糸田屯が選ぶ、2021年のゲーム音楽配信リリース作品10選

糸田屯が選ぶ、2021年のゲーム音楽

 2021年のまとめとして、今年発表されたゲームサウンドトラックから、配信リリース作品を中心に個人的なお気に入りを10タイトル選んだ。

Panzer Dragoon: Remake The Definitive Soundtrack

 

 ポーランドのForever Entertainmentがセガよりライセンスを受けパブリッシングを担当し、MegaPixel Studioが開発を手がけた『パンツァードラグーン:リメイク』は、セガサターン草創期を象徴する3Dシューティングのフルリメイク作品。オプション設定で東祥高のオリジナルBGMと、『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』『パンツァードラグーン オルタ』の楽曲を手がけた小林早織によるアレンジBGMのどちらかを選択してゲームプレイが可能であり、歴代コンポーザーの音楽的な共演となった。『パンツァードラグーン』シリーズ音楽の方向性に先鞭をつけ、2012年に世を去るまでシンセサイザーアーティストとして独自の音楽を追求し続けた東の功績と精神性に小林は多大なリスペクトを払い、オリジナルのフレーズを活かしつつ、現代の機材を駆使したシンフォニックサウンドのもとに要所で大胆なアプローチを展開。オリジナル版では野趣あふれるデジタルサウンドとストレートなイメージで貫かれた各ボステーマは、ダイナミックな起伏を伴って生まれ変わった。

Friday Night Funkin' OST, Vol. 1&Vol.2

 

 オンラインゲームジャム「Ludum Dare」の第47回(2020年10月開催)でデモ版が制作(紹介文では「架空のプレイステーション情報誌の2003年5月号」の絶賛コメントが見出しに引用され、絶妙な笑いを誘う)。その後、作品投稿サイトNewgroundsでアップグレード版が発表されるやいなや圧倒的な支持を獲得した『FRIDAY NIGHT FUNKIN'』は、『DanceDanceRevolution』や『パラッパラッパー』を彷彿とさせるゲームシステムを持ったオープンソースのリズムバトルゲーム。ファンコミュニティも活況を呈しており、2022年にはフル版『Friday Night Funkin': The Full Ass Game』のリリースが予定されている。ゲーム制作チームの一員であり、ソロではシンセウェイヴ/ヴェイパーウェイヴ作品をリリースしているKawai Spriteことアイザック・ガルシアによるヒップホップ/エレクトロポップ曲も非常にこなれた仕上がりで、画面上に流れてくる上下左右の矢印型ノーツに合わせてキャラクターが発する合成音声が加わることで独特の味わいを醸し出している。

STONEFLY Original Soundtrack

 テキサスのFlight School Studio開発による、大自然を舞台にロボットを駆使して動き回るアクションアドベンチャー『ストーンフライ Stonefly』は、ベルリンを拠点に活動するプロデューサー/サウンドデザイナー、ダリオ・ロホ・グエラの初のゲーム音楽作品となった。エレクトロ・ヒップホップを主体としたFLAKOでデビューし、近年はNatureboy Flako名義でオーガニックで匂い立つような音像を追求しているグエラのスタイルは、ゲームのゆったりとした世界観と見事に溶け合っている。

シロナガス島への帰還 Original Soundtrack

 鬼虫兵庫の個人開発による『シロナガス島への帰還』は、探偵と少女のコンビが奇怪な殺人事件の謎と絶海の孤島の秘密に迫るポイント&クリックアドベンチャー。これまでに7万本以上の売り上げを記録し、Nintendo Switch移植版のリリースも今後予定されている。音楽は以前のバージョンではフリー音源が使用されていたが、2021年6月のアップデートでオリジナルBGMに刷新された。コンポーザーは、『ワールド オブ ファイナルファンタジー』『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』などの音楽制作に携わり、入念かつ鮮やかなアレンジで歴代FFシリーズ楽曲の魅力を引き出した片岡真悟。メインテーマを筆頭とした美しいシンフォニックスコアが静かな感動を呼び、ロック、エレクトロのスパイスを巧みに効かせた楽曲がスリリングな雰囲気を演出する。熟練の確かな仕事をフルボリュームで堪能していただきたい。

ENDER LILIES: Quietus of the Knights Original Soundtrack

 なんと儚く、哀しく、激しい旋律だろう。Live Wireとアドグローブが開発を手がけた『ENDER LILIES:Quietus of the Knights』は、すべてが漆黒に染まった絶望的な世界で歩みを進める「白巫女」の少女リリィの運命を描くメトロイドヴァニアスタイルのダークファンタジーアクション。死の雨によって滅びを迎えた王国や、穢者(けもの)となり不死の呪縛に囚われたキャラクターたちの背景が少しずつ明かされてゆくストーリーに寄り添うピアノ/シンフォニックスコアを創りあげたのは、ワールドワイドな支持を集める音楽制作集団 Mili。果てしない悲壮感と一縷の望みを内包した響きが、狂おしいほどに胸を打つ。

Flynn: Son of Crimson Original Soundtrack

 カリフォルニアのStudio Thunderhorse開発による『Flynn:Son of Crimson』は、主人公フリンが祖先より受け継いだクリムゾンの血の力を駆使してステージを攻略していく、王道冒険ファンタジーな2Dサイドスクロールアクション。音楽は、『Cloudbuilt』『Whispers of a Machine』『Move or Die』などを手がけてきたコンポーザー/サウンドデザイナー、ジェイコブ・リンケ。民族楽器の響きをふんだんに取り込んだエピック/シンフォニックサウンドは、『ゼルダの伝説』や往年のJRPGタイトルからの影響もうかがわせる、壮麗で頼もしい仕上がり。颯爽としたメロディがツイストを効かせながら主張するドラマティックなボステーマも聴きどころだ。

Eastward Original Soundtrack

 長期にわたる開発期間を経て、上海のPixpilが満を持して世に送り出した『Eastward』は、無口で心やさしい男と不思議な力を秘めた少女の冒険を描くアクションアドベンチャー。音楽では、『The Unfinished Swan』『トゥモロー チルドレン』や、『DEATH STRANDING』(一部楽曲/ミュージカルサウンドデザイン)などを手がけ、入念なシンフォニックスコアやシリアスなアンビエントを得意とするジョエル・コレリッツをフィーチャー。コレリッツが「ビデオゲームミュージックへのラブレター」と表現する本作の音楽は、細部にわたって描きこまれた美麗なピクセルアートの世界に一層のきらめきを与える、淡くポップなシンセサウンドが詰め込まれた宝石箱だ。

Sable Original Video Game Soundtrack

 インディーロック系アーティストが丸ごとゲーム音楽制作を請け負うというケースは、昨今においてそう珍しいことではない。65daysofstaticは『No Man's Sky』で、BRITISH SEA POWERは『Disco Elysium』でそれぞれ素晴らしい成果を上げている。イギリスのShedworksが開発を手がけ、バンドデシネの巨匠メビウス(ジャン・ジロー)からの影響を感じさせるヴィジュアルも印象的なオープンワールドアドベンチャー『Sable』には、Little Big Leagueの活動を経てマルチアーティストとして才覚を発揮するミシェル・ザウナーのソロプロジェクトであるJAPANESE BREAKFASTが起用された。頭に残るキャッチーなリズムを楽曲づくりの念頭に置いているというJAPANESE BREAKFASTのスタイルからは一歩引き、聴き疲れしないアンビエント/メディテーショナルな楽曲をたっぷりと用意している。

Circuit Superstars Original Game Soundtrack

 スクウェア・エニックスのインディーゲーム支援プロジェクト「Square Enix Collective」のもとにOriginal Fire Gamesが開発を手がけた、俯瞰視点のカーレーシング『Circuit Superstars』。『A Hat in Time』でバラエティに富んだ楽曲を手がけたパスカル・マイケル・シュティーフェルの引き出しの多さと非凡なアレンジセンスは本作でも遺憾なく発揮されており、ジャズ/フュージョン、シティ・ポップ、ハウス、シンセウェイヴ/チルウェイヴ、フューチャーファンクが目白押し。70年代から現代に至るまでの「旬な音楽ジャンル」を軽やかに俯瞰する。

Demon Turf Original Game Soundtrack

 2Dイラストのキャラクターが3Dフィールドを駆ける、ニューヨークのFabraz開発による一筋縄ではいかないアクションアドベンチャー『Demon Turf』。エモ/パワーポップバンド Lobby Boxerのメンバーでもあるザック・フェンデルマンと、バークリー音楽大学出身のパトリック・クレセリウスによる多作な音楽制作デュオFat Bardと、『Evergate』のコンポーザーであり、他方ではオースティン・ウィントリーやブライアン・タイラー作品のアレンジ/オーケストレーションを手がけ、オーディオエンジニアとしても活躍するM・R・ミラーが共同で手がけた音楽は、ヒップホップ/ファンク/レゲエ/クラブサウンドを満載し、抜群にキャッチーで向かうところ敵なし。シーシャンティ(船乗り歌)に『スーパーマリオブラザーズ』水中BGMのオマージュを織り込んだ楽曲も微笑ましい。『ジェットセットラジオ』の音楽を好む向きにもオススメしたい。

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