インタビュー連載『ゲーム実況のふるさと』
ゲーム実況者・セピアが語る、表現活動としてのこだわり「ゲーム実況は“思いの共有“」
「ゲーム実況はニコ動で見るのが一番面白い」
――「ゲーム実況動画」というカルチャーは、日本ではニコニコ動画から大きく広がっていったと言えると思います。おっしゃるようにいまやプラットフォームを問わず、広く楽しまれるものになりましたが、セピアさんはニコ動での活動にこだわりを持っていますね。
セピア:そうですね。いまもゲーム実況はニコニコ動画で見るのが一番面白い!と思っています。この10年間のシーンの変化として、ゲーム実況動画がクローズドなものから、オープンなものになったと思うんです。10年前はちょっとアングラというか、物好きが集まって、他の人には堂々とはオススメできないような、密かに企みを共にするような面白さがあったじゃないですか(笑)。そもそも、「ゲームの前で独り言を言っている動画」って、相当マニアックですよね。それが当たり前になり、娯楽のひとつと言っていいものになった現状は、好きな人間からするととても喜ばしいことです。ただ同時に、ゲーム実況動画が供給されるのが当たり前になったことで、実況者と視聴者が“共謀者”であるような感覚が薄れてきているのは、当然のことと理解しなければならないのでしょうが、少しさみしく感じることでもあります。例えば、ニコニコ動画のすごいところは、動画投稿者が「ここはあまり面白くできなかったな」と思ってしまうシーンも、視聴者の人たちがコメントで面白くしてくれることなんです。
――確かに、トークがスベってしまうような場面があっても、タイミングよく「……」「ん?」などのコメントがつくと面白くなりますね。
セピア:そうなんですよ。もちろん、ニコニコ動画の視聴者さんはとても手厳しいので、それに甘えていると「調子に乗んなよ!」としっぺ返しを受けるのですが(笑)。私はいまも、視聴者さんと一緒に動画を作っているという感覚ですし、「実況動画は黙っていても出てくるもの」という感覚ではなく、厳しいツッコミも含めて、自分も参加している気分で見ていただけたらとてもうれしいですね。私も含めて、そういうコミュニケーションのなかで育った実況者が多いですから。
――動画外の活動では、昨年8月に舞台『勇者配信中』に出演し、俳優としての活躍も話題になりました。そこで得られたのはどんな経験でしたか?
セピア:5日間の公演をやったんですけど、千秋楽が終わった後の挨拶で、共演者の方に「嘘でしょ!?」と言われるくらいボロ泣きしてしまって(笑)。そこで強く感じたのは、普段の動画活動も含めて、やっぱりエンターテイメントは「人」が作り、「人」とコミュニケーションするものなんだ、ということなんです。プロデューサーさんや演出家さん含めて、興行として成功させるというミッションを背負っているのに、稽古中には一切そんなこと口に出さずに、私のような初心者にも、ものすごく親身にアドバイスをくれました。「プロの言うことを聞いていればいいんだ!」ということが一切なくて、採算度外視で、作品としての質を高めるために最大限の努力をしていて。それを目の前にいるお客さんのために懸命に届けるというのは、本当に感動的な体験でした。そして、結果的に採算部分でも大成功だったというおまけ付きで。結果は後からついてくる、というのはこういうことなのかなあと。
翻って普段の実況動画を考えてみると、収録するのも基本的にひとりで、また視聴者さんも目の前にはいないこともあり、どうしても再生回数や登録者数、コメント数など、「数字」に目が行きがちです。先ほど申し上げたように、試行錯誤のプレイから生まれるドラマより、攻略プレイが求められるようになってきたという感触もあり、正直、自分がゲーム実況動画をつくる意味がわからなくなりそうなときもあって。4Gから5Gの時代になり、テクノロジーもどんどん進化していくなかで、やり方も変えなければいけないかもしれない。でも、舞台を経験させていただいて、私はやっぱり「人」が見える動画に感動するし、視聴者さんとのコミュニケーションを重視して動画を作っていくことを続けようと思いました。「世の中に合わせて変わらなきゃ。そういうところがダメなんやで」と言われてしまうかもしれませんが、これは私の意地ですね(笑)。
――なるほど。セピアさんがニコニコ動画に軸足を置いているのは、コメントなどから「人」が見えやすいプラットフォームだからかもしれませんね。
セピア:そうかもしれないですね。あるゲームの公式放送で、チャンネル登録者が何十万人もいるYouTuberの方とコラボをしたとき、「ニコニコ動画で生まれ育った人は、きちんとファンがついているからうらやましい」と言われたんですよ。それはやっぱり、検索で動画に行き着くというより、動画を一緒に作っていく、という体験がニコニコ動画というプラットフォームにあるからだと思って。あまりに言いすぎていて、ありふれた言葉になってしまっているかもしれませんが、視聴者のみなさんがいなかったら、今の私は絶対にいないですし、本当に心から感謝しています。これからも、動画に限らず見てもらえる価値のあるものを作らなければと、気を引き締めています。
――期待しています。最後に、セピアさんにとってゲーム実況とは。
セピア:私にとっては「思いの共有」ですね。これからも視聴者さんと意見をガツガツぶつけ合いながら、一緒に面白い動画を作っていきたいと思います。