遊びの力は社会を変えることができるのか? バンダイナムコ研究所に聞く”FUNGUAGE”というデザイン戦略

バンダイナムコ研究所インタビュー

 バンダイナムコグループで「今までにない新しいアソビやエンターテインメントの創出」をテーマに様々な研究開発を行っている株式会社バンダイナムコ研究所が、東宝スタジオのプロダクションセンター内に「バンダイナムコ研究所 東宝スタジオラボ」を新設した。

 バンダイナムコ研究所はこの他にも東和薬品との服薬支援ツール開発や、農研機構とドローン・AIを利用したスマート育種(いくしゅ)評価法の開発など、ゲームやエンターテイメントの枠を超えた研究に取り組んでいる。

 今回はバンダイナムコ研究所イノベーション戦略本部フューチャーデザイン部の本部長でありアイドルマスターやリッジレーサーシリーズのサウンドプロデュースでも知られる大久保博氏と、同部部長の高橋みなも氏に、ラボ新設の狙いと研究所の目指している世界を聞いた。(布村壮太)

遊びの実験を、社会実装していく

ーーまずは、「バンダイナムコ研究所 東宝スタジオラボ」の設立に至った経緯をお聞かせください。

高橋みなも

高橋みなも(以下、高橋):元々、バンダイナムコ研究所はバンダイナムコスタジオ内のR&D部署であった時代からMR(ミックスドリアリティ)をはじめとするxR領域の研究を行っていて、『シン・ゴジラ』のイベント『ゴジラ・ナイト』でのネットワーキングをきっかけに、当時開発していたMRコンテンツを体験していただいたり、映画製作の現場を見せていただいたりと、東宝スタジオ様との相互交流が始まりました。どちらの会社も最先端技術を駆使したエンターテインメントを目指しており、お互いが持っている知見やノウハウを融合することで、これまでにない映像表現やユーザー体験を生み出すことができることへの期待と可能性を感じ、ラボの設立に至りました。

 また、xR領域の研究では、機材設置やユーザーの移動範囲などを考慮すると、ある程度の「空間」の確保も必要になってきます。一定のセキュリティが保たれた上で、広大な敷地や建物がありGPSも使える実証空間を本社拠点以外にも設けられたことは、研究所の今後の研究全体に大きく寄与すると思っています。

ーー研究全体に影響するのですね。

大久保博(以下、大久保):そうですね。我々はこれまでのゲームやエンターテインメント施設のアソビの要素と最先端技術を組み合わせ、ゲーム画面の外、つまり社会に実装するような研究にも取り組んでいます。ですので、こういったMRも含めたxR領域の研究として現実とデジタルを組み合わせた新しいアソビ体験を生み出していく実験の場としてもラボを活用したいと考えています。スタジオの広い敷地や建物を街と見立てれば、広域での実証実験などもできますからね。 

ーーバンダイナムコ研究所では育種評価法や服薬支援ツール開発も発表されており幅広い研究をされているように感じます。どのように研究テーマを決めているのでしょうか。

大久保:バンダイナムコ研究所は『エンターテインメントの新しい価値を創出するエンターテインメントイノベーション集団』として、先端テクノロジーとアソビを掛け合わせ、新しい体験を生み出すというのをミッションとして掲げています。先ほどのxR領域とあわせて、深層学習ベースのAI研究も重要なテーマとして取り組んでいます。

 このAIとxRを活用したエンターテインメントの創出が、主なテーマになってはいますが、こういった最先端技術の研究を進めている中で、参加した学会や各種カンファレンス等を通じて繋がった外部企業様からのご相談をきっかけに取り組みはじめるテーマ等もあります。製品やサービスの課題を技術やエンターテインメントの力で解決できないか、ゲームのような使い易いデザインやUIやUXについてなど、相談の内容はさまざまです。

 それが「バンダイナムコってこんな研究も取り組んでいるんだ」と話題になるようなテーマであれば、そこからまた新たなオープンイノベーションに繋がる可能性もありますし、ゲーム開発においては当たり前のような技術が、ゲーム外にも広く応用できることを知ってもらう良いきっかけにもなりますので、メインテーマはありつつ、そういった様々な観点からテーマの設定がされている感じです。

ーーゲームや”遊び”が社会にもたらす恩恵として、どのようなことを考えていますか?

大久保博

大久保:我々はゲーミフィケーションとはまた違ったアソビのチカラについても取り組んでおります。その一つに「FUNGUAGE」という取組があります。「FUNGUAGE(ファンゲージ)」は”楽しい”を意味する「Fun」と”言語”を意味する「Language」を合わせた造語で、人やモノの関係においてアソビのチカラを取り入れることで、行動を誘発し、”FUN”を伝播させ、”楽しいつながり”を生みだすデザイン戦略プロジェクトです。“楽しい”からこそやりたいという気持ちが行動に繋がり、それが伝搬していくことで、社会が幸せになれる部分があるんじゃないかという考えに基づき、様々な活用を模索しています。

 昨年2019年の『SxSW』や『CEATEC 2019』で展示したロボット「Q56(キューゴロー)」にも「FUNGUAGE」の要素が活きています。このQ56という展示は、ゼビウスというシューティングゲームを強化学習によって攻略するAI技術を紹介する際に作られました。見た目はダンボールでできたロボットで、見る人はQ56がゲームをプレイする姿を背中側から見ることになるのですが、何度も撃墜されながらも果敢にそして、一心に先のステージを目指す姿がなんとも健気に感じるんですね。

 AIのゲーム攻略は高度な技術であり確かにコンテンツとして面白いですが、単にAIによって操作されている画面を展示するだけよりも、”一生懸命がんばってプレイしている”ように見えるロボットの姿をAIに与えることで、それを見ている人間がAIに対して「がんばれ」「よくやった」などの感情を抱くようになるんです。機械に対して「がんばれ」ってなるわけです。ゲームオーバーになり振り返って悲しい顔をすると「良いプレイだったよ」と思わず声をかけたくなる。

 コンピュータプログラムに対して人々が感情をもつという未来社会では当たり前になるかもしれないことの一つの表現例だと思っています。モノと人、人と人、モノとモノという間でもこういった感情が起こったり、伝搬したり、そのきっかけが“楽しさ”なら幸せな社会になるんじゃないかという考えですね。

© BANDAI NAMCO Research Inc. ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 他にも、私の専門は元々ゲームサウンドデザインだったのですが、2015年に発売された自動車『シャア専用オーリス2』の車内サウンドや未来の住宅ショウルーム内のサウンド等、ゲーム外のサウンドデザインにも携わってきました。

 音には様々な機能や役割があって、音によってプレイヤーの気持ちは揺さぶられます。ノンバーバルな表現手段として、サウンドがこういった社会においても活用できることは以前からの取組で認識していましたが、このFUNGUAGEというデザイン戦略の中もきっと音は役にたつだろうと考えています。

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