時と同様、Twitter経由です。「ファッション事業を始めよう」と考え、Twitterで募集をしたところ、応募してくれました。彼自身も『荒野行動』をプレイしていたのと、当時働いていた会社で働き続けるか否か悩んでいた時期でもあったようでした。現時点で名前は出せないのですが、かなり有名なセレクトショップで働いていた方で、ポートフォリオも素晴らしかったのですぐに採用しましたね。
クリエイティブへの注力が、会社にもたらした成果とは?
ーークリエイティブ領域に力を入れ始めたことによって、会社には何か良い効果が出ているのでしょうか?
堀田:まず、企業のブランディングには大きく貢献しているのかな、と思っています。たとえば「スポンサードしたい」という依頼をくれた企業が、FENNELを選んだ理由に「クリエイティブ面にこだわっている企業だから」ということを挙げてくれて。スポンサー依頼の1つの要因となっていたみたいでした。
特にファッション事業はFENNELの中でも大きなキャッシュポイントになっています。企業としてはまだ投資フェーズにありますが、ファッションはギリギリ黒字化できていて、客単価も比較的高い。会社の一部をショールーム化してファッション業界の方を招いたり、ポップアップイベントで販売したりもしているのですが、評価も悪くないのかな、と思っています。現時点では『荒野行動』のファンや僕を知ってくれている方がメインの客層ですが、今後より客層を拡大していければ、企業全体の成長を加速させる事業になるのかな、と思っています。
ーー具体的には、どのように客層を拡大しようと考えているのでしょうか?
堀田:今年1年は、クオリティーの検証をメインに行ってきました。その中で、海外のFaZe Clan、日本のZETA DIVISIONやREJECTといったファッション領域に進出しているチームとも、クオリティーで勝負できる段階まで来たと考えています。来年はそのクオリティーをさらに上げつつ、アプローチする対象を拡大するために、ファッション業界とのコラボレーションといった企画や、PRなどを積極的に仕掛けていくつもりで、水面下で動いています。
具体的な案は今後考えなければならないのですが、海外への進出もしたいですね。僕らとしては、世界に進出できているストリートブランドを参考にしつつ、eスポーツにうまく落とし込みながら成長していければと思っています。今の僕らの規模感からすると、大口を叩くようで恥ずかしいのですが、Supremeのような世界観のブランドを目指したいですね。