『Oculus Quest2』はVRデバイスの役割を変化させる? 機能や販売戦略から“エンタメに与える影響”を読む

『Oculus Quest2』はエンタメをどう変える?

 10月13日、Facebook社よりVRデバイス『Oculus Quest2』が発売された。

 同デバイスは、ゲーミングPCを必要とせず単体でVR作品を楽しむことができるスタンドアローンVRヘッドセット型で、軽量かつ容量64GBのモデルが33,800円(税別)で、256GBのモデルが44,800円(税別)と低価格な部分や、デザインも白を基調としたポップなものに仕上がっており、これまでVRに興味の薄かった層でも、求めやすいモデルとなっている。

 そんな『Oculus Quest2』の登場は、VR業界にどのようなインパクトを与え、エンターテインメントの分野をどのように変化させるのだろうか。今回はそれらについて知るため、Psychic VR Labの執行役員であり、VRプラットフォーム「STYLY」のプロダクトマネージャーを務める水谷享平氏へ寄稿を依頼。VRデバイスにおける“役割の変化”と、Facebookが狙う“ネットワーク効果”などについて、示唆に富んだ視点を提供してもらった。

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 待望の『Oculus Quest2』(以下、Quest2)がついに発売されましたね。

 私もFacebook Connectの発表中に予約をして入手しました。家にはすでに沢山のVRヘッドセットがあるのですが、この値段とスペックを見せられては買わざるを得なかったわけです。「また新しいVRのやつ買ったの?」と嫌そうな顔をする妻をガーディアン境界線の向こうに置き去りにして、すでにだいぶ遊ばせてもらいました。

 Quest2、本当に良いデバイスです。普段、初代『HTC VIVE』を使っている私にとっては特に画質の向上が驚異的で、目を凝らしても網目(スクリーンドア)が見えないのにはいたく感動しました。Quest2のスペックやおすすめタイトル、使用感のレビューなどはすでに多くの記事が出ていると思うので、ここでは少し異なる角度から「Quest2の登場によって、何が変わるのか」について触れていきたいと思います。

 初代『Oculus Quest』(以下、初代Quest)からQuest2になって変わったことで私が注目しているのは、Facebookの戦略の変化です。一言で表すと「Facebookの戦略が明確にネットワーク効果を狙ったものになった」という点です。言い換えると、Quest2以降のVRでは「コミュニケーション」というのが今まで以上に重要に、そして当たり前になってくるだろうということになります。

 初代Questは、主に一人で遊ぶゲーム機でした。「VRゲームを気軽に遊ぶためのデバイス」といった位置づけの延長線上に『Rec Room』や『VRChat』などはあったものの、当時のゲームのほとんどは一人用ゲームでした。

 しかし、Quest2はどうでしょう。いまやVRを代表するゲームとなった『Beat Saber』がマルチプレイヤーモードを導入しました。またデバイスの発売から少し遅れて発売された『Population:One』も話題ですが、これはいわゆる「バトロワもの」です。国産ソフトではバーチャルキャストもリリースされました。またFacebook公式によるVR SNS、Facebook Horizonのリリースも予告されています。

 また、悪名高い「Facebookアカウント連携」が実装されました。アカウントがBANされるという文脈で取り上げられることが多いFacebookアカウント連携ですが、Facebookの狙いは明らかで、ユーザー同士でコミュニケーションを取ってもらい、“ネットワーク効果”を発生させて欲しいわけです(正直、Facebookアカウントがその目的に適しているかは疑問ですが、その議論はここではしません)。

 “ネットワーク効果”とは、プラットフォームの提供する価値が、プラットフォームの参加者数に応じて爆発的に増加することを指します。これを誘発するには、プラットフォームの参加者(つまり、Quest2の所持者)同士のネットワーク、コミュニケーションが価値をもつ必要があります。

 Questが一人で遊ぶゲーム機だった頃は、そこにネットワーク効果が生まれる余地はありませんでした。プラットフォームの価値はユーザー数に対して線形にしか増えず、それはまるで初代のゲームボーイのようなものです。

 これに対して、Quest2ではコミュニケーションに価値をもたらす体験を増やすことで、プラットフォームとしての価値・魅力を一気に押し上げようというのです。まさに、初代ゲームボーイに通信対戦を導入することで、のちに世界的なIPとなった『ポケットモンスター 赤・緑』のようなものです。

 コミュニケーションを促進する、というのは一種の賭けです。なぜなら、コミュニケーションに価値をおいたプラットフォームは、逆に過疎化すると圧倒的に魅力がなくなるからです。“一人でも遊べるデバイス”は、自分一人が持っていればOKでした。しかし、『Beat Saber』をマルチプレイヤーで遊ぶには、誰か友人が必要です。Quest2を持っている友人が、です。

 Facebookがネットワーク効果を狙った戦略に舵を切るということは、デバイスを普及させるという覚悟を決めたということです。FacebookがQuest2の値段をここまで落として、(特に日本では)本気でマーケティングをしているのは、まさにそういった背景があるのだと思います。

 VRをギークが一人で遊ぶものから、みんなで一緒に楽しむものにする。VRがそのフェーズに入ったということを、VR最大手の一社であるFacebookが判断したということこそ、Quest2が持つ大きな意味だと、私は考えています。

 ではこれは、VRエンタメにとってどういう意味を持つのでしょうか。

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