キュートなミニチュアに秘められた、語られない惨劇ーーばらばらの空間を結びあわせるパズルADV『The Almost Gone』
『The Almost Gone』は、ベルギーに拠点をおくヨースト・ヴァンデカスティーレ氏がシナリオを手がけたポイント&クリック式のパズルアドベンチャーだ。PC/Mac向けにSteamにて配信されているほか、iOS/Android向けアプリも配信中で日本語に対応。また海外でのみNintendo Switch版がリリースされている。
可愛らしい絵本のような画に惹かれて本作を始めた人は、最初の警告に面食らうだろう。「このゲームでは、一部のプレーヤーに不安を抱かせるおそれのある、デリケートで大人向けの内容を扱います」。忠告のとおり、『The Almost Gone』はグラフィックとは裏腹に苦々しくシビアなストーリーを秘めた作品だ。
物語の開幕、「そのすぐ後」とだけ告げられてプレイヤーはこの世界に降りたつ。いったい“何の後”なのかはわからない。自宅の寝室で覚醒した主人公は、外へ出るためにさまざまなパズルを解いてゆく。よくキャンプへ連れていってくれた父と、多くの本を買いあたえてくれた母の痕跡が家のあちこちに残されている。しかしふたりの姿は見あたらない。ただ、夫婦の仲が芳しくなかったことは、徐々にプレイヤーにも伝わってくる。
違和感は、冷えきった家の空気だけではない。まるでドラマのセットをこしらえたように運びこまれたらしい荷物の数々。ところどころ、壁や床を突きやぶって侵食している木の根。一見ありふれた家のリビングでありながら、ここが現実の世界ではないらしいことが嫌でも伝わってくる。
本作のパズルはシンプルなものが多く、「Aの部屋にあったものでBの部屋の仕掛けを解く」といった定番のギミックがほとんどだ。部屋ごとに重要な部分がスポットで示されるため、無駄にあちこちをクリックするストレスもない。ただし『The Almost Gone』では一点、困難ともいえる要素がある。それは空間構造の把握だ。各部屋はブロックごとに区切られ、分断されている。ミニチュアの部屋をぐるぐる回して観察し、見終わったら隣の空間へテレポートするのだ。部屋の各所は断片としてしか提示されず、全体の見取り図を頭の中で組み立てにくい。特に慣れない序盤は、紙と鉛筆で図を書かないとエリアごとのつながりがわかりにくく苦労するだろう。
場所が「点」としてしか存在せず、「空間」として認識できない。プレイヤーにできるのは点と点を結び、「線」構造として地図を把握するくらいのことだ。それは暗い夜の空に星を見上げ、星座を見出す心もとなさに似ている。ちょうど作中で主人公が星座に親しむようになったのは、父親が熱心に教育した成果によるものという。建築家だった父の手紙に導かれて旅するジオラマの世界は、急ごしらえの建築モデルのようでもある。