相馬トランジスタ監督映画『誰にも会いたくない』に見た“クリエイターの生き様” 彦根での上映会をレポート

映画『誰にも会いたくない』上映会レポ

 滋賀県彦根市のひこね市文化プラザで10月5日、YouTuber・相馬トランジスタ(相馬栄吉)の初監督作品『誰にも会いたくない』の上映会が行われた。本作は今年4月の第11回沖縄国際映画祭に出品され、多くの人気YouTuberが熱演を見せたことでも話題になったが、その後、広く公開されることがなく、ファンからの期待が高まっていたなかでの上映だった。

 当日の舞台挨拶には、相馬監督&主演のたなか(元ぼくのりりっくのぼうよみ)のほか、主要キャストのてつや(東海オンエア)、わきを、雨野宮将明(ガーリィレコードチャンネル)、相馬の相方で“大道具”として制作をサポートしたへきほー、共同監督を務めた金森正晃が登壇した。本稿では、出演者たちのコメントを引用しつつ、この映画を観たくても観られていない、という人のために、作品の内容を改めてご紹介したい。

 本作は滋賀県彦根市に実在する、コミュニケーションに問題を抱えている人を支援する「誰にも会いたくないカフェ」という取り組みがベースになっている。作中で、たなか演じる主人公のウミズは、大学入試での失敗から家にひきこもってしまうが、あるきっかけで琵琶湖のほとりにある「どんぐりカフェ」に通うようになり、そこで、自分と同じようにひきこもっている妖怪たちと出会い、交流を深めていくーー。

 たなかは本作が映画初出演だが、繊細な演技で観客を引き込んでいく。母親の過剰な愛情を重荷に感じ、夜の街を徘徊しては、好きな歌を歌う。いまにも壊れてしまいそうな、危うい青年を好演していた。撮影は実質3日間という強行軍。舞台挨拶でたなかは、「結構辛かったなって……(笑)。琵琶湖が寒くて、マジでガクガク震えながらやってたんで」と振り返ったが、一方で「ただ、すごい楽しかったです」とも語っており、充実した時間を過ごしたようだ。

 そして、どんぐりカフェで出会う妖怪たち。口は達者だが、内弁慶で一歩が踏み出せないカッパ(わきを)、ゲームは得意だが、感情表現ができないのっぺらぼう(てつや)、名家に生まれ、頭でっかちに育ってしまったテング(雨野宮)という、それぞれに“生きづらさ”を抱えたメンバーが、傷を舐め合うように、表面上はぶつかり合いながらも、肩を寄せ合っている。そのやりとりは、さすがトップYouTuber&芸人というところ。一瞬、素が見えるようなシーンもあり、自然と笑いこぼれる。

 相馬監督は「ひとつだけ自画自賛すると、配役だけは超ぴったり、最高だった」と語っていた。重要な役どころに抜群の演技力で応えて見せたわきをは、カッパの特殊メイクで街を歩き、「どんな反応をされるかと思ったら、目の前を通ったパトカーですら、完全にスルー(笑)」というほど、“妖怪の街”として知られる彦根市に馴染んでいた様子。また、相馬監督が「ダメもとでお願いして、まさかのOKだった」と語った人気者、東海オンエア・てつやの演技は、金森監督も「顔も出さず、一言も喋らないであそこまで引き込めるなんて……訓練とかしてないんだよね?」と絶賛するほどの存在感を示していた。初対面のキャストも多いなかで、だんだんと打ち解け、仲良くなっていく様子が「ひきこもりの主人公があるカフェに行って仲間を作る、という物語とリンクしてリアルだった」という、相馬監督の言葉が印象的だ。

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