DECO*27×松丸亮吾対談 ボカロPとリスナー、それぞれの視点から語り合う「ボーカロイド史」

DECO*27×松丸亮吾 対談

 日本の音楽シーンを牽引するプロデューサー/アーティストを多数輩出するボーカロイド文化の今を伝える祭典として、2020年の12月に第1回が開催された『The VOCALOID Collection』。その第3回『The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~』が、この秋開催される。

 2007年にはじまったボカロ文化は、果たしてどんなふうに人々を魅了し、今のような広がりを見せたのだろう。この記事では、これまで数々のヒット曲を生み出してきたDECO*27と、謎解きクリエイターとして活躍すると同時に熱心なボカロリスナーとして『バズリズム02』などへの出演経験もある松丸亮吾の2人に、「ボカロP」「リスナー」という各々の立場で、黎明期からシーンを見続けてきたからこそ感じるこの文化の魅力を語ってもらった。

松丸の謎解きとDECO*27の楽曲に共通する感覚とは?

――まずは、松丸さんがボカロを好きになったきっかけについて聞いてみたいと思います。

松丸:僕がボカロ曲を聴きはじめたのは2007~8年頃、中学1年生のときでした。当時、特に印象に残ったのは、ryoさん(supercell)の「メルト」(2007年)ですね。機械の音声なのに歌詞が情緒的で、本当に気持ちが伝わってくるような歌い方をしていて、「電子音なのに何でこんなに感動するんだろう」とびっくりして。そこから、歌ってみたやMVを通して人によって解釈が変わる歌い方や映像があって、好きな曲でも色んな人のものを聴き分けて楽しむことが発展するのを見て、「今までになかった文化だな」と感じました。

――まさに黎明期に当たる時代に、ボカロ文化の「n次創作」的な側面に惹かれたんですね。

松丸:本当に色んな才能がネットを介して繋がって、クリエイティブなものが生まれていることが嬉しかったし、「ネットで活動して誰かと繋がったら、とんでもないことが起こるチャンスがあるかもしれない」と感じられたことに、僕自身、すごく勇気づけられたというか。「僕も何かやってみよう」という気持ちになったし、「まだ何者でもない自分でも、何かできるかも」と思わせてくれたと思います。当時は僕も、好きだったKEIさんの「走れ」とか、その辺りの曲の「歌ってみた」を上げていました。もう全部削除しましたけど……(笑)。

DECO*27:ははははは(笑)。

松丸:ただ、僕が中学2~3年の頃は、ボカロ曲を聴いていると、バンドマンだった3番目の兄に「もっとちゃんとした曲を聴きな」と言われたりもして。そのたびに、「きっとボカロが人気になるから、見てな」と思っていたのを覚えています(笑)。だからこそ、今ボカロP出身の方々が色々なところで活躍しているのを見ると、「ずっと聴いてきて、応援してきてよかったな」と思うんです。僕だけじゃなくて、そうやって聴き続ける人たちがたくさんいたからこそ、ボカロが文化になっていったんじゃないかと思うので。そう考えると、DECO*27さんは2008年からずっと最前線で活躍されていて、本当にすごいですよね。

DECO*27:僕はkzさんの「Packaged」(2007年。livetune名義)を聴いてミクやボーカロイド文化のファンになって、自分もそこに飛び込んでみよう、と思って2008年の10月に初投稿したんですけど、その頃って「ボカロPになりたい」という憧れと「ミクが好き」という気持ちだけだったので、自分がどれだけ長く活動するかということも一切想像していなかったし、「今楽しいから、自分も参加して楽しむ」ということしか考えていなくて。だからこそ、最初はどういうスタイルで楽曲をつくるのかまで、頭が回っていなかったと思います。それもあって、当時は曲によって全然音楽性が違っていたし、むしろ、曲を投稿していくことで、「自分が曲を書いたときに人が喜んでくれる楽曲って、どういうものなんだろう」と、ユーザーの方と一緒に自分のスタイルを見つけていった感じでした。曲を上げているのは僕ひとりでも、大勢の人の意見がコメントにあって、その意見も受け取りながら次々に曲をつくっていく感覚で。その雰囲気が、とにかく楽しかったです。でも、初投稿は相当緊張しました。30分ぐらいプルプルして、全然投稿できなかったのをよく覚えています(笑)。

――DECO*27さんも、「みんなでつくる」というボカロ文化の魅力に惹かれたんですね。

DECO*27:そうですね。自分の曲を聴いてくれた人が、聴いて終わり、ではなくて、その曲にその人らしい歌い方や踊り方を付加して、ある意味自分の作品として発表してくれて、それを聴いた人たちが「この曲いいね」と興味を持ってくれて、そこからボカロに出会ってくれたりする――。僕は1曲を投稿しただけなのに、それを大勢の人が聴いたり、そこに参加してくれたりする様子を、「見ることができるようになった」のは大きかったと思います。

――ちなみに、松丸さんが初めて聴いたDECO*27さんの曲は何だったんですか?

松丸:結構珍しいと思うんですけど、僕が最初に聴いたのは「心壊サミット」なんですよ。

DECO*27:へええ!

松丸:ただ、その頃はまだランキングに入っている曲を聴いているような感じで、あまり特定のアーティストを重点的に聴くことはしていませんでした。でもその後「この曲もいいな」と思ったのが「二息歩行」で、「DECO*27さんって、どこかで見たことがあるぞ?」と調べてみたら、「心壊サミット」もつくった人だと分かったんです。それで「この人は何者なんだ?!」と。この2曲って全然曲調が違うので、最初はグループなのかと思いました。

DECO*27:(笑)。

松丸:本当に色んな曲をつくってくれるので、「次にどんな曲を出してくれるんだろう?」とすごく楽しみになりましたし、DECO*27さんの曲って歌詞が特徴的で、歌詞を見て「もしかして」と思うと、やっぱりDECO*27さんの曲だったりするんですよね。最近も、Adoさんの「踊」を聴いたときに「絶対そうだ」と思ったら、実際に作詞を担当していた、ということがありました。曲の最後にDECO*27って出てきて、「やっぱり!!」って。

――たしかに、DECO*27さんの歌詞には、本当に独特な言葉遊びや仕掛け、言い回しが詰まっていますよね。あの歌詞がどんなふうに生まれたのか、すごく気になります。

松丸:僕もめちゃくちゃ気になります。「二息歩行」も、足ではなくて「息」になっていたりして。どういう感覚でこんな歌詞を生み出しているのかと不思議になります。それで、この間「ネタ帳はあるんですか?」と聞いてみたら、昔のノートを見せていただいたんですよ。

DECO*27:(中学生時代の作詞ノートを出してくれながら)『ファーストワーズブック』ですね。

松丸:初めてつくった曲は、「未来」と書いて何と読む曲なんでしたっけ?

DECO*27:「未来(あす)」ですね。……って自分で言わせないでくださいよ(笑)。でも、自分としては、ボカロの投稿をはじめてから歌詞を大事にするようになっていったのかな、と思います。DECO*27として活動していく中で、ボーカロイドが歌うからこそ=物理的には感情が乗らないからこそもっと踏み込める部分があるんじゃないか、その方が面白いんじゃないかと思うようになったんです。それに加えて、ニコニコ動画って当時からサムネイルとタイトルを見たときに、それだけで気になってもらえるかどうかが大事でもあって。当時は特にランキングで曲を追ってくれる人が多かったので、「ランキングで気になるサムネ/タイトルじゃないと聴いてもらえないかな」と思って生まれたものでもありました。

――なるほど。ボカロ文化やニコニコ動画の特性が影響を与えたものだったんですね。

DECO*27:あと、僕は初期の19で326(ナカムラミツル)さんが書いていた歌詞や、ORANGE RANGEさんの歌詞が好きで、その2つがルーツになっているとも思います。326さんって、誰もが共感できる歌詞を口語体で書く方で、その会話しているような歌詞に衝撃を受けたんです。ORANGE RANGEさんは、ときには意味はないけれどもすごく頭に残っちゃう歌詞があったりして、その2つが、僕の中ではすごく大きくて。最近の「ヴァンパイア」や「シンデレラ」でも、音ハメしつつ頭に残る、かつ口語体で「いいの?吸っちゃっていいの?」「まだ絶対いけるよ」と歌うような部分は、その組み合わせでできている気がします。

松丸:最近、ちょうどまたよく聴いていたんですけど、「アンドロイドガール」もすごかったですよね。最初に出たときは、「二息歩行」の男女が出てきたことが衝撃的で、自分が「二息歩行」を初めて聴いた中学生のときの思い出がバーッと蘇ってきて繋がって。一度曲を止めて、「何てやばいことをする人なんだ」と思いました。DECO*27さんって、「この曲とこの曲が繋がっている」ということを連想させるのも、すごく上手い印象があります。曲を聴いていると、点と点が結びつくような瞬間が多くあります。

――DECO*27さんの場合、答えは言わずに「それぞれが自由に解釈してください」というスタンスを取っていますが、一方で色々なところに謎が張り巡らされている雰囲気で。

松丸:そうそう。たとえば最近だと、やっぱり「ヴァンパイア」と「シンデレラ」のイラストが同じ人物になっていることもすごく気になりますし。

DECO*27:なるほど……?

松丸:でも、この2つで終わるわけじゃない雰囲気があるなぁ、とも思います。

DECO*27:おおっ……!? 僕からは「なるほど」としかいえませんが(笑)。

松丸:(笑)。僕の想像でしかないですけど、同じ人だけどメインの感情が違うのかな、とか、そういうことが今後発覚していくのかな、とか、色々と想像できますよね。それが合っているかどうかより、そうやってワクワクさせてくれるところが「DECO*27さんだなぁ」と。

――話を聞いていて思ったのですが、もしかしたら、松丸さんが謎解きを好きな感覚とDECO*27さんの曲を好きな感覚には、似ている面もあるんじゃないでしょうか?

松丸:それはあるかもしれないです。謎解きに関して言うと、つくり手としても、解き手としても、「どこかで見たな」「どこかで解いたな」ということになるといけないので、同じアプローチに見せかけて、実は全然違うものになるようにズラしでつくることが多いんです。DECO*27さんの曲も、まさにそれですよね。「ヴァンパイア」と「シンデレラ」にしても、抑えている共通のエッセンスはありつつも、方向性も曲調も全然違うものになっていて。毎回楽しませてくれるという安心と信頼があるというか。そういう部分は、僕がクリエイターとしてDECO*27さんを尊敬しているところですし、多くの人たちを魅了している部分でもあると思うので、僕が謎解きをつくるときに心がけていることとも、もしかしたら通じる部分があるかもしれないです。と思いつつも……やっぱりちょっと恐縮ですね(笑)。

DECO*27:でも、確かに似ているかもしれないです。僕が曲をつくるときには、考察というか、色んな答えをみんなの中で出してもらいたいと思っているので、あえて具体的には書かなかったり、対象や人称をぼかしたり、あまり聞き馴染みのない言葉を混ぜて混乱させてみたりしています。みんなを楽しませるための考え方とか、同じものを繰り返すのではなく、ユーザーと向き合って「どういうものなら楽しんでもらえるかな」と考え続けることは、すごく似ていると思いました。そうやって楽しんでくれたら、ボーカロイドのファンが増えてくれると思うし、そういう子たちと5~10年後、もしかしたら一緒に仕事をすることだってあるかもしれないわけで。そういう、素敵な機会ができたらいいな、と。

――もともとリスナーだった松丸さんとも、こうして実際に出会っているわけですしね。

DECO*27&松丸:(口々に)本当にそうですよ。

松丸:10年前の自分に教えたら発狂しますよ……!(笑)。

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