DECO*27×松丸亮吾対談 ボカロPとリスナー、それぞれの視点から語り合う「ボーカロイド史」

DECO*27×松丸亮吾 対談

松丸「曲をつくっている人と歌っている人が両方評価される時代になってきた」

――お2人が実際に会ってみての印象についても教えてください。

松丸:曲を聴いている時点では、僕はDECO*27さんって、どこか乙女な感性も持っている人だな、と思っていました。というのも、DECO*27さんの曲って表向きの面と本音の面とで「どっちが本当なんだ」と感じることがあると思うんですよ。たとえば、「ヒバナ」の「もっとちゃんと不安にしてよ」「もっとちゃんと痛くしてよ」という歌詞もすごいと思っていて。その分かりそうで分からない感じって女心っぽい感性なのかな、と自分の中では思っていたんです。なので、(ボカロP特集の)『バズリズム02』で共演して初めて会ったときは、「すごく気さくなお兄さんで、イメージとは真逆だな……?」という印象でした。「やっぱり、DECO*27さんって27人いるのかな?」って(笑)。

DECO*27:「いま出てきているのがトーク担当で……」みたいな(笑)。松丸さんは「頭がいい人なんだろうな」と思っていたんで、最初は「見透かされそうだなぁ」と思っていました。まぁ案の定、見透かされているとは思うんですけど、いつも「すごく鋭いな」と思います。どんどん答え合わせをされる気がするというか。

松丸:いえいえ、僕はオタクなだけなので。意外と言われることはありますけど……。

DECO*27:でも、実際に話してみたら本当に僕らの音楽を熱心に聴いてくれていて、すごく嬉しかったです。「こんなにしっかり聴いてくれてるんだ!」って。

――プロデューサー/リスナーとして、これまでのボカロシーンについて2人が印象的だった出来事があれば教えてもらえますか?

DECO*27:僕の場合、つい最近までは2010年に「モザイクロール」をたくさんの人に聴いてもらったことでした。ただ、それが印象に残り過ぎたがゆえに、「この曲を越えないと一発屋になってしまう」という気持ちが自分の中にずっとあって。それを完全に超えた、と思えたのが、今年に入って発表した「ヴァンパイア」だったんです。なので、一番印象的だった出来事は2つになっていますね。

――長く続けていながら、同時に最高を更新できるのはすごいことですよね。

DECO*27:僕は変化を好むタイプなので、聴いてくれる人たちに飽きられるのが嫌なのと、そもそも自分が自分に飽きることが嫌なんだと思います。同じことを何回もやっていると、ちょっと違うな、と思ったりするので。

――先ほど、「活動当初は『楽しい』『ミクが好き』という気持ちだけだった」と話していましたが、今は活動への向き合い方も変わってきた部分があると思いますか?

DECO*27:ボカロが好きだからボカロPになって、1曲投稿した時点で「ボカロPになる」という目標は達成されて。その後「自分は何をやりたいんだろう?」と考えたときに、やっぱり、僕がkzさんの「Packaged」を聴いて受けた衝撃と同じようなものを、誰かに感じてもらいたいな、という気持ちが大きくなりました。あのときの気持ち、未だに忘れられないんですよ。あのいい意味で人生を狂わされたような体験を、今も現役で活動しているからこそ、曲を通して若い世代の人たちに体験させてあげられたらいいな、と。今はそういう気持ちがめちゃくちゃ大きいです。

松丸:今ってボカロPや歌い手出身のアーティストの方々が、本当に色々なところで活躍されていますよね。場合によっては、「へえ。この人もボカロの人なの?」と、逆向きのベクトルで知られる場面もあって、それってすごいことだな、と思うんです。YOASOBIさんやヨルシカさんもそうですし、ちょっと違うかもしれないですけど、Adoさんだってそうだと思いますし。そういう盛り上がり方を見ていても、曲をつくっている人と歌っている人とが両方評価されている時代にどんどんなってきていて、すごいな、と思うんですよ。

 音楽をつくる人と、それをパフォーマンスする人の両方に光が当たる世界になることって、どっちも目指す夢があってすごくいいことですよね。実は、それが僕の活動においても勇気をもらっている部分があって。「謎解き」って、もともとゲームとしてはたくさんあったんですけど、つくった人が前に出てくる文化はないものでした。なので、僕の場合は、出題者としてTVに出たりすることで、子供たちにも「謎解きをつくる人がいて、そういう人になれる」という選択肢を知ってもらえるんじゃないかと思っていて。だからこそ、僕はいちリスナーとしても、つくってくれる人たちへの敬意を忘れないようにしたいと思っています。

DECO*27:(頷きながら)嬉しい。

松丸:それに、ボカロの場合、wowakaさんのような方たちがつくった楽曲が、今でも若い人たちに聴き継がれていますよね。もしいつか自分がなくなったとしても、生み出したものがその先にも残り続けることって、すごく偉大だと思うんです。そういうことが当たり前になっていたり、それが風化しない、それを新しいものとして聴き続けられるボカロシーンって、すごく魅力的だな、と思っています。

DECO*27:僕も、「残し続けたい」って思っているんですよ。実際、さっき松丸くんが好きだと言ってくれた「アンドロイドガール」を、「二息歩行」から10年越しのストーリーの続きとして書いたことにもそういう理由がありました。あの頃だと、「乙女解剖」などで僕を知ってくれた人たちが、ありがたくも僕の過去をさかのぼってくれるとは限らないので、だったら自分が動いていけばいいんだ、と思って。それで「アンドロイドガール」をつくって、「二息歩行」をビデオで結びつけてみました。そうすると、コメント欄の人たちが、知らない人たちに「この曲はこの曲と繋がってるよ」と優しく教えてくれて、繋がっていったりするんですよね。「自分が書いてきた曲が、色褪せずに、新しい世代のなかでも循環してほしい」ということは、僕も特に意識していることでもあります。

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