特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.7)
fhána佐藤純一と“オンラインライブ”を起点に考える、創作と人間の本質 「フィクションを信じられるのが、人間の人間たる所以」
「フィクションを信じる力がなかったら、人間は他の動物と同じ」
佐藤:あと、いろんな配信ライブを見て思ったのは、カメラマンが動かしているカメラ映像と、固定カメラの映像とでは、画が持っている力が全然違うということです。固定カメラを多数設置してスイッチングしているだけだと、圧倒的に画がつまらないものが多くて。そりゃ人件費のかからない固定カメラよりも、実際にカメラマンを何人も投入するほうが予算もかかるし良いに決まっているわけですけど、でも、なぜこんなに違うのか?ということを改めて考えてみると、そこに人の意思が介在していないからなんじゃないかと思ったんです。実際にカメラマンがリアルタイムでカメラを操作しているものは、カメラマンの意思が画に反映されているんですよね。実際に歌ったり演奏している人の意思だけでなく、カメラマンの意思、スイッチャーの意思、音声をミックスするエンジニアの意思、それらすべてが反映されているわけで、そういう意味でも、コンテンツというのはチームとしての総合的な芸術なんだなと改めて感じさせられました。逆に言えば、人や予算が多くても、みんなの意識がバラバラだと、散漫なものにしかならないということでもあるんですが。
ーー複雑ゆえの面白さが宿る、ということですね。
佐藤:そうですね。このコロナ禍になる前、「星をあつめて」を作ったとき、人が何か作品に感動するときっていうのは、その作品が伝えようとしている感情とか世界観とか、つまりその作品の中心にある「本質」と回路が繋がったときだと思ったんですよ。音楽家は音楽で、役者は演技で、脚本家は脚本で、デザイナーはデザインで、カメラマンはカメラワークで、監督はそれらをディレクションすることで、それぞれが本質に向かって回路を作る。その作品に触れる人は、それらの回路のうち何かにひとつにでも引っかかって、中心まで繋がることが出来たら、作品の持っている本質が流れ込んできて感動したり、良さを理解したりする。クリエイターの役割というのは、そうやって本質に向かって道を作ることなんじゃないかと思ったんです。
ーー以前のインタビューで話してくれたことにもつながっています。
佐藤:最近、ユヴァル・ノア・ハラリがコロナ禍について語っているインタビューが面白かったので、彼の代表作の『サピエンス全史』(石器時代から21世紀までの人類の歴史を概観した書籍)のことを思い出していました。ホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人をはじめとした他の人類よりも知能や身体能力が劣っていたにも関わらず繁栄したのは、ホモ・サピエンスだけが「フィクションを信じる力」を得たーーつまり”認知革命”を起こしたからだそうなんです。「フィクション」というのは虚構のことですが、つまり「宗教」でもあるし「物語」のことでもありますよね。フィクションを信じる力を持たない場合、人はせいぜい200人ぐらいでしかまとまれないらしいんですが、宗教のようなフィクションを信じることによって、より多くの人が団結することができる。
「フィクション」つまり「物語」の力があると、人は感情移入をしやすくなる。アニソンで感動するのも、アニメの物語とセットになっているからですよね。フィクションを信じる力を持っていることが、人間が人間たる所以だとすれば、その力がなくなってしまったら、人間は食べて寝て快楽を満たすだけの動物になってしまいます。コロナ禍においてエンタテイメントや芸術の分野が「生きる上で必要ない」と軽視されていますが、本当に必要なくて、食べて寝て生きてるだけでいいなら、それは人間であることを放棄することと同義な気がするんです。
――動物としては不必要かもしれないけれど、人間としてあるためには必要だと。
佐藤:そういう観点からも、エンタテインメントや芸術文化を守ることについて、きちんと考える必要があると思います。至ってシンプルな結論にたどり着くはずですから。
“アニソンアーティスト”はいま、危機を迎えている?
ーー面白い見立てですね。fhánaは「物語」を大事にしながら活動してきて、沢山のアニメ主題歌を担当してきたわけですが、アニソン・シーンもいま厳しい状況に置かれているのでしょうか。
佐藤:じゃあ、最後にひとついいですか? どちらかというとアニソンアーティスト向けの話なんですけど。これはコロナ禍になる前から思っていて、最近より問題意識が加速したのですが、ここ数年で、アニソンアーティストという存在自体、結構難しい状況に置かれてきているなと思っているんです。
ーーそれはなぜでしょう?
佐藤:そもそもアニソンアーティストの定義は、アニメやゲームの主題歌や関連曲を歌っているということだと思います。アニソンアーティストは、今まではタイアップを3作品くらいやったらアルバムを出して、ライブやツアーをするというサイクルで活動してきたわけですが、ここ数年は特に、タイアップがついても必ず売れるとは限らなくて。劇場版『SHIROBAKO』の冒頭でも語られていましたが、そもそも鉄板といえる作品でもヒットしないことが多いですし、アニメの本数自体も減っている。鉄板アーティストと鉄板作品の組み合わせは相乗効果がありますが、それ以外のヒットの見込みの薄い作品のタイアップを、中堅〜新人アーティストが奪い合っている状況で。声優アーティストなら声優としての活動が本業なのでそれでも良いのですが、現状、アニソンアーティストってすごくジリ貧状態なんですよね。それに、アニソンファンというのは、基本的にはアーティストのファンじゃなくて、作品のファンが多いんです。タイアップ先のアニメが当たって曲がヒットしたとしても、それが積み上げられず、次にタイアップしたアニメが当たらないと、曲も売れない。
――アーティストのファンが必ずしも固定でついてきているわけではないんですね。
佐藤:普通のアーティスト活動だったら、シングルがヒットすれば、アーティスト自体のファンが増えて、その次のシングルがどんな内容であろうと、少しは底上げされるじゃないですか。
――それがどんどん右肩上がりで上がっていくのが一般的な推移ですよね。
佐藤:でも、アニソンアーティストにおいては1回1回リセットされちゃう。だから、アニソンアーティストと言えども、タイアップに頼らずに、アーティスト自体のコアなファンを増やしていかなければ生き残っていけないと思っているんです。fhánaだったら『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『COUNTDOWN JAPAN』のような、アニソン以外のイベントやフェスに出たり、今回のオンラインライブのように自分たちでライブを企画したりしていますし、他のアーティストならYoutube中心で活動するとか、何かすごくクローズドなコミュニティを中心に活動するとか、それぞれに適したサバイバルの手段を模索する必要があると思います。このコロナ禍でアニメの制作自体も延期になったり、作品数が減ってたりする中で、なおさらタイアップが減るわけですよね。だからタイアップに頼らずに自分たちで切り開かなければいけない状況が加速しているなと。
――タイトになっていく業界の中で生き残って行かなければいけない、という状態から、いきなり業界の外に放り出された形に近いんですね。
佐藤:そうです。アーティストによっては、梯子を外された感覚に近いかもしれません。fhánaとしてはこの状況も踏まえて、以前よりも自分たち発信で動いていきたいと思っているので、今回の新曲「Pathos」を作ったり、オンラインライブを企画したという面もあります。とはいえ、ポジティブな気持ちもあって。正直、このオンラインライブをやるにあたって、僕自身はかなりワクワクしてるんです。先日のZoomファンクラブイベントもギリギリまで心配だったんですけど、やってみたらめちゃくちゃ面白かったんですよ。しばらく活動できなかったことで、towana、yuxuki、kevinのテンションもむしろ上がっていますね。
「fhána Sound of Scene ONLINE "Pathos"」では通常のライブの代替品ではなくて、新しいコンテンツを作ろうとしています。これが成功すれば、コロナが落ち着いて通常のライブができるようになった後も、オンラインライブという新しい選択肢が増えることになるんです。
――これまでと違う、第3の選択肢を作っているという感覚なんですね。
佐藤:そうです。危機的な状況に陥って初めて出てくる発想が、世の中を前に進めることもあるはずなんです。
――社会が変革する、すごく重要な瞬間に立ち会っているともいえます。
佐藤:いま、僕たちは歴史の教科書に確実に載るレベルの事態に立ち向かっている。そしてfhánaとしては、そのなかで新しいアクションを起こさなきゃないけない、という使命感を持っています。その使命感を胸に、オンラインライブでは画面の向こう側のみんなひとりひとりのために音楽を届けます。ライブを観てくれるみんなと一緒に、新しい時代を作っていきたいですね。
■ライブ情報
『Sound of Scene ONLINE "Pathos"』
開催日:2020年7月26(日)19:30 - 21:00
チケット:¥3,000(税込)
チケットはこちらから
※アーカイブ映像は2020年8月2日(日)23:59 まで視聴可能
『fhána Sound of Scene ONLINE "Pathos" AFTER MEETING!』
時間:21:30 - 22:30
チケット:¥1,000(税込)
チケットはこちらから
『fhána FC「fhána home」限定 Zoomミーティング』
時間:22:45〜
※FC限定 Zoomミーティングの詳細は開催当日に「fhána home」にて発表。
【ライブグッズ販売中】
「fhána Sound of Scene ONLINE"Pathos"」オリジナルTシャツ(White、Blackの2色)をイベントページにて販売中。
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