ゲーム版アカデミー賞? 『The Game Awards』でメトロイドとバイオを抑えた『It Takes Two』の魅力と、賞の今後

『The Game Awards』の今後はどうなる?

Game of the Yearを獲得した『It Takes Two』とは何か?

 全編をインターネットで無料公開したり、今年発売されたゲームの賞を発表する傍ら、新作の情報を公開するなど、既存のアワードでは考えられないような斬新な企画により、一躍8000万人以上の注目を集めるようになった「The Game Awards」。

 この賞の中で、やはり視聴者が最も注目するのは唯一最高のゲームを決める部門、「Game of the Year(以下、GOTY)」を置いてほかにない。「GOTY」は全ての部門のなかでも当然最後に発表され、発表時には唯一、ノミネート作品の印象的なBGMを繋ぎあわせたメドレーを、プロのオーケストラによって生演奏されるという豪華な演出まで用意される。受賞せずとも、ノミネートされるだけで8000万人がその名を知ることになる、非常に貴重な機会だ。

 歴代この部門を獲得した作品は、2017年『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』、2018年『God of War』、2019年『SEKIRO』、2020年『The Last of Us Part II』と早々たる顔ぶれであり、2021年、彼らに続く作品に一体何が選ばれるのか、ゲーマーは発表前から予想を立てるなどしてその瞬間を待っていた。

 そして2021年、この栄えある「GOTY」にはスウェーデンのスタジオが作った協力ゲーム『It Takes Two』が輝いた。

 今年は『バイオハザードヴィレッジ』や『メトロイドドレッド』など日本の人気作のほか、他には『DEATHLOOP』『Psychonauts 2』『ラチェット&クランク パラレルトラブル』など激戦だった中、少なくとも日本ではあまり知られていない『It Takes Two』の受賞に驚いた人も多いのではないだろうか。

Game of the Year Award Musical Stage Presentation | Game Awards 2021 (Winner & Orchestra Medley)

 ではそのなかで唯一「GOTY」に選ばれた『It Takes Two』はどのような作品なのだろう。あるいは、なぜ選ばれたのだろうか?

 『It Takes Two』はレバノンに生まれ、スウェーデンに移住した映画監督ジョセフ・ファレスが、これからはゲームで表現できる作品を目指したいとHazelight Studiosという会社まで設立して作った、彼の3作目にあたる。

 この作品最大の特徴は、「強制2人協力プレイ」というプレイ人数だ。1人で遊べるわけではなく、2人のプレイヤーが必須で、ほとんどの敵やパズルは1人では決して突破することができず、ゲーム画面はオフラインでもオンラインでも2画面に分割されるという徹底ぶり。まさに「It Takes Two(2人いてこそ)」、というタイトルの作品なのだ。

 ストーリーもなかなかに意欲的だ。すれ違いが重なることで離婚の危機にあった夫婦が、その関係性を憂慮した娘と、彼女の憂慮を解決しようとする魔法の本ハキムによって、突然小人にされてしまい、やむをえず2人で人間に戻るための道を模索するという内容。

 この2人が必ず協力しなければならないゲームデザインに、一度失われかけた2人の絆を取り戻そうとするストーリーが組み合わさった、『It Takes Two』は斬新であると同時に多くのプレイヤーに信頼の大切さを訴えかけ、高い評価を受けている。

 これまでジョセフ・ファレスは『Brothers: A Tale of Two Sons』や『A Way Out』など、プレイヤーに本来万全に保証される身体性を、意図的に画面や操作から2つに引き裂き、そこから新しい体験を引きだすことに腐心してきたが、『It Takes Two』はその中でも集大成と呼べる作品で、一度プレイした人間にとっては忘れられない内容になっている。

 筆者自身、今年だけで数十本のゲームを批評してきたが、それでも『It Takes Two』の受賞には思わず納得するほど、本作は実際素晴らしかった。特に筆者が驚いたのが、2人専用ゲームという性質上、まったくの素人からコアなゲーマーまで幅広い層が同時にプレイするという課題が発生するが、これを「毎回ゲームデザインを使い捨てる」というアイディアで解決した点だ。

 たとえば、ゲームの未経験者が難しすぎる課題を与えられても、何の役にも立てず楽しめないだろう。しかし課題が簡単すぎれば、今度はコアなゲーマーにとっては退屈すぎる。そこで『It Takes Two』は、あるマップでは「一人が釘を持ち、一人がハンマーでそれを叩く」というルールで遊び、それをクリアすると釘とハンマーを捨てた後、「一人が可燃物を持ち、一人がマッチ棒で火をつける」というルールに切り替わるのである。

 この「ゲームを使い捨てる」という贅沢極まりない手法により、ゲームの経験がない人であっても毎回フラットな条件で楽しめるし、コアゲーマーであっても退屈する前に新しいゲームを学べる点で、『It Takes Two』はただ斬新なだけでなくゲームとして十分面白く仕上がっている点が、「GOTY」さえ受賞する評価を得た根拠の一つだろう。

 ところでこのジョセフ・ファレス、以前、プロモーションのためにThe Game Awardsに登壇したときには中指を立てて「F**k The Oscars!」と叫ぶほど、なかなか豪胆な人物。それが結果的に「GOTY」に選ばれたのだから、本人にとってこの上ない達成感を得られただろう。

"F**k The Oscars" Says Developer At The Game Awards

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