「アカデミー賞のクソッたれ!」と叫ぶ映画監督による、“映画を越えたゲーム”はなぜ泣けるのか

“映画を越えたゲーム”を作る映画監督とは

 いくらゲームが好きであったとしても、「映画とゲームはどちらがより優れているか?」という質問をされると緊張せざるを得ない。はっきりいって比較する行為自体を避けたいし、本音を言えば揉めるのは間違いないからだ。

 しかし、そのようなことを臆せずに言えてしまう人物もいる。その名はジョセフ・ファレス。彼は映画監督でありながら、映画の枠を超えてゲームの可能性に魅入られた人物である。

 ジョセフ・ファレスは、シリアやイスラエルに隣接する中東の国、レバノンの首都ベイルートで生まれた。レバノン内戦を経験し、10歳のときに家族と共にスウェーデンへと移り住む。20代になってから映画監督となり、内戦の経験を活かした作品なども手掛けるようになるのだが、30代半ばになってから“ゲームの監督”へと転身する。

▲ジョセフ・ファレス。画像はThe Game Awards 2017 – Full Show with Death Stranding, Zelda and More – YouTubeよりキャプチャー

 彼が言うには、ゲームは映画と異なりストーリーテリングのやり方が豊富であり、双方向性が存在する部分が重要だという(映画のようにただ観るだけでなく、実際に操作してプレイヤーがストーリーに介入できるといった意味だと思われる)。また、どのようなゲームにデザインするか考えるにあたり、シナリオライターが共同で作業することで、ゲームと物語が融合した新たな可能性が切り開けると考えているようだ。

 こうして文章にすると抽象的には理解できるだろうが、なかなか壮大な話のようにも思えるかもしれない。そもそも、ジョセフ・ファレスは非常にビッグマウスで恐れ知らずでもある。

 2017年に開催された『The Game Awards』という大規模なゲーム業界の表彰式典で、彼は「F**k the Oscars!(アカデミー賞のクソッたれ!)」と叫んだ。まるで映画を見下すかのような発言で、これはネットミームになり大きな反響も呼んだ。ジョセフ・ファレスとしては「ゲーム業界が映画より劣っている感覚がクリエイターやファンの間にあるのでは」と考え、そのアンチテーゼとして発言したようだが、いやはや話題になって当然だろう。

 このように外側だけ見ていると、ジョセフ・ファレスは無茶なことを言う人物にも見えるが、では実際のところ彼の作品はどうなのか? 本当にそのビッグマウスに似合う素晴らしい作品を作り出すのだから、まったく恐ろしい。

最初の作品で「ゲームでしか描けない物語」を完成させた

▲『ブラザーズ : 2人の息子の物語』 画像は任天堂公式サイトより
▲『ブラザーズ : 2人の息子の物語』 画像は任天堂公式サイトより

 ジョセフ・ファレスがはじめて手掛けた作品は、2013年にリリースされた『ブラザーズ : 2人の息子の物語』(※)。本作はひとりのプレイヤーがふたりの兄弟を操作する特殊なゲームで、左スティックで弟を、右スティックで兄を動かしていく。独特な操作だけあって最初は非常に混乱するだろうが、そのうち兄弟の絆が深まるかのようにプレイヤーも操作に慣れていくはずだ。

 ふたりの兄弟は、病気の父親のために「命の水」を求める旅に出る。旅路は過酷だが、ファンタジー世界のようなロケーションはどこも美しく、それを眺めるだけでも楽しいだろう。しかし、最も重要なのはラストシーンである。

▲『ブラザーズ : 2人の息子の物語』 画像は任天堂公式サイトより
▲『ブラザーズ : 2人の息子の物語』 画像は任天堂公式サイトより

  ラストシーンはぜひ自身の手で体験していただきたいが、ここでは「プレイヤーがコントローラーを操作することによって、ストーリーが紡がれる」のだ。つまり、前述のようにゲームと物語が合致し、さらにプレイヤーも参加することでしか描けない展開になっている。もちろん、ここで涙する人もいるだろう。

 これはまさしくゲームでしかなし得ない体験で、映画を越えたといっても過言ではない。あのビッグマウスは、ただのハッタリではなかったのだと気づかされるだろう。

 (※)本作はさまざまなゲーム機で遊べるが、記事執筆時点でNintendo Switch版はグラフィックが正常に描写されない不具合があるためおすすめできない。

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