カルチャー好きな10代はPodcastをディグる時代(第1回)
以前、10代のPodcastリスナーの少なさと、それでも明るいPodcastの展望予想についてのコラムを書いたが、(「日本の若者がPodcast番組をもっと聴くようになるには? 10代が自身の視点で考察」)今回は10代に聴いてほしい、カルチャーを取り上げたPodcast番組について紹介していこうと思う。知見のある大人たちがカルチャーについて本気で討論を繰り広げたり、ひたすら個人的な良し悪しを一人で語っていたりするのを聴くのは、本を読むのと同じくらい何か得るものがあるはずだし、カルチャーについて考えるなら、同じくカルチャーに真剣になっている人たちの意見をふんだんに吸収して、自己解釈していくことが大事なのではないだろうか。
1.日本のカルチャー系Podcastの先駆者「三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast」
ライターやDJ、『the sign mazgazine』のクリエイティヴ・ディレクターなどを務める田中宗一郎と、スターダスト所属でカルチャー好きなモデル・タレントの三原勇希がホストを務め、毎回ゲストを迎えて、さまざまなジャンルのカルチャーについて“時間を気にせず”長尺で語り合う番組。「超・雑談」と題して映画・音楽などのポップ・カルチャーの今昔を熱く語り合うこの番組は、普段、アーティストやカルチャーに対する、内輪の肯定的な言葉ばかり耳にしている10代なら、最初は驚くだろう。カルチャーにどっぷり染まって生きてきた大人たちによる本気のディスカッションは、自身のカルチャーへの向き合い方の浅さを自覚させてくれる。
ゲストもクセの強いカルチャー人ばかりで、例えば、もはや今では準レギュラーである映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が登場する回などは、トークの展開の速さに拍車がかかる。毎度盛り上がり、ときに暴走に近い状態になる討論において、常に「うーん私は、そんなことないと思いますけど……」と水を刺してくれる三原が、カルチャー討論に慣れていない10代リスナーにとってはオアシスである。この番組の展開形式について、田中は音楽ナタリーのインタビューで、「音声メディアは結論や正解を回避することができる」「僕自身は少なくとも作品批評の上では解釈の多様性や可能性を広げることがやりたい」と語っており、「最終的な結論や正解はオーディエンスの1人ひとりが導き出すような環境作り」をしたいのだという。確かに、この番組では毎回白熱した議論が繰り広げられるものの、最終的な結論や考察はリスナーに任せられている。つまり、これからのカルチャーについて考える立場にある「10代」にピッタリなのである。ホストとゲストたち、そして彼らを取り巻く業界人間との人間関係が彼らの口調からはっきりとよく見えるのも、この番組の面白さの一因であろう。色んなカルチャーに興味を持っている10代にはまず聴いてほしいPodcast番組である。
個人的にオススメの回は、「#87書くこと。『ルポ川崎』著者、磯部涼と Guest: 磯部涼、宇野維正」。それぞれのジャンルで活躍する書き手たいが繰り広げる、ハチャメチャな武勇伝や本音、葛藤は、彼らが自分自身の職業の定義や意義について語っているからこそ胸に迫るものがある。そしてやはりこの回も三原がオアシスだ。全部聴き終わった後、音楽ジャーナリストの柴那典氏による反論ツイートも伏せてチェックすると、よりライターという職業に対する理解が深まるはずである。
磯部涼さん回のPOPLIFE:The Podcast。初回から超面白いんですけど、少し反論を。
「ウェブは雑誌より原稿料が安い」
「若手のライターが台頭してない」この2点は少なくとも僕の視点から見えてる事実とは違います。沢山の新しい書き手が頭角を現してる。https://t.co/fPFpTfm088#POPLIFEThePodcast
— 柴 那典 (@shiba710) August 23, 2020
『リズムから考えるJ-POP史』のimdkmさんはまさに頭角を現してますし、交流ある面々なら小田部仁さんとか矢島由佳子さんの世代も頑張ってるなーと思うし、もっと若い世代だと抜群の切れ味が竹田ダニエルさん、あとは荻原梓さん、照沼健太さん、辰巳JUNKさん、ノイ村さん、yoshiさんとか沢山います。 https://t.co/VnSFCxkMfC
— 柴 那典 (@shiba710) August 23, 2020