『ボカコレ』で更新された「ボーカロイドとランキングの重要性」 柊マグネタイト&Fushiと考える

柊マグネタイト × Fushi 対談

 ボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~』(『ボカコレ2021 秋』)が、2021年10月14日〜2021年10月17日の4日間にわたって開催される。

 生放送やライブとともに、ボカコレの目玉の一つとなっているのが期間内に投稿された楽曲や動画のランキング企画だ。オリジナル楽曲、リミックス、歌ってみたや踊ってみたなど様々なランキングが発表されるが、中でも注目を集めているのが、ボカロPデビューしてから2年以内のクリエイター限定の「ボカコレルーキーランキング」。活動を始めたばかりのボカロPをフィーチャーした登竜門的なランキングとなっている。

 そんなルーキーランキングで脚光を浴びた、柊マグネタイトとFushiという2人のボカロPの対談が実現した。

 2020年9月に活動を開始した柊マグネタイトは「終焉逃避行」が2020年冬のルーキーランキング1位。2019年12月に活動を開始したFushiは「ヱスケイプ」が2021年春のルーキーランキング2位。そんな2人のルーツから、現在のボカロシーンについて思うことなど、たっぷりと語ってもらった。(柴 那典)

「好きで作ったものがランキングで評価されたことが、びっくりしたと同時に嬉しかった」(柊マグネタイト)

——柊マグネタイトさん、Fushiさんがボカコレに参加しようと思ったきっかけは?

柊マグネタイト(以下、柊):きっかけは百花繚乱さんが『ニコニコ生放送』でボカコレという新しいイベントが始まることを教えてくださったことで。「THE VOC@LOiD M@STER」(ボーマス)は知ってたんですけど、ネット上だけで完結したイベントを公式でやるのって初めてだなと思って、興味が湧いて。最初はそんなに大きなイベントだとは思っていなかったんですけど、お祭りなので参加してみたいなという感じでした。

Fushi:自分はボカコレという催し物をニコニコ動画でやるというのをTwitterで知って。ボーカロイドってニコニコ動画から広がっていたものだと思うので、生まれ故郷というか、地元で開催するお祭り感があって、これはなかなか面白そうだと思いました。1回目は曲が用意できなくて参加できなかったんですけど、相互フォロワーのボカロPが気合の入った曲をバンバン出して盛り上がっていて。これはどうにか2回目に参加したいと思って参加した感じですね。

——Fushiさんは、最初は作ろうとしたけど、時間的に間に合わなかった?

Fushi:絶対参加しようというようなモードでもなかったんです。「遊びに行けたら行くわ」みたいなノリで。でも、いざ当日にTwitterを見てたら、やたらとみんな楽しそうにしていて。なんで曲を用意できなかったんだろうと、すごく悔しくて。だから「次は絶対行く」みたいな気概でいました。

——柊マグネタイトさんは1回目、2回目と参加してみてどうでしたか?

柊:すごくよかったです。まず1回目はめちゃくちゃ盛り上がったし、参加してる側としても、自分がランキングに入った後どうなるのかを見るのも楽しかったです。他の作品を見る側、ファンの側としても、いろんな曲がいっぺんに投稿されて、一気に見る機会はなかなかなかったので。その日はまとめて全部見てやるぞみたいな感じで見ることができて、それがすごく楽しかったですね。

——お二人の初投稿は2019年、2020年だと思うんですが、そこから遡って、そもそものボカロとの出会いはどんな感じでしたか?

柊:ちょうど鏡音リン・レンが発売されるという情報を雑誌か何かで見た覚えがあって、それで知りました。その時から曲を作り始めていたんですけれど、ボカロというものがあまりよくわかってなくて。初音ミクの名前は知ってたんですけど、買うまではいかなかったんです。で、しばらく経ってバンドをやったりしてたんですけど、そこからボカロにハマるきっかけがあって、自分でも投稿したいなと思うようになって、初音ミクを購入しました。

——ということは、マグネタイトさんがボカロに出会ったのは2007年だった?

柊:そうですね。でも、そのころはソフトの情報を見ただけで。2〜3年後くらいにめちゃくちゃ盛り上がっていて。いろんな曲が上がっている、その文化が面白いなと思って、自分もそのうち曲を作って投稿したいなというのは思ってました。

——Fushiさんはいかがでしょうか? 

Fushi:自分がボカロ曲を聴きはじめたのは2010年くらいなんですけれど、最初は誰が好きだというのもなく、わりと広く浅く聴いていて。その中でYMさんの「オーバーテクノロジー」という曲が自分の中でバチバチに刺さって。「俺も好きな人ができた」という感動があって、一気にのめり込むきっかけになりました。そこから「自分でももっといい曲ないかな?」って調べていって、変な言い方ですけど数字が伸びてない人でもすごい攻めたことをやってる人がいたりして。自分の好きなことをひたすら表現する愚直な感じが、自分の中では面白かったんです。テレビに流れるような音楽じゃないものが、こんなに投稿されている。顔出してない有象無象の人たちがいい曲を出しているという環境に感動して。そこからボカロというのが自分の音楽の中で欠かせないものとして加わった感じですね。

——Fushiさんが曲を作り始めたのはいつくらいのことでしょうか?

Fushi:自分も昔バンドをやっていて。でも、人と音楽をやる中では自分以外の意見も飛んでくるというのが当時ストレスになっていて。

柊:わかります。

Fushi:わかりますよね。「ここ絶対こうがいいじゃん。何でわかんないんだろう」というフラストレーションが溜まっていて、バンドを辞めちゃったんですね。それで2019年から1人で音楽を作り始めて。そこからYMさんのライブを観に行ったのをきっかけに「そういえばボカロやってない」と思って。「これはやるでしょ」みたいな感じになって、ずっと前から持ってたGUMIを部屋の隅っこから発掘して、パソコンに入れて。作業しながら、「これから作ってくんだ」みたいな緊張とワクワクを感じてました。

——マグネタイトさんはどんな感じで曲を作り始めて今に至ってるんでしょうか?

柊:最初は自分1人で音楽を作ってました。完全にインストの曲で、「KORG M01」というニンテンドーDSの作曲ソフトを使ってやっていて。途中からPCに移行したんです。その時は1人で作ってたので、自由気ままにたくさん曲を作っていて。その後、バンドをやったのち、結局1人で作るようになった、という感じです。

——お話を聞いて、表現してるジャンルや方向性は違っても、お2人は通ってきた道が近い感じがしますね。

Fushi:俺も話を聞いていて、ちょっと似てるかもって思いました。

——音楽のルーツについてはどうでしょう? ボカロだけでなくロックやJ-POP、海外のポップミュージックも含めていろいろ聴いてきているんじゃないかと思うんですが。Fushiさんはどうですか?

Fushi:基本的にバンドものがずっと好きで、その中でも楽器が格好いいバンドが好きですね。打ち込みの音の持ってるパンチ、バンドサウンドじゃ出せないパワーみたいなところにも惹かれたりしました。J-POPというよりはテレビに出ないような鋭いことをやっている音楽にずっと魅了されてました。

——Fushiさんの曲を聞くと、ヒトリエとwowakaさん、NUMBER GIRLや9mm Parabellum Bulletのように、いわゆる鉄の弦をガシガシ刻んでいるギター弾きのいるロックバンドの系譜を感じるんですが。どうでしょうか?

Fushi:まさにそれです。海外の音楽でもかっこいいのはあるんですけど、どう転がっても、最終的に日本の音楽が好きですね。海外だともうちょっとカラッとしてる音が多い印象を持っていて。鉄の弦を弾くような感じの音を聴きたいという自分の欲求を日本のバンドシーンの人たちが満たしてくれた感覚はあります。まさにヒトリエは自分の音楽のベースだし、9mmもそうで。あとはメタルも好きですね。激しい音楽が好きです。こういうタイプの音楽をネットで発表していいんだというのは、先人たちのやってきたことを見て「俺もやっちゃおう」って背中を押されるところはあります。

——ニコ動やボカロシーンではどうでしょう?

Fushi:ニコニコ動画には「VOCAROCK」というタグがあるんですよ。VOCALOIDでロック曲を作るタグがあって、俺はずっとそれに入り浸ってたんです。YMさんの曲がまさに「VOCAROCK」だったりするんですよね。そこから即売会に行ったりライブに遊びに行ったりして、YMさんに顔を覚えてもらって。ある時にフォローが返ってきて、認知してもらって。その後にボカロPデビューして、YMさんに「かっこいい曲を作ったね」って褒めてもらったりして。これはドリームだなというのは思います。

——それはいい話ですね。

Fushi:漫画みたいな話だなと思って。いちリスナーが「VOCAROCK」というタグに固執した結果、自分の好きな人に認知してもらって、最終的には自分も曲を作って投稿して、同じステージに立てるようになったというのは、面白いことだなと思いました。

——柊マグネタイトさんはいかがでしょうか? いくつか曲を聴くと、非常に幅が広く、いろんなスタイルの曲を作られてる印象がありますが、ルーツや影響を受けたアーティストはいかがでしょうか?

柊:実は、そこを聴かれると難しい部分があって。というのも、マイブームの変遷のサイクルがめちゃくちゃ速くて、めちゃくちゃ飽き性なんですよ。バッハを聴いた直後にメタルを聴いて、その直後にPerfumeを聴いて、その直後にロシア民謡を聴く、みたいな感じで。だから「何を聴いてるのか」という話は、そのたびに違うこと言ってます。最近は民謡を聴いてるのが多いですね。音として一番影響大きいのは中田ヤスタカさんだと思います。

——幅広く、雑食的に音楽を聴いてきたという感じでしょうか?

柊:そうですね。すごい雑食かもしれないです。その中で、ボカロにハマった時に最初に聴いた曲はwowakaさんの「ワールズエンド・ダンスホール」で。あれで「めちゃくちゃギターかっこいいな」と思って、ギターをやりたいなと思ったきっかけでもありました。いまだに全然弾けないんですけど。そういう時期もあったりしました。

——ここ最近で言うとどうでしょう? 初投稿した2019年から2020年くらいの時期のマイブーム、自分的にアツかったものは?

柊:今もですけど、平沢進さんにめちゃくちゃハマってますね。友人とカラオケに行った時に「最近はまってる」って延々カラオケで歌っていて、いいなと思ってきて。完全に洗脳されて、帰りに聴きまくってました。

Fushi:それは俺も感じました。1曲目に投稿した「或世界消失」の好き勝手やってる感じ、芸術に消化されてる感じが“平沢進感”があるなって、すごく思いました。

——「或世界消失」はどういうきっかけで作り始めた曲なんでしょうか?

柊:ボカロで活動していくこと自体、完全に自分の好きなことを100%でやっていこうと思って始めたので、ウケとか狙わないで、自分の好きなようにやろうと思って作った曲です。びっくりしてもらいたかったというのがあるので、初投稿から長い曲を出したら面白いし。長い曲ってトランスっぽくずっとループしてるものが多いんですけど、そうじゃなく変化をつけたいと考えて、いろいろ入れてました。完全に自由に制作した感じです。

——お2人のそれぞれのボカコレ投稿曲についてもお伺いできればと思います。まず柊マグネタイトさんの「終焉逃避行」は、どんなアイデアやきっかけで作っていった曲なんでしょうか?

柊:ボカコレが始まる前から和風の曲を作ろうと思っていて、和風でノれる感じのBPM150前後のテンポで曲を作りたいなと思って作り始めた曲です。

——Fushiさんの「ヱスケイプ」はどうでしょう? 曲を作る時のアイデアやきっかけは?

Fushi:そもそも、これも間に合わないかもしれなかったんですよ。そういうときに動画を作ってくれた藍瀬まなみから連絡が来て、「ボカコレ出さないの?」って啖呵を切られて。「やるやる」って言って気合で作ったんです。コンセプトとしてはとりあえずボカコレの投稿曲の中で一番ギターがうるさい曲、ギターが難しい曲を作ろうと思って。2020年冬のランキングでも、一筆かもめさんの「フォークウォーク」とか、立椅子かんなさんの「you complete me」とか、伊根さんとか、ロックの性質がある曲があって、なおさらそこにジェラシーを覚えたというのもあって。「俺が一番ロックな曲、ギターがうるさい曲を書いてやろう」と思って作ってました。

——ボカコレ後にいろんな反応とか反響もあったと思うんですが、どんな実感がありましたか?

Fushi:リスナーさんが喜んでくれたのが嬉しかったです。聴いてもらってる実感もあったので、結果が全てではないですけどルーキーで2位という結果をもらって。リスナーさんの「思わず泣いちゃった」みたいなツイートも見かけたし、「かっこいいことはしてたけど、報われてよかったね」という声もあったし、やってやった感がありました。環境の変化で言うと特に何も変わってはいないんですけど、みんなから祝福されたのが嬉しかったです。あとはフォロワーが増えました(笑)。

——柊マグネタイトさんはいかがでしたか?

柊:ボカコレに出した「終焉逃避行」の後が一番変化が大きかったです。聴いてくれる人も増えたし、数字という意味でもそうですけど、何かで紹介して下さるときも、ボカコレに出してた人みたいな感じで紹介していただけることが多くなって。好きなものを作るという思いで作ってるので、自分が好きで作ったものがランキングで評価されたということが、自分の中ではびっくりしたのと同時に嬉しかったです。

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