『デススト』小島秀夫監督に聞く“ゲームとナラティブ” 「ゲームとストーリーテリングは相性が良くない」

小島監督に聞く“ゲームとナラティブ”

全世界のあらゆる死生観を入れるようにした

ーーゲームをプレイしていて、エジプトの死生観が一部の話に出てくるのが印象的でした。それを一つの例に挙げたのはなぜでしょう。

小島:毎週博物館などに行ったりして、そういう文化について学ぶのが好きなんですけど、東洋と西洋の死生観って違うじゃないですか。全世界のあらゆる死生観を入れるようにはしています。そもそも生命が生まれて、進化していって、ある時点で「死」を確認して、宗教が生まれていったわけです。そのなかで、エジプトでは、死んだものが帰ってくるためにピラミッドを作るようになった。生と死という概念が生まれたのは人類の誇りでもあるので、そこの部分にもフォーカスを当てています。ほかにも、インカ帝国のことだったり。ヒックスのコスチュームにもそういう部分を表現していたりするんですが、基本的には知りたい人だけ知れるようにアーカイブしています。

ーー『DEATH STRANDING』を作り始める前に、月面に関するツイートをしていて、トレーラーでも「月」が印象的に使われているのが気になりました。

小島:僕、空を飛べない人間が飛行機を作ったように、不可能の7割は可能だと思っているんですよ。できないことはあって、それを諦めると評価はされないし、それを超えるために知恵を使うわけじゃないですか。その方法はまともじゃなくても良くて、それがゲームデザインということだと思うんです。今から約50年前に、3人のアメリカ人が何千人のサポーターを得て、9日間の旅を終えて生きたまま帰ってきましたよね。嘘かもしれませんけど(笑)。でも、50年前に人類が月に行ってるんだったら、なんでもできるような気がしていて。クリフの台詞はそういう意味合いの言葉になっています。

ーーここまでオープンワールド的なゲームではあるのに、ナラティブなゲームでもあると感じました。どちらかに偏りすぎると崩壊してしまうという意味で、すごく難しい塩梅だったと思いますが。

小島:ゲームとストーリーテリングって、相性が良くないんですよ。マルチエンディングのゲームも好きなんですけど、僕はストーリーじゃないと思っていて。ある一本の運命があって、例えば「何があっても彼氏と彼女は別れる」というのがストーリーで、「右に行くと別れる、左に行くと別れない」というのはストーリーテリングではない。『DEATH STRANDING』はオープンワールドなゲームだからこそ、自由度がないと意味がないじゃないですか。僕は1本のストーリーを作ったうえで、AからBに、BからCにつないでいくんですけど、そのルートを自由にしたんです。AからCにもAからDにも行かないかわりに、AとBの間では山を登っても川を渡ってもいいという。東京→渋谷→上野というルートは決まっているけど、タクシーを使っても電車を使ってもいいし、どこかで休憩してもいい。そういったオープンワールドの醍醐味を使っただけで、すごいストーリーテリングをしたわけではないんですよ(笑)。

ーーゲームには人を殺すことができるものが多いですが、『DEATH STRANDING』では殺傷に対するペナルティがあります。

小島:僕は「棒」と「縄」の話をよくするんですけど(安部公房『なわ』からの引用)、人類は最初四つ足で、二足歩行になって最初に作った道具は棒なんです。これで嫌なものを遠ざける。その次に縄を発明して、好きなものを繋ぎとめることを覚えた。この2つで今の世界があって、握手すると「縄」で、グーでパンチすると「棒」なわけです。その両面が人間の持って生まれた宿命で、どう使うかが僕たちに任されている。そういったなかで、殺傷をポジティブにすることは、ゲームのテーマに沿っていないなって。あまりそこを意識しすぎているわけではないです。

ーーゲーム中では、通常の人間の目には映らない霊体的な存在「BT」のなかに、赤ん坊の姿があるのが気になりました。

小島:BTにもいろんなバリエーションを作りたかったんですけど、制限もあって今の形になっています。赤ちゃんのまま死んだ人もいるから、ということでもありますし、BB(ブリッジ・ベイビー)のメタファーでもあると捉えてください。

ーーゲームクリア後、任務を続けたり他のユーザーと繋がりたいという人もいると思います。そんなユーザーに向けて用意してるものはありますか?

小島:DLC(ダウンロード・コンテンツ)の予定は、今のところないです。最後まで終わった方いますか?

(記者の一人が手を上げる)

小島:だったらわかると思うんですけど(笑)、ストーリーが終わったあとも配達任務は続くんです。プレッパーズも隠れている人はいますし、プレイヤー同士のミッションは十分あるので、ストーリーがなくなったとしても遊べるようにはなっています。

(構成=中村拓海)

■ゲーム情報
『DEATH STRANDING』
対応機種:PlayStation®4、PlayStation®4Pro
発売日:2019年11月8日(金)
CERO:D(17才以上対象)
〈価格〉
Blu-ray Disc(TM)版・通常版:希望小売価格6,900円+税
Blu-ray Disc(TM)版・スペシャルエディション:希望小売価格 7,900円+税
Blu-ray Disc(TM)版・コレクターズエディション:希望小売価格 20,900円+税
ダウンロード版・通常版:販売価格 7,590円(税込)
ダウンロード版:デジタルデラックスエディション:販売価格 9,790円(税込)
権利表記:©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
開発元:株式会社コジマプロダクション
発売元:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
公式サイト:https://www.jp.playstation.com/games/death-stranding/

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