ゲーム実況者・セピアが語る、表現活動としてのこだわり「ゲーム実況は“思いの共有“」

ゲーム実況者・セピア インタビュー

 人気ゲーム実況者の原点を探る、インタビュー連載「ゲーム実況のふるさと」。今回は、博識と丁寧かつ強度の高いトークで異彩を放ち、デビュー11周年を迎えたいまも変わらないスタイルで人気を博しているゲーム実況者・セピアのインタビューをお届けする。ゲーム実況者になった経緯から、彼の代名詞になっている任天堂作品との出会い、そして、デビューから現在に至るまで一貫して活動の拠点とし、並々ならぬこだわりを持つniconico(ニコニコ動画)への思いまで、語り尽くしてもらった。(編集部)

■これまでのゲーム実況者インタビュー
加藤純一×もこう「ゲーム実況中なら死んでもいい」
倭寇(わこう)×えふやん「企画は思い浮かんだ瞬間がピーク」

「みんなで共感して楽しむような動画を」

――あらためて、セピアさんが「ゲーム実況」を始めた経緯から教えてください。

セピア:2007年の夏、友人から「ニコニコ動画っていうヤバいサイトがあって、見ていたらあっという間に1日が終わるぞ!」という話を聞いて、動画を見始めたのがきっかけです。当時、あまり人数は多くなかったもののゲーム実況動画をアップしている方々がいて、知らず知らずのうちに熱中して見るようになって。ただ、そこからしばらくは完全に見るだけでしたね。もともと、私は機械とかインターネットにはてんで弱くて、いまも説明書を見ているとクシャクシャに丸めたくなるくらいなんです(笑)。だから、ゲーム実況も自分がやるものではないと思っていました。テレビ番組を見ているのと近い感覚だったというか。

――そこから、自分でもやってみようと思ったのはなぜでしょう?

セピア:音楽を長く続けていて、もともと自分が表現するものを見ていただきたい、聴いていただきたい、という欲求は強い方だったんです。動画を見ているうちに「自分だったらこうできるかな」と思うところも出てきて、2009年の初めにやってみようと決意しました。もともとゲームは大好きで、物心がつくと同時にコントローラーを握っていたような感じで。だから、実況動画のためにゲームをプレイする、という感覚はありませんでしたね。

――セピアさんはアーケードゲーム『クイズマジックアカデミー』の“ガチ勢”だったことでも知られていますね。

セピア:そうなんです。数年間わりとドップリやっていて、ちょうど2009年の初め頃、大会という区切りがありました。毎日のようにゲームセンターに通って、他のプレイヤーと情報交換をして……という日々を過ごしていたのですが、それがなくなったときに、何か新しいことをしたいと思って。それがゲーム実況を始める大きなきっかけのひとつでした。ただ、申し上げたように機械がd苦手なので、そこからが大変でしたね。先達たちがまとめてくれたサイトに載っている配線図をメモして、電機屋さんの親切なお兄さんに一生懸命説明して。家に帰ってからセッティングが完了するまで、丸5日間かかりました(笑)。

――当初から動画を見させてもらっていて、笑いどころもしっかりありながら、とても丁寧なトークが印象的です。大騒ぎのゲーム実況も、もちろん面白いのですが、セピアさんの場合はもう少し大人の実況というか。

セピア:ありがとうございます。1年間動画を見てきたなかで、賑やかで楽しそうな実況者さんも好きだったのですが、私がより憧れたのは、ひとりで滔々としゃべっているのに、内容で引き込ませるような実況だったんです。そこに近づきたい、という思いがありつつ、やっぱり最初は試行錯誤でしたね。

――目を引く動画タイトルもそうですが、セピアさんは「言葉」を大事にしている実況者だというイメージもあります。

セピア:これは武器にも弱点にもなり得ると思うのですが、短いフレーズでも強く伝えることができるのは、自分の持ち味だと思っています。発声/発話という意味でもそうですし、自分の考えをしっかり伝えるという意味でも、ハッキリしゃべろう、というのは意識していて。実は外国の方からメッセージをいただくこともわりとあって、「セピアさんの日本語はハッキリしていてわかりやすいので、勉強になっている」と言ってくださることがあるんです。うれしい反面、教育上よろしくない話もそこそこしているので、「お手本にするのはやめて!」とも思うんですが(笑)。一方で、強い言葉は伝わるべき形で伝わらないと誤解を招いたり、人を傷つけてしまったりするので、「もろ刃の剣を振るっているんだ」ということは忘れないようにしないといけないなと。

――尖った存在感がありながら、子どもさんから外国の方まで、幅広いファンを抱えているのは、セピアさんの代名詞にもなっている『ゼルダの伝説』シリーズを始め、数多く動画を上げてきた任天堂作品の影響もあるのかなと思いました。

セピア:そうですね。私は生粋の任天堂っ子で、最初に触れたゲームも『スーパーマリオブラザーズ』か『ゲーム&ウオッチ』のどちらかだと思うんです。だから、ゲーム実況を始める上でほぼほぼ任天堂作品以外の選択肢はありませんでした。任天堂のゲームって、一般的なイメージは「子ども向け」だったりすると思うのですが、決してそれだけにとどまらないんですよね。“黒い任天堂”なんて言葉もあるように、大人が見ると毒や皮肉を感じる表現があったり、受け手によって捉え方が変わる包容力があるというか。


――本当は怖いグリム童話、みたいな。

セピア:そうそう、子ども向けに見えて、実は恐怖や不条理を含んだ童話のようなところがありますよね。あとは単純に、キャラクターを動かしているだけで面白い、というのも大きいと思います。何もないフィールドを駆け回っているだけで面白い、というのはゲームの本質にもつながる、実はスゴいところで。最近プレイしたタイトルに『進め!キノピオ隊長』というゲームがあるのですが、本当に歩いているだけでずっと見ていたくなるような可愛らしさがあるんです。ゲームでキャラクターが動くのは当たり前ですし、普通は見逃してしまうようなところかもしれませんが、そんな基本中の基本をいまも突き詰めているのが素晴らしいなって。実況者的に言うと、隅々まで楽しいから、収録していて「何をしゃべろうか……」と苦心することがないんですよ。

――セピアさんにとって、任天堂作品はゲーム実況向きでもあるんですね。

セピア:もちろん、これまで動画にさせてもらってきたゲームに退屈だったタイトルはないのですが、「これはしゃべり続けるのが大変だな」というものはあって。任天堂作品はそういうことがないですし、これからもずっとプレイしていくと思います。

――さて、セピアさんがゲーム実況をスタートしたのはシーンの黎明期ですし、そこから10年経つと、環境はずいぶん変わってきていると思います。セピアさんは、どんな変化を感じていますか?

セピア:決してどちらが良い悪いという話ではないのですが、例えば初見プレイのシリーズ動画より、既プレイで解説寄りの動画の方がよく見られる傾向になってきたように思います。「ゲーム実況動画」が当たり前のものになり、攻略サイトの代わりに検索されている部分もあるでしょうし、eスポーツ=対戦ゲームの隆盛もあって、「ひとつのドラマ」としての連続性より、「1試合」「1トピック」という単発の動画を求める方が増えているというか。

 初見プレイで、スキルも知識もなかった人が少しずつそのゲームの世界観に親しみ、成長していく姿を、共感を持って見守っていく――そういうタイプの動画は、自然と時間も長く、パート数も多くなります。だから、ゲーム関連に限ってもさまざまな動画があるいま、相対的に視聴のハードルが高くなっていると言えるかもしれません。ただ私は、1視聴者の立場として「攻略がスムーズに進むのか、進まないのか」ということも含めて、その実況者さんならではプレイを見て、ゲームへの解釈を聴くのが好きですし、じっくり世界観を考察したり、音楽に言及したりしながら、みんなで共感して楽しむような動画が好きなんです。もちろん、そうやってゆったり動画シリーズを追いかけてくれる人もいますし、これからもそういう動画を届けられたら、と考えています。

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