Spotify、なぜポッドキャストに注力? アメリカ市場の分析から“音声コンテンツの可能性”を示す
Spotifyが12月4日、都内にて、オーディオを使った新しいコミュニケーションについて考えるトークセッション「#loveAudio」を開催した。この日の大きなテーマの一つは、近年で存在感を増している音声コンテンツ「Podcast(ポッドキャスト)」について。スポティファイジャパン株式会社でビジネスマーケティングマネージャーを務める石井恵子氏が登壇し、アメリカと日本の事例を紹介した。
Spotifyといえばもちろん、音楽配信サービスの世界最大手として市場を牽引する存在だが、今後は音楽だけでなく、広くオーディオコンテンツを提供する「オーディオファースト・カンパニー」を目指すことを宣言している。この日取り上げられた「デジタル音声広告」の展開とともに、コンテンツとしてはポッドキャストにフォーカスしており、今年2月には、関連事業を展開するGimlet MediaとAnchorの買収を発表していた。
世界に先駆けてポッドキャストの人気が広がっているアメリカの市場調査によると、ポッドキャスト数は70万以上、エピソード数は2900万以上、想定リスナー数は9000万以上に及び、約3人に1人が聴いているという。また、アメリカのポッドキャスト市場は過去4年間の平均成長率が65%を超え、2019年の広告収入は6億8000万ドルという着地予想が出ている(2018年は4億8000万ドル)。エンターテイメント産業全体を見ても、期待が集まる成長分野だといえそうだ。
それでは、具体的にどんなコンテンツが聴かれているのか。Spotifyのデータによれば、ユーザー数のトップ3は「エンターテイメント」「教養」「政治・時事」の順。聴取時間は「スポーツ・犯罪モノ」「エンターテイメント」「ホラー・超常現象」の順となり、家でくつろいでいる時間、長期よりドライブ中、通勤・通学中と、多様な場面で、シチュエーションにあったさまざまなコンテンツが聴かれている。「犯罪モノ」というのは、ポッドキャスト人気を加速させる要因の一つとなった「シリアル(Serial)」を指し、犯罪ジャーナリズムという刺激的な内容で、3億4000万ダウンロードを記録している。
石井氏はポッドキャストの人気の理由として、今や新しい形のストーリーテリングとして「カルチャーになっている」こと、音声コンテンツという成長分野で「スピーディーに制作できる知的財産」と捉えられること、また、初心者でも簡単にポッドキャストが作れるオープンプラットフォームが充実しており、「誰もがポッドキャスターになれる」こと、そしてデジタルメディアの新たな収益源として注目されており、ポッドキャストに特化したアドネットワーク事業者も登場するなど、「広告市場が確立」してきていることを挙げた。
また、Spotify Japanのデータによれば、日本語ポッドキャスト数は今年2月と比較して、現在は50倍に急増。人気を牽引しているのは、TOKYO FMで放送中の人気番組『ヒプノシスRADIO supported by Spotify』のポッドキャスト版『ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-』だ。その他、『フューチャートーク by NewsPicks』『水原希子 OK Friends』『MUNDIAL JPN』などのオリジナルコンテンツも人気を博しているという。そんななかで、若年層に新しいアプローチでリーチしたい、というメディアやインフルエンサーから、ポッドキャストへの関心が高まっているようだ。
石井氏はデジタル広告について「過去10年は“スクリーンの時代”で、ビジュアル喚起の最適化が行われてきたが、視覚情報は飽和状態で“入ってこない”。次の10年は“スクリーンレスの時代”で、リスニング喚起の最適化を考える時代になっているのではないか」と述べた。Spotifyは同様に、ポッドキャストを中心としたオーディオコンテンツのさらなる可能性を確信しているようだ。
(取材・文=橋川良寛)