EA新作『It Takes Two』は、いかにして“二人用”の障壁を超えて大ヒット作となったか

『It Takes Two』はなぜ大ヒット作に?

 2021年の最初の3ヶ月が過ぎ、いよいよ今年の『Game Of The Year』に向けてのレースも本格的に動き出してきている。やはり目玉となるのは人気タイトルの続編だが、現在一際注目を集めているのは、全くの新規タイトルとなる『It Takes Two』(パブリッシング : Electronic Arts、開発 : Hazelight。PC / Playstation / Xbox)だ。同作は現在、評論家のレビューを集計したメタスコアにおいて88点(metacritic、opencritic共に)という非常に高い評価を獲得し、現時点で『モンスターハンター ライズ』と並び、今年最も評価された作品となっている。

 『It Takes Two』は『マリオ』や『クラッシュ・バンディクー』などに代表されるいわゆるプラットフォーム・アクションゲームであり、メイとコーディという離婚寸前の二人の夫婦を操作しながら、バラエティ豊かな様々な世界を旅し、その先々で待ち受ける挑戦を二人で力を合わせて乗り越えながらゴールを目指していくゲームである。

 最も特徴的な点は本作が「二人プレイ専用」の作品ということだろう。1人から複数人で楽しめるマルチプレイ作品ではなく、1人で没頭するシングルプレイ作品でもなく、本作を遊ぶためにはメイ役とコーディ役を務める二人のプレイヤーが必要なのである(ローカルでの画面分割プレイに加え、オンライン通信による二人プレイも可能。後者の場合は「フレンドパス」という機能が用意されており、どちらかのプレイヤーが本作を所有していれば二人でプレイすることができる)。

 複数人での協力プレイを前提とした名作としては『Portal 2』や『オーバークック』などが挙げられるだろう。だが、これらのタイトルはソロモードなど一人でも楽しめる機能が用意されており、ランダムマッチングによって知らない人と遊ぶことも可能だ。しかし、『It Takes Two』にはこのような機能は存在しない。あくまで本作を遊ぶためにはソフトに加えて「一緒に遊んでくれる知人」の存在が必須なのである。

 このような障壁が存在するにも関わらず、本作はセールス面においても成功した作品となっている。Steamでの売上ランキングでは発売週に7位でデビューし、その後も徐々にチャートを上昇し、発売4週目となる4月18日週のランキングでは遂に堂々の1位に輝いたのである(*1)。家庭用機においても2021年3月におけるPS StoreのPS5用ソフトダウンロード数ランキングにおいて、北米4位・ヨーロッパ3位というヒットを実現しているのだ(*2)。実際に購入したプレイヤーからの評価も極めて高く、Steamのユーザレビューでは1万5千件以上のレビューを集めながらも「圧倒的に好評」を叩き出している。『It Takes Two』はまさに2021年を代表する作品の一つといっても全く問題ないだろう。

「巣ごもり需要」・「配信との好相性」・「人に勧めたくなる独自の魅力」が揃った
『It Takes Two』のヒット

 本作のヒットの背景には、やはりパンデミックによって人々の生活に大きな変化が生じたことが挙げられるだろう。以前のように外出して遊んだり、直接友人や恋人同士で会うことが難しくなってしまった一方で、いわゆる「巣ごもり需要」として長時間自宅で楽しめ、人々がオンライン空間上で繋がることができるビデオゲームの人気は大きく膨れ上がった。結果として、友人をゲームに誘って二人で楽しむという行動自体が定着し、『It Takes Two』のような作品が受け入れられやすい土壌ができていたといえる。

 加えて本作は極めて“配信向き”な作品でもある。本作の実況プレイ配信では、作品の性質上、常に二人の配信者が一緒に遊ぶ光景を楽しむことができるのだ。現在も配信において絶大な人気を誇る『Among Us』に代表されるように、複数人の配信者がお互いに協力したり、時には妨害しながら遊ぶ様子を見ることができる作品の配信は、配信者の人間性がより深く表れたり、視聴者もまるでそのグループの一人であるような気分を味わえることから、ファンを中心に非常に強い需要がある。『It Takes Two』の場合、ゲームプレイ中は常にお互いで密に連携する必要があり、時には妨害して相手をからかったりもできるため、まさにうってつけのタイトルであると言えるだろう。実際にTwitchにおける平均視聴者数を見てみると、リリース直後から徐々に数字を伸ばしていき、3月30日には約4万8000人という大人気作レベルの数字を叩き出している(*3)。このような配信をきっかけに本作を手に取ったというプレイヤーも決して少なくはないはずだ。

 だが、何よりも大きいのは、「発売4週目で1位を獲得」というSteamチャートでの順位の動き方が示している通り、本作がとにかく「他の人にオススメしたくなる」作品であるという点だろう。そのポイントは”二人用”という前提だからこそ実現できる「膨大な量のアイディア」と「唯一無二な体験」にある。

 本作は冒頭で述べた通りプラットフォーム・アクションで、操作自体も簡潔かつシンプルにまとまっている。恐らく普段ゲームをあまりプレイしないという人であっても、すぐに馴染むことができるだろう。プレイ時間も10~12時間程度と中規模にまとめられた作品だ。だが、誇張なしで本作には退屈する瞬間がほとんど存在しない。一つひとつのステージは極めて美しくユニークで、イースターエッグやミニゲームも豊富という作り込まれたものであるにも関わらず数十分程度で切り替わり、そこでできるアクション自体もステージに合わせて全く異なるものへと変貌していく。ステージ中で取り組むことになる戦闘やパズルについても、これらのステージやアクション、そしてアイディアが組み合わさることで「二度と同じものが出てこない」ようになっており、常に全く別のゲームを遊んでいるような感覚に陥るのだ。恐らく普段よくゲームをプレイする人ほど、本作に収められたアイディアの量に衝撃を受けることだろう。

 そしてこれらのアクションはほとんどの場面で二人のプレイヤーに対して別々に用意されており、パズルや戦闘も二人で協力しなければ絶対にクリアできないように作られている。よって、ゲームを進めるためには常に目の前の状況に応じて、自分が今何をするべきか、相手が今何を求めているのかを考え、話し合い、実際の行動に移していく必要があるのだ。ここで前述の「膨大な量のアイディア」が効いてくる。次々と目の前の景色やできることが変わっていくため、プレイヤーは常に「今度は何をするべきか」を話し合い続ける必要があるのだ。本作は難易度自体はそれほど高いものではない。だが、もしお互いに意思の疎通を図ろうとしなければ、恐らく数分程度で容易に続行不能に陥ることだろう。だからこそ、二人で力を合わせて目の前の壁を乗り越えた時の喜びや、新たな舞台へ向かう時のワクワク感は他の作品では決して味わうことのできないものである。

 驚くべきことは、その構造やアイディアの一つひとつが、本作のストーリーテリングと完全に合致していることである。衝撃を受けるほどの大量なアイディアが破綻することなく、むしろ物語を補強する要素として見事に機能しているのだ。そして、右も左も分からないままに試行錯誤を続け、徐々に二人でのやり方を掴んでチームワークを築いていくと、物語自体も大きな変化を迎えていくようになる。本作をクリアする頃には、二人の繋がりはまず間違いなく以前よりも深く強固なものになっているはずだ。これは間違いなく他のゲームには存在しない、“二人用”だからこそ実現できた唯一無二の体験である。

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