ゲーム版アカデミー賞? 『The Game Awards』でメトロイドとバイオを抑えた『It Takes Two』の魅力と、賞の今後

『The Game Awards』の今後はどうなる?

「The Game Awards」はゲーム業界のアカデミー賞になりえるのか

 様々な画期的な手法により、2014年から僅か7年で8000万人以上の視聴者を集めるアワードにまで登り詰めた「The Game Awards」。

 同賞は「2人専用ゲーム」という斬新なアイディアから崩壊する夫婦の絆を再生するという現代人にも刺さる物語を、あくまでゲーム体験としてプレイヤーに共有した『It Takes Two』を「GOTY」に選び出すなど、優れた作品にスポットライトを当てる姿勢は、まさに次世代のアカデミー賞と言えるだろう。

 ただし、いまだ「The Game Awards」には既存の業界外から認められる賞と比べ、少し視野狭窄ではないかと思われる点がいくつかある。

 たとえば、今年の「GOTY」ノミネートを眺めていれば、6本のうち全てが大規模な宣伝を展開したブロックバスター的な作品だ。もちろん、ただ宣伝費がそのままノミネートに直結していないものの、あくまで大作の中で比較的、「賞向き」な作品が選ばれた、という印象だ。

 このような枠組みは賞としてはあまりにレンジが短く、従って評価すべき作品を見落としているように感じる。例えばインディーゲーム。今年は実に優れた作品がインディーから生まれ、Steamレビューで約36000件評価のうち96%も高評価となった『Inscryption』がノミネートされていないのは残念だし(※なお、『DEATHLOOP』はSteamレビューで約12000件レビューのうち78%が高評価)、昨年ではVRゲーム随一といえるイノベーティブと完成度を誇った『Half-Life: Alyx』もノミネートされなかった。またモバイルゲーム、継続型サービスのゲームも、同様にGOTYには選ばれにくい。

※2021年12月17日現在

(参考:Inscryptionの紹介記事はこちら

 もちろん、「The Game Awards」には各部門賞が用意されており、そこで「Best Indie」「Best Ongoing」など評価の場所は用意されている。しかし、そもそもゲームの市場的・文化的な中心は既にこちらに移りつつある中、いまだに「GOTY」がPC(VR)やスマートフォンではなくコンソール、その中でも、日欧米の常連大企業による作品ばかりというのは、専門家による賞にしては安直すぎる。

 このような背景には、「The Game Awards」の特徴でもある「各社のプロモーションの場所」という点が、同アワードが宣伝企業を直接贔屓することはありえないとしても、少なくとも賞と視聴者の関係性に「よりマスに拡がる、話題性の追求」を前提としたコンセプトが、賞の方向性に影響しているのではないかと考えられる。(事実、TGAは一部では「年末に開かれるもう1つのE3」のように受け止められている)

 もう1つ、背景として「The Game Awards」の選定は主に、各大手ゲーム企業の「諮問委員会」によって選定された各ゲームメディアと関係者が担当する(諮問委員会は投票しない)。一応、一般投票も行われるが、こちらは10%しか影響がなく、その中心はゲームメディアとゲーム企業、そして宣伝の場に早変わりする「The Game Awards」という、もとより強く結ばれた連合体である。果たして、この賞が客観的とどこまで言えるのか。2010年代前半のGamerGate問題では、ゲームメディアとゲーマーの認識の差異が浮き彫りになったが、その差異はこの賞にも現れていると思う。

 これは「The Game Awards」もさながら、そもそも投票に参加する各メディアやその記者たちが、幅広い目線でもって作品を鑑賞しているのかという疑問に直結する。元々、ビデオゲームは音楽や映画以上に多種多様な表現であり、特にタイトルによっては専用のハードが、VRゲームにはVR用ゴーグルが求められるため、少なくとも包括的にビデオゲームを論ずることがいまだ難しいのは否めない。そもそも、ゲームメディア自体が批評を射程、熱量的に十分供給できていない以上、彼らが中心となる「The Game Awards」もいささか凡庸になってしまうのは避けられないだろう。

 どうあれ、「The Game Awards」はビデオゲームにも賞を築き、批評を通じて明確に文化的なマイルストーンを築かんとする新しいムーブメントとして注目したい。事実、ここで評価された作品は『SEKIRO』や『It Takes Two』のような魅力的な作品が多く、それらを追いかけるだけでも楽しいだろう。

 しかし、「The Game Awards」はプロモーションを土台とし、ソーシャルに消費し続ける共同体と密にする斬新な企画故に、他の賞と比べて脆さも目立つ。今後、インディーゲーム、GaaS(Games as a Service)、VRなど業界の変革が一層激しくなるなかで、何を論じ、何を評するのか。ゲーマーではない人々に注目される賞になるため、ただの「バズる」以上の視点が問われるようになるだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる