12名のボカロPによる“コラボ”コンピ『キメラ』　3組のペアが語る「制作の裏側とボカロシーン」

かいりきベア×Aqu3ra　世代を超え、互いに抱くリスペクト

――最後は「スーパーノヴァ」を制作されたかいりきベアさん、Aqu3raさんにお話を伺えればと思います。それぞれお互いに対して、どんな印象を持っていましたか？

Aqu3ra：自分がデビューしたのが2018年の末くらいだったんですけど、その頃は、すでにボカロシーンを代表する存在だったかいりきベアさんが、「ベノム」をはじめ、さらなる名作を生み出し続けている時期でした。サウンドも世界観も唯一無二でしたし、なおかつ第一線でボカロシーンを引っ張り続けている。そういう印象でしたね。

　自分含めかいりきベアさんから直接影響を受けたボカロPも多いはずですし、そのボカロＰの曲を聴いて、間接的に影響を受けているボカロPもいると思います。

――かいりきベアさんの遺伝子のようなものが、後の世代にも脈々と。

Aqu3ra：はい、伝わっていると思います。だから今回共作する機会をいただけたのはもう夢心地というか、本当にありがたい話でした。

かいりきベア：すごく褒めていただいて、申し訳ない気持ちでいっぱいです……なんか過去からのさばってる邪魔なボカロPみたいな感じじゃないですか？　大丈夫かな（笑）。

Aqu3ra：いやいや、そんなことないです！（笑）。

かいりきベア：Aqu3raさんの作られる曲は、「ブルー」や「さわやか」のイメージが強かったんですよね。ボカロシーンを見ていると、2018年以降今までにないタイプの新しいサウンドを作るボカロPが増えてきていると思っていて。やっぱり音楽ソフトも進化しているし、いま出てきているボカロPはみんなクオリティが高いんです。そのうちの、代表的な一人という印象でした。

Aqu3ra：うれしいです。

――ちなみにナユタン星人さんとChinozoさんのパートで、「かいりきベアさんとAqu3raさんのペアが、一番どんな曲になるか想像できなかった」というお話がありました。「スーパーノヴァ」の作詞作曲がAqu3raさん、編曲がかいりきベアさんという役割分担は、どのようにして決めていったんでしょうか？

Aqu3ra：編曲はかいりきベアさんがいいんじゃないかな、というイメージがもともと自分の中にあって、それで進めさせてもらうことになりました。僕が基盤になるデモ音源を用意したんですけど、普段かいりきベアさんの作っているようなビートをイメージしたらやりやすいかな、その代わりに上物で遊ぼうかな……という感じで、音源をやりとりしていって。

かいりきベア：本当に、めちゃくちゃ作りやすいデモを用意していただきました。しかもAqu3raさん、いろんなパターンを出してくれたんですよね。全体的にすごく引っ張ってもらっちゃって、自分は何をやったんだろう、ギターくらいしか弾いてないんじゃないか、という申し訳ない気持ちの中で進んでいきました。

　僕がいじった部分はすんなりOKいただけましたし、Aqu3raさんからいただく音源ももちろんよくて、僕はそれに乗っかる意識で、比較的スムーズに作っていけたと思います。

Aqu3ra：かいりきベアさんにデータお渡しすると、毎回すごいクオリティになって返ってくるんですよ。あれは本当にアドレナリン出ました。もし自分が仕上げたとしたらどういう曲になるかってイメージはできるんですけど、そのイメージと全く違うものが返ってくるから面白くて。

　みなさんおっしゃるんですけど、かいりきベアさんのギターは「かいりきベアさんだ！」とすぐにわかるんです。あのギターが入った瞬間、曲が新しい方向に進み出すので、この分担はすごくよかったなと思いました。

かいりきベア：今回の企画ならではですけど、お互いが普段から作っている曲のスタイルもジャンルも違うので、面白かったですよね。僕はイントロのリフから考えることが多いので、今回のようにAメロから始まるような構成は新鮮でしたし。そういうところから刺激を受けて、僕自身も勉強になりました。

――歌詞はAqu3raさんが書かれていて、いろんな意味を内包していそうな内容ですが、どういうところから着想して作っていったんでしょうか？

Aqu3ra：もともとボカロというものは、カウンターカルチャーの側面を持っていると思っていました。今回のコンピからも、まさにそういうボカロをリスペクトしたような意味も感じられたので、そこから歌詞の内容、ストーリー性、言葉選びを組んでいきました。カウンターカルチャーのほかに、自分の好きな宇宙のテイストもかなり入っています。

同じ初音ミクで楽しむ調声の違い

――今回お二人とも初音ミクを使っていて、パートごとに交代で調声する形を取られています。調教の違いなどを聴き比べるのも楽しそうですね。

Aqu3ra：かいりきベアさんのミクはしゃくりにパワーがあって、エモーショナルに聴こえるんですよ。今回サビを担当いただいたんですけど、すごくしっくり来てます。

かいりきベア：「サビやりたい」というのは自分から提案したんです。Aqu3raさんが作ったサビのメロがめちゃくちゃ良かったので、ここにちょっと“かいりきベア節”を入れたらどんな感じになるかなと思って。

Aqu3ra：だいぶイメージ変わりましたよね。デモでは一旦自分のミクを入れて送ったんですけど、かいりきベアさんのミクに歌い直してもらったら、「わ、めっちゃいい感じに変わったな」って思いました。

かいりきベア：一方でAqu3raさんが調声するミクは、すごく綺麗で美しいイメージがあって、この調教の差が面白いですね。普段からボカロを聴いている人であれば、聴き分けられるんじゃないかな。他の曲も、ペアが決まった時点でどんな曲になるかいろいろ予想してたんですよ。この人とこの人だったら、調声はこう振り分けそうだなとか。結構予想通りで、聴いていて楽しかったです。

――全てのペアにお聞きしている質問なんですが、自分たち以外で楽しみだったペアはありますか？

かいりきベア：いやもう、みんな楽しみでした。メンバーが出そろった時点で、これは誰と誰が組んでも面白いことになるぞと思っていたので。

Aqu3ra：本当、はるまきごはんさんと煮ル果実さんはすごいことを考えますよね……。自分もどのペアも楽しみだったんですけど、特にChinozoさんとナユタン星人さんが気になっていました。細かい部分は違いますが、お二人の作品のフィーリングが近い感じもしたので、何か化学反応が起きそうだなと思って楽しみにしてました。

音楽の道の1つとして、自然にボカロを選んだ

――かいりきベアさんがデビューされてちょうど10年が経ちましたが、2011年当時と比べてどういった所にボカロカルチャ―の変化を感じますか？

かいりきベア：昔に比べると、音楽のジャンルとして定着してきている感覚があります。昔は一過性のブームというか、「いまめちゃくちゃ流行ってる」みたいな感じで。2007年の登場以降、どんどん人気が上がって、2011～2012年あたりで一度ピークを迎えたような印象でした。まさに自分も、その流行りを見て、ボカロをやってみたいと思いました。

　そのブーム感みたいなものが落ち着いて、いまは純粋に、音楽のいちジャンルとして下地が作られている印象です。新人の音楽家さんで、「バンドをやろう」じゃなく「ボカロをやろう」っていう人も増えてきていると思いますし。

Aqu3ra：言われてみると、自分もその一人かもしれません。もともと僕は、熱心なボカロファンだったというわけではないんです。ただ音楽をやるにあたって、その中の1つであるボカロジャンルを自然に選んだっていう感覚でした。まわりの同世代のボカロPでも、そういう人がちらほらいます。

――世代の違いが垣間見えて面白いですね。『ボカコレ』の取り組みについては、それぞれどのように見ていますか？

Aqu3ra：イベントがあると楽しいですし、こうして盛り上がれる場ができたこと自体、ボカロファンにとってすごくうれしいできごとだったんじゃないかなと思います。『ボカコレ』がきっかけでヒットしたり殿堂入りしたりするボカロPも見かけるので、新人をピックアップする場にもなっていると感じています。

かいりきベア：ご時世的にも良い機会になってますよね。メインの楽しみ方が投稿と視聴だから、家から参加しやすいと思います。

　やっぱりこういうイベントがあると界隈全体が盛り上がりますし、自分自身もまだまだボカロPをやっていきたいので、ありがたい気持ちもあります。僕はStemデータを公開させていただいて、Remixが増えていくのをリスナーとして聴いてるんですけど、もう楽しくて仕方がないですよ。

■リリース情報・関連リンク

・ピノキオピー
Digital Single「神っぽいな」各種サブスク配信中：https://linkco.re/6mBqqz
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・一二三
ニコニコ動画：https://www.nicovideo.jp/user/2798037/mylist/55544190
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・Chinozo
ニコニコ動画：https://www.nicovideo.jp/user/55005244/mylist/63011659
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・ナユタン星人
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・Aqu3ra
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・かいりきベア
「ダーリンシンドローム」各種サブスク配信中：https://linkco.re/cn8me10v
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ツイッター：https://twitter.com/kairiki_bear

『キメラ』
2021年10月15日発売
公式サイト：https://chimera12.com/
公式ツイッター：https://twitter.com/chimera_records

〈収録楽曲〉
1. フランケンX　[煮ル果実×はるまきごはん]
2. スーパーノヴァ　[Aqu3ra×かいりきベア]
3. ニュートンダンス　[ナユタン星人×Chinozo]
4. サクラノタトゥー　[一二三×ピノキオピー]
5. 共犯　[和田たけあき×てにをは]
6. ロールレスウエポン　[稲葉曇×Neru]
7. 運命　[はるまきごはん×煮ル果実]
8. ダンスロボットダンスアレンジメドレー(キメラver)　
[はるまきごはん×煮ル果実×和田たけあき×栗山夕璃（蜂屋ななし）×じん×かいりきベア×てにをは×Chinozo×ピノキオピー×稲葉曇×一二三×Aqu3ra×Neru×ナユタン星人]

■イベント情報
『The VOCALOID Collection ～2021 Autumn～』
開催期間：2021年10月14日（木）～17日（日）
https://vocaloid-collection.jp/
https://twitter.com/the_voca_colle