相馬トランジスタ監督映画『誰にも会いたくない』に見た“クリエイターの生き様” 彦根での上映会をレポート
相馬監督はまた、事前のインタビューで「正直、もっといいものを作りたかったという、悔しい思いが強い」と語っており、確かに、短尺と過密スケジュールの都合上カットされたシーン、描けなかったエピソードが多かっただろうことは伝わってきた。クライマックスでは、「都市開発によりカフェが潰されてしまう」というなかで、彼らが大きな一歩を踏み出すことになるが、ウミズと妖怪たちの交流、淡い恋も含めて、「どんぐりカフェ」への愛着が醸成されていく過程のエピソードがやや少なく、性急に思える部分もあった。
しかし、この上映会のために集まった観客は知っている。監督と主要キャストが、リアルでも「普通に生きられなかった」愛すべきクリエイターたちだということを。そして、彼らが必ずしも多くの人から理解されず、ときに後ろ指をさされながら、それでも動画を、ネタを、音楽を作り続けてきたストーリーを。「ファン向けの映画」と言えばそうかもしれないが、演者自身のストーリーが物語の行間を埋めており、シリアスなテーマに似つかわしくない数の笑いとともに、胸を締めつけられるような切なさのある映画だった。パッケージ化やさらなる上映機会があることを願いたい。
(取材・文=橋川良寛)