音楽ゲームの「楽曲移植」論ーー『beatmania IIDX INFINITAS』と『pop’n music Lively』の楽曲パックから考える

PC版音ゲーの今後

 2021年2月4日に公開されたコナミホールディングスの四半期決算によれば、同社内でACゲーム(音楽ゲーム、メダルゲーム、麻雀ゲーム等)とパチンコ・パチスロ機を統括するアミューズメント事業は、コロナ禍の影響を受け前年同期比で売上高31.7%減という厳しい状況の下ながら、10%もの営業利益率を伴う黒字を確保した。今後も予断を許さない時勢が続く以上、外部要因への依存を低減するため、家庭でアミューズメント施設と接近した体験を提供するPCプラットフォーム「コナステ」上の展開はさらに推進されると予測される。実際、コナステではこれまで展開してきた音楽ゲームやクイズゲーム『クイズマジックアカデミー』、麻雀ゲーム『麻雀格闘倶楽部』等に加え、『アニマロッタ』『マジカルハロウィン』ほか主力メダルゲームタイトル各種のPC版への注力も方針として打ち出している。音楽ゲーム事業内でも、現在アルファテストの状態にある『DanceDanceRevolution』は、他タイトルと同様に正式版リリースや専用コントローラーの発売の検討が行われていると考えられる。

 今回の『INFINITAS』『Lively』楽曲パックにはいずれも「vol.1」とナンバリングが振られている。今後も本件と同様に、比較的コンパクトな楽曲パッケージをフォーマットとした両タイトル間の相互移植を計画していると推測される。またPC版BEMANI作品のうち『GITADORA』『ノスタルジア』は演奏型の(キー音を持つ)音ゲーであり、前述の通りこれらは『INFINITAS』『Lively』を含め相互移植の相性が良い。もちろんインターフェースの違いやプロダクトデザイン上の相性という前提こそあり、例えば『ノスタルジア』は基本的に鍵盤楽器の演奏音のみをゲームプレイに割り当てる制約のもとゲームデザインを行っている。とはいえ今後、これら機種間でのさらなる楽曲移植(特に音楽性の成約の少ない『Lively』への移植)は少なからず試みられてゆくものと予期が可能である。

 AC版音ゲーの収録曲は『pop’n music』が既述の通り約1600曲、『beatmania IIDX』も約1400曲にも達している。これだけ豊潤なコンテンツを有するにもかかわらず、とりわけ古いバージョンの楽曲はプレイヤーの注目を集めにくい傾向にあり、既存リソースの活用という面では課題がある。先述の『BEMANI PRO LEAGUE ZERO』では戦略上、新曲を問わず”クセの強い”ゲーム性を携えた楽曲が活用されやすい環境があり、21年の歴史を持つシリーズ収録曲中から、バリエーション豊かな楽曲群がフィーチャーされ視聴者に強い印象を与えた。今後展開される本リーグ『BEMANI PRO LEAGUE』はもちろん、本件のような楽曲パックによる移植もまた、あまたの収録曲の中から様々な切り口で旧曲にスポットライトが当たる貴重な機会としても機能し得る。

 家庭用作品のゲームプレイのオンライン配信(いわゆる実況プレイ)のノウハウが確立された現在、主流プレイヤーによる実況配信はこの傾向を加速させるだろう。実際、コナミ公認プロプレイヤーのDOLCE.、公式競技大会「KAC」の『pop’n music』部門で9年10部門連続優勝を果たしているTATSU、前出企画「BEMANI PRO LEAGUE ZERO」でも「王者」と称され絶対的な実力を見せつけたu*taka(ゆうたか)といった有力選手は、それぞれ数万人の登録数を持つ各自のYouTubeチャンネルで本楽曲パックの実況配信を実施している。

 改めて強調する。音楽ゲームにおける楽曲移植は、既存リソースの安価な流用という単純な理解では片付けることのできない、長い歴史と各々に込められた意図、そして次々に波及してゆく多様な展開を持つ一つの文化である。今後ますますの発展を見せるであろうPC版音ゲーの中でもこの慣習は多々活用され、スマホゲームやゲームセンター、そして個々のゲーマーとその価値観をも巻き込んで、音楽ゲーム文化そのものを盛り上げる立役者の一つとなってゆくだろう。

(画像=(C)2020 Konami Amusement)

■市村圭
音楽メディア「ポプシクリップ。」編集部所属のライター。音楽誌「ポプシクリップ。マガジン」で音楽ゲームに関するコラムを連載中。 執筆参加作に「ゲーム音楽ディスクガイド2」(ele-king books)。

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