12名のボカロPによる“コラボ”コンピ『キメラ』 3組のペアが語る「制作の裏側とボカロシーン」

3組のボカロPが語る『キメラ』

ナユタン星人×Chinozo お互いにないものを補いあった制作

ナユタン星人(左)とChinozo(右)
ナユタン星人(左)とChinozo(右)

――続いて、「ニュートンダンス」ペアのナユタン星人さんとChinozoさんにお話を伺います。お互いに対する印象から教えてください。

Chinozo:ナユタン星人さんは、完璧なボカロPだと思ってます。メロはもちろんなんですけど、作曲の幅がめちゃくちゃ広いんですよ。

ナユタン星人:おお、そこに気付いてもらえるんですね。僕、作風が狭いと思われがちなのに。

Chinozo:歌心のある調声もできるし、MVもこだわっていて、本当にボカロPに必要なスキルが全て高いレベルでそなわっているというか。僕自身、ボカロ曲を作るうえでナユタン星人さんの作品にはすごく勉強させていただきました。

ナユタン星人:めちゃくちゃ嬉しいです。これだけ一時間くらい聞かせてください(笑)。僕は新しいボカロPさんを漁っているときに出会った「グッバイ宣言」が、すごく好みだったんです。そこからChinozoさんのいろんな曲を聴くようになって、バンドをやってた人特有のギターとか、キャッチーなメロ運びがすごく好きで。

 キャッチーさって結構限界があって、結局パターン化していっちゃうんですよ。だからこそ僕も研究して手数を増やしたいなと思っているんですけど、Chinozoさんは僕にないものを持っているので、そのうち全パクリしようかなと思っています。

Chinozo 「グッバイ宣言」 feat.FloweR

Chinozo:(笑)。ちょうど最近、メロのキャッチーさを突き詰めていこうと思っている所だったから、めっちゃ嬉しいです。しかもメロの王者に褒めていただけるなんて。

――ナユタンさんが作詞作曲、Chinozoさんが編曲、という役割分担はどのように決まったんでしょうか?

ナユタン星人:一瞬で決まりましたね。というのも、最初の打ち合わせで、お互いの好きな作業と嫌いな作業を言い合いっこしたんです。そうしたら僕は作詞作曲が一番好きで編曲(楽器)が一番苦手。Chinozoさんはその真逆だったんです。

Chinozo:僕、作曲が苦手で、いつもすごく時間かかるんですよね。だから幸い、ないものを補い合えた感じでした。奇跡の一致でしたね。ミクとv flowerという組み合わせも、もうお互いの色があるので、特に迷いなく決まって。

ナユタン星人:僕らは比較的、使うボカロが固まってるチームでもありましたよね。僕は普段からミクしか使わないし、Chinozoさんはv flowerのイメージが強いし。だから土台固めは本当にスムーズでした。

相手のことを考えずに作ったら、結果的に良いものができた

――進めていく中で、新しい発見や意外だったことはありましたか?

Chinozo:流れ的に、ナユタンさんが作詞作曲したデモ(下書き)をもらって、僕が編曲とMIXをして渡すっていう進め方だったんですけど、ナユタンさんから最初にもらったデモ音源がめちゃくちゃ作りこまれていてびっくりしました。「もうこれでいいやん」っていうぐらいクオリティ高いものを用意してくださっていて。

ナユタン星人:僕たち、仮歌デモに対する認識の相違がありましたよね(笑)。

Chinozo:僕としては、コードピアノに歌と歌詞が載ってるくらいのものが来ると思ってたんですよ。でもしっかりとドラム、ベース、ギターがあって、キメまで入ってて。逆に言えば「ナユタンさんの中ではここまでが作曲なんだ」と思うと、「編曲どうしよう」というプレッシャーもありました。

ナユタン星人:とはいえ、ギターのフレーズとかは何も入れてなかったんですよ。Chinozoさんがいっぱいフレーズを入れてくれたんですけど、それが全部「これこれ! これが欲しかったんだよ」という感じで。そもそも僕がつくるときはいつも打ち込みのギターなので、本物のギターの音に憧れてたんですけど、それを120点の返しでやってくれました。

――逆にナユタンさんから見て、Chinozoさんの作り方で「自分にない引き出しだな」と感じた所はありますか?

ナユタン星人:最初僕はずっと同じノリを維持するような展開で作ってたんですが、Chinozoさんは、僕が盛り上げていた所を逆に落としたりするんですよ。でも通して聴いてみると、それがしっくりくる。その盛り上げの足し算引き算みたいな感覚が、自分にはなかったなと思いました。

Chinozo:特にがらっと変えたのがBメロと後半サビですね。後半サビの雰囲気は風が吹いてる感じにしたり、夜っぽくしたりしていて。そういう意味では、僕が編曲でやったのは曲に景色をつける作業だったかもしれません。

――自分の色を出す部分と、相手に合わせる部分とのバランスで、それぞれ意識していたことはありますか?

ナユタン星人:最初はめっちゃ試行錯誤していて、実は3曲くらいボツにしました。普段、書き下ろしなどで相手のスタイルやイメ―ジに寄せるのは得意なんですけど、今回は全然しっくりこなくて……。でも結局Chinozoさんがアレンジするんだったら、作曲は自分の色を思いっきり出した方が結果的によくなるんじゃないかと思って、最終的には何も考えず、いつも通りに作りました。

Chinozo:そうしてできた曲と歌詞を受け取ってみたら、ナユタンさん感が詰まっていたので、編曲では「もう俺色出しちゃえ!」と思いましたね。だから僕もあんまり、ナユタンさんのことは考えてなかった(笑)。でもナユタンさんに提出してフィードバックをもらって、と何回かやり取りしていく上で、少しずつお互いの色を付け足したりもしたので、結果的にバランスとれたかなと思います。

――「ニュートンダンス」を聴いたとき、アルバムの中で一番両者の個性が強く出ているというか、食べたときに味がどっちもするような感じだったんですよね。本当に奇跡的なバランスで成り立っているなと思って。

ナユタン星人:お互いがお互いのことを考えずに作った結果、逆にいいバランスになったみたいな感じですね。なんにも寄り添ってないですもん(笑)。

――他のボカロPさんの組み合わせで楽しみだったペアはありますか?

Chinozo:個人的には、かいりきベアさんとAqu3raさんのコンビがめちゃくちゃ気になっていましたね。僕にとってはもう推し同士の組み合わせだったので。Aqu3raさんはEDM調のトラック的な格好良さを持っていて、かいりきベアさんはキャッチーさのあるバンドロック調で、これが混ざったらすごいものが生まれるだろうなって。

ナユタン星人:どこも楽しみだったんですけど、僕も一番気になってたのはかいりきベアさんとAqu3raさんかな。他のペアって、属性で見てみると意外と近い組み合わせが多いんですよ。それはそれで面白そうなんですけど、そんな中で正反対だったのがかいりきベアさんとAqu3raさんだったので。このペアだけは、どんな曲になるのか全く想像できませんでした。

ボカロ曲だけじゃなく、ボカロPのすごさももっと広がってほしい

――『ボカコレ』がスタートして1年弱が経ちますが、『ボカコレ』はボカロシーンに何らかの影響をもたらしていると感じますか?

Chinozo:『ボカコレ』がもたらしている影響は、間違いなくありますね。『ボカコレ』きっかけで知名度の上がったボカロPも結構いらっしゃいますし、これからの可能性を感じる、良い取り組みだと思ってます。

ナユタン星人:僕はもう、『ボカコレ』のガチファンですよ。そもそも僕はボカロが出てきた当初からずっと追い続けている、ボカロ文化自体のファンなんです。ニコニコ動画はボカロ文化の発祥した場所でもあるし、いままでもボカロに関していろいろな取り組みをやってきてくれたのを見ていたんですけど、ある意味「一番やってほしいものをここにきてやってくれた」と思っています。『ボカコレ』の仕組みは、ファン目線でめっちゃ嬉しいですね。

――ナユタン星人さんから見て、年々ボカロ曲のレベルは上がっていると感じますか?

ナユタン星人:超絶上がってると思いますよ。作品が蓄積されればされるほど、みんなそれを参考にして作れるので。どんどん洗練されていっていますし、面白いチャレンジをする曲も増えているなと感じます。

Chinozo:ボカロカルチャーはすでにかなり広がりましたけど、聴く人にとってもっともっと一般的なジャンルになってもいいですよね。ジャンルの一つにボーカロイドが普通にあって、堂々と「好き」と言えるような時代になってほしいなと思います。

ナユタン星人:ボカロの音楽だけじゃなく、僕はボカロPのすごさももっと世間に知られてほしいですね。以前に比べると知られてきてますが、音楽制作や動画投稿にまつわる全部の作業を1人でやってるって、よく考えるとすごいことだと思うんですよ。しかも、同じように頑張っている人がいる群雄割拠の状態から、頭一つ抜けるための技術にも長けている。そういうボカロPだけが持つ能力がもっと知られて、浸透したらいいなと思います。

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