TikTok CMにも出演 バズる動画連発の「レミたん」に聞く、ハンドボール日本代表との“両立”
“レミたん”という愛称で知られるハンドボール選手、土井レミイ杏利をTikTok内の動画やCMで見たことのある人も多いのではないか。
見る人に元気を与えるようなユーモラスな動きやアイディアが話題となり、TikTokのフォロワーは現在170万人(2020年12月時点)に及ぶ。人気TikTokクリエイターでありハンドボール日本代表のキャプテンでもあるというギャップを持つ土井選手にTikTokクリエイターとして花開くまでの経緯や、これからの目標を聞いた。
TikTokを始めたのは友達のすすめ 徐々にその可能性に気づいていった
ーーTikTokを始めたきっかけは、留学でフランスにいた頃、友人に勧められたことだったそうですね。
土井レミイ杏利(以下、土井):はい。日本にいる友達とのライングループがあって、そこで一時期TikTokが話題になったんです。最初はあまり興味をもっていなかったんですけど、みんなから「やったら絶対面白いからやって」とゴリ押しされて。僕がどういう人間か知っているうえで、ここまで勧めてくるのは、何か理由があるに違いないと思って、押し負けてダウンロードしてみたのが最初です。そして、いざやってみたら、結構面白くて。なので、あくまでスタートは友達の期待に応えるためでした。
ーー最初は仲間内しか見ないだろうと思っていたんですね。
土井:そうです。彼らが僕のことを「レミたん」って呼んでるから名前もそのまま「レミたん」にしただけで、そこまで大きな意味も持たせていないんです。
ーー自分の周り以外の反応が増えたり、「これだけ広がってるんだ」というのを感じた瞬間はありますか?
土井:最初はフォロワー0からのスタートで、友達が数人フォローしてくれるだけだったのに、ある日一つの動画がバズったんです。その一本の動画だけで、1日で4000人くらいフォロワーが増えたことに驚きましたし、TikTokの可能性に気付きました。しかも、その4000人はハンドボールと全く関係ない人たちでした。
自分の活動を通してハンドボールという競技を広めたいという思いはずっとあるのですが、それにはフォロワーの分母の数を増やさないといけないし、ハンドボールをやっている人たちじゃなくて、その外にいる人たちに興味を持ってもらわないといけない。そういう意味でもTikTokは「もってこいのアプリだ!」と思い、ただ遊ぶだけじゃなく、そういう目標を持ちながらやろう、と決意した瞬間でもありました。
フランス留学中に試行錯誤 日本でバズるまでの道のり
ーーフランスから発信をするなかで、試行錯誤したことはありますか。
土井:最初はフランスから動画を投稿していて気づいたんですけど、日本の曲を使ってもフォロワーがフランス人ばかりだったんです。TikTokでハンドボールを日本に普及させられるかも、という可能性には気づいたものの、日本人は知り合いからしかフォローされなくて。TikTokのアルゴリズムを自分で分析したり、発信者と同じ国にいる人に届きやすいなら、日本にいる友達に新しくアカウントを作ってもらってログインすれば届くかな……などと試行錯誤したんですが、どれもダメでした。
フランスで動画がバズった後は、フォロワーの属性がヨーロッパからちょっとずつアジア圏内に入って、タイの方が見てくれて……と徐々に日本に近づいてはいたのですが、届いている感覚はなくて。日本に早く帰って、TikTokをやりたいと思うほどでした。
ーーかなり研究熱心ですね。もともと研究・分析するのはお好きなタイプなんですか。
土井:めちゃくちゃ好きです。新しく始めることや好きなことに関しては、人に教えてもらうよりも自分で分析して、なんでもやってみたいと思うタイプなんです。成長する過程を感じるのが人にとって一番楽しい瞬間だと思ってるので、色々な分野で成長している自分を見るのがものすごく楽しくて。
ーースポーツにせよTikTokにせよ、成長する瞬間に喜びを感じているわけですね。
土井:ハンドボールもそうですが、スポーツって相手のことを分析して試合に臨むのが当たり前なんです。それに、小さい頃から親に「世界一になりなさい」と言われて育ってきたので、なんでも極めるのが当たり前だと思っているのもあるかもしれません。
コミカルでノンバーバルな「レミたん」のルーツ
ーー幼少期からの教育や性格も大きく影響しているということですね。TikTokではキレのあるコミカルな動きや表現が人気の要因だと思うのですが、そういったパフォーマンスのルーツがあれば聞かせてください。
土井:小さい頃から、ジム・キャリーと志村けんさんとチャップリンが好きだったんです。「世界共通で理解できる笑い」、「言葉がなくても仕草だけで笑える国境がない笑い」って、すごくいいなってずっと思っていて。
ーーそれが自分でも表現できるようになったのはなぜだと思いますか?
土井:親は「自分で道を選んでいいけど、やるからには世界一になりなさい」と言うだけで、何も教えてくれないんですよ(笑)。「言うことは言うけどあとは自分で考えて吸収して」というタイプで。例えば初めてスケートリンクに連れて行ってもらって、全然滑れないから親に補助をお願いしても、何も教えてくれなくて、「あそこにすごい上手い人いるでしょ。あれについていきなさい」と言われるだけで。だからこそ、小さい頃から観察する力とそれを真似する力が並以上に鍛えられていて、人より細かい所まで分析できることで、結果として自分の表現力が高まったのかもしれません。
ーーあらゆることに主体的にチャレンジして、分析してきたからこそ今があるということですね。
土井:そうですね。最初から全部、人に教えてもらうとすぐに答えがわかっちゃうから、考える力が身につかないんです。だから、なにか問題にぶち当たったら、人に聞く前に自分でやってみて、ダメだったら人に聞くようにしています。
ーーTikTokの撮影や編集において、強く意識していることはありますか?
土井:その前の段階として、他の人の動画を見て「なんでこの人はバズってるんだろう」と分析することは多いです。細かい話をすると、どのタイミングで何秒から何秒まで音が流れる、とか、音が盛り上がるからオチになるような表現をしてるとか、そういった手法は常に研究するようにしていますね。
その研究があったうえで、3つのことを強く意識しています。1つ目は15秒しかないサービスなので、いかにわかりやすくするかということ。2つ目はカメラの質や自分の演技、写角といった映像面でのクオリティ。そして、3つ目はオリジナリティ。TikTokはトレンドがわかりやすいが移り変わりも早いので、みんなが同じことを一気にやりがちなんです。なので、トレンドには乗っかるけれど、自分の色を付け加えてアレンジして、自分のものにすることを意識しています。そうすればオリジナリティが生まれるわけです。もちろん0からつくることもありますが、meme(ミーム)を取り入れつつ、アレンジしてオリジナリティを生み出すことが、一番見てくれる方を飽きさせないことに繋がると考えています。
さらに、照明にもこだわるようにしています。明るい方がもちろんいいんですが、悲しい表現をしたいときは部屋を暗くして顔に影ができるような場所に照明を置くとか、この表現をするときはどの角度から撮影するのがベストなのかとか全部考えます。最近テレビを見ていても、字幕がどんな色でどんなアニメーションを使っているのか、どんな効果音を使っているのかと、制作側の視点で考えてしまいます(笑)。