12名のボカロPによる“コラボ”コンピ『キメラ』 3組のペアが語る「制作の裏側とボカロシーン」

3組のボカロPが語る『キメラ』

 ボカロP同士がペアを組み、共作で生まれた曲を収録したコンピレーションアルバム『キメラ』が、10月15日に発売される。

 世代も作風もバラバラの人気ボカロP12名が参加しており、ペアはあみだくじでランダムに決定。アルバムタイトルの通り「このペアからどんな曲が生まれるんだろう」というワクワク感が、多くのボカロファンを惹きつけている。

 あみだくじの結果は、主催のはるまきごはん・煮ル果実がYouTube配信で発表した。今回はその中から、一二三×ピノキオピー、ナユタン星人×Chinozo、かいりきベア×Aqu3raの3組の対談を一本の記事にまとめてお届けする。

“コラボ”コンピレーションアルバム「キメラ」Teaser

 各ペアの制作の様子や裏話を振り返りつつ、14日から開催されるボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection(ボカコレ)』がシーンにもたらした影響についても、語ってもらった。

『The VOCALOID Collection』特集はこちら

一二三×ピノキオピー 「一二三さんの和メロに絶大な信頼があった」

一二三(左)とピノキオピー(右)
一二三(左)とピノキオピー(右)

――まずは「サクラノタトゥー」を制作された、一二三さんとピノキオピーさんにお話をうかがっていきます。今回ご一緒するまで、お互いに抱いていた印象から教えていただけますか?

ピノキオピー:曲から受けていた印象としては、抜群に良いメロを書かれる方だなと思っていました。サビが毎回最高なんですよ。歌詞もすごく素敵で、チクっとする所があるんですけど、誰かを攻撃する言葉というより、自分のことを内省して迷っているような感じで。そこがいいなと思っていました。

一二三:そんなふうに丁寧に褒めていただけると、すごく恐縮してしまいますね……! 僕は学生時代からピノキオピーさんの作品を聴いていたので、今回ご一緒できることになってめちゃめちゃ気持ちが昂りました。ピノキオピーさんは、歌詞のテーマやタイトルもインパクトのあるものが多いですし、発想力豊かなアイデアマンな方だなあと思っていました。

――それぞれに武器を持っているお二人だと思うんですが、今回一二三さんが作編曲、ピノキオピーさんが作詞、編曲という分担になった経緯を教えてください。

ピノキオピー:一二三さんの和メロに絶大な信頼があったので、ぜひ活かしたいと僕から提案させていただきました。あと、僕自身は桜に関する歌詞を書いたことがなかったので、桜をテーマにどうですか、と。

一二三:そうでしたね。そこから「じゃあギター僕が弾きます」みたいな感じになって。

ピノキオピー:そう、僕はあんまりギターを弾けないので(笑)。そんな感じで自然と決まっていきました。

一二三:ボカロの調声も、せっかくなら初音ミクと音街ウナの二人でとか、アイデアがいろいろと浮かんで。悩むことなくそのまま決まっていった感じですね。

ピノキオピー:制作するにあたって「喧嘩にならないかな、大丈夫かな」と考えていたんですけど、話してみたら一二三さんが優しそうな方で安心しました。最初の通話のとき、すごく盛り上がって1~2時間くらいずっと喋ってましたもんね。

一二三:僕は本当に、「迷惑をかけるわけにはいかない」というプレッシャーと、「頑張ろう」というモチベーションの両方でしたね……。あのピノキオピーさんとコラボできるんだ、としみじみ実感していました。

応援歌「サクラノタトゥー」の歌詞に込めた想い

――その後の制作はどのように進んでいきましたか?

ピノキオピー:先に一二三さんにオケとメロのラフを作っていただいて、そこに僕が歌詞を入れていくという順番でした。ラフの時点で最高ではあったんですけど、それをもとに「展開はこうしたらいいんじゃないか」と話し合って。僕の編曲段階でも、また展開を変えてみたりしました。

――曲は景気のいいお祭りソングのような雰囲気ですが、歌詞を見ると、シリアスでハッとさせられるフレーズも盛り込まれています。作詞ではどんなことを意識したんでしょうか?

ピノキオピー:本人は何もやましいことはないのに、周りからそうだと決めつけられたらそれが事実のように見えてしまうことってあると思うんですよね。逆に、自分でやましいことをしている自覚があると、周りに賞賛されても後ろめたさがぬぐいきれないとか。どちらも心のタトゥーのように、ずっと残り続けるものだなあと考えていて、そこから膨らませていきました。でもどちらかというと応援ソングに近いんですよ。「それでも生きていきましょう」「前向きに考えられたらいいね」みたいな。だから、曲としては明るい感じに仕上がっています。

一二三:めちゃくちゃ深いし、面白いですよね。これまでのピノキオピーさんの作品同様、個性が出つつ、自分にもすんなりなじむ内容でした。2~3回目くらいの通話で、ピノキオピーさんに歌詞の書き方を聞いたことがあるんです。そうしたらピノキオピーさんの書き方が、自分と全然違ったんですよ。

 僕はタイトルとテーマを決めたら、あとは思いつくままにつらつらと書いていくんですが、それだと最初と最後で齟齬が生まれやすいんです。ピノキオピーさんは最初に関連するワードを用意しておいて、そこから抽出して組み立てていく書き方をされていて。すごく参考になりましたし、すでにいまも活用させてもらっています。

ピノキオピー:逆に僕からこの曲のような旋律は出ないから、「すごく新鮮で一二三さんぽくていいなあ」とただ感じていました。やっぱり、その人からにじみ出るメロディは真似できないなと思いましたね。サビは一二三さんが僕の作風を意識して、僕好みな感じにしてくださったんです。

一二三:たとえば、ピノキオピーさんは繰り返しのフレーズを使うことが多いイメージだったので、サビの「サクラは消えない」の所に繰り返しを取り入れたりしています。逆に自分のやりたいこととして、「ヨナ抜き」と呼ばれる、和風を感じさせるようなスケール(音階)を取り入れました。

 最初は全体的にもう少し暗めの和風曲だったんですけど、ピノキオピーさんのアレンジで結構明るくなったんです。

ピノキオピー:そうですね。シンセで結構陽気なアレンジにしましたし、鼓の「ポン!」って音を入れたり、音街ウナのライブラリに入っている掛け声を使ったり……段々エスカレートしてしまいました(笑)。

――今回、いろんなペアのボカロPさんが参加されていますが、自分たちの曲以外で楽しみだったペアはありますか?

ピノキオピー:主催の煮ル果実さんとはるまきごはんさんですね。主催ゆえのプレッシャーがある中で、どんな曲を作ってくるんだろうと気になっていました。でも先行で動画が上がった「運命」を聴いたら、もうめちゃくちゃよくて。

一二三:僕も同じく、はるまきごはんさんと煮ル果実さんの主催コンビは気になっていました。すべてのペアの作品が楽しみだったんですが、例えばかいりきベアさんとAqu3raさんのように、まったく方向性が違う作風の人たちの組み合わせも楽しみでしたね。

ボカロの世界にもハレとケが必要

――お二人とも過去の『ボカコレ』に、インタビューやライブ、Stemデータ配布などを通して参加いただいています。『ボカコレ』はボカロカルチャ―にとって、どんな存在になってきていると思いますか?

ピノキオピー:ボカロって、一回落ち着いた時期を経て、2020年ごろからまたふつふつと盛り上がってきていると思うんですよね。『ボカコレ』は、その盛り上がりを象徴するようなお祭りだと感じます。ニコニコ動画さんがプラットフォームとして、そのお祭りを始めてくれたことが僕は嬉しかったですね。

 『ボカコレ』を見ていると、ボカロの世界にもハレとケが必要なんだなと感じます。実際、あんなに同時に作品が投稿されることってあんまりないですし、その中でちゃんとランキングがあって、みんな切磋琢磨して、突出するものがあればちゃんと話題になったりしていて。新しい人が日の目を見るいい場所になってるな、というのを感じますね。

一二三:僕も一番最初の『ボカコレ冬』は、投稿こそできなかったものの、様子は拝見していました。春にはR sound Designさんと対談させていただいたんですが、回を経ながら感じるのは、新人ボカロPさんがしっかり注目されるすごくいいイベントだなと。やはりこういうお祭り騒ぎが定期的にあるのは、嬉しいですよね。(参考:R Sound Design×一二三 ライバルであり戦友、同じ時代を駆け抜けた2人がボカロを使い続ける理由 – 音楽ナタリー

ピノキオピー:ボカロ文化はニコニコ動画の、投稿してランキングに載って、という文化から生まれてますしね。その実家のような場所が、ちゃんと掃除して、綺麗に整えて、模様替えして、新しいお客さんを招き入れようとしてる感じが、いいなと思って見ています。

一二三:このまま定番のイベントになっていってほしいですよね。『ボカコレ』に合わせて、新人のボカロPやすでに活動されてるボカロPたちがこぞって投稿する流れはすごく楽しいですし。あとはリスナーさんも、何かしらの形で関われたり発信できるような仕組みがあればいいかもしれませんね。

ピノキオピー:24時間テレビのFAXじゃないですけど、あんな風に感想が常に届く場所があったら面白そうですね!

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