ビヨンセが本年度『コーチェラ』に与えた影響は? Netflix映画『HOMECOMING』から考える

 「コーチェラそのものよりも偉大だった」というニューヨーク・タイムズの評をはじめ(参照)、多くのメディアで「歴史的」と大絶賛を浴びた昨年の『コーチェラ・フェスティバル』(以下、コーチェラ)でのビヨンセのライブ、通称「ビーチェラ」。そのライブパフォーマンスに加え、舞台裏の映像を多数収録したドキュメンタリー映画『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』がNetflixで公開された。

 ブラックカルチャーの歴史と結び付き、ポップスターの創作活動の限界まで打ち破ったビーチェラの全てを伝えるこの映画を、今年のコーチェラへの影響と共に考察する。

歴史の積み重ねに接するということ

 既に各所で解説されている通り、ビーチェラ当日のセットリストには、偉大な黒人の先達や、サウスのヒップホップを中心としたブラックミュージックの様々なスタイルへのトリビュートが織り交ぜられ、22年に渡るビヨンセのディスコグラフィがブラックカルチャーの歴史に繋げられている。マルコム・X、ニーナ・シモン、フェラ・クティから、ブラックナショナルアンセムとして知られる賛美歌「Lift Every Voice and Sing」までそのリストを見渡すだけでも私たちは歴史を学べるだろう。今回公開された映画ではさらに、W・E・B・デュボイス、アリス・ウォーカーなど多数の活動家の言葉が散りばめられることで、「ブラックカルチャーの中でのビーチェラ」という位置付けが強調されている。

 なぜビーチェラはこれほどまでにブラックカルチャーや女性を賛美する内容になったのか。一つには初の黒人女性のヘッドライナーとしての使命感があっただろう。ビヨンセは作中のインタビューでこう語っている。

「代弁者がいなかった人たちが、舞台にいるように感じることが大事なの」「黒人女性は過小評価されている。ショーだけじゃなく、過程や苦難に誇りを持ってほしい。つらい歴史に伴う美に感謝し、痛みを喜んでほしい。不完全と正当な間違いを喜んでほしい」

 一方で、この映画はビヨンセをモチベートした私的なストーリーも伝えてくれる。ビーチェラには、マーチングバンドからバトンガール、衣装における大学の社交クラブまで、歴史的黒人大学(Historically Black Colleges and Universities、以下HBCU)のカルチャーが象徴的に持ち込まれた。作中でビヨンセは、父がHBCUの一つであるナッシュヴィルのフィスク大学に通っていたこと、彼女自身テキサス州のサザン大学で何年も練習しスポーツイベントでのマーチングバンドに憧れを持っていたことから、「HBCUに行くことをずっと夢見ていた」と明かしている。

 この映画は、単にビーチェラとブラックカルチャーとの結び付きを伝えるだけでなく、アートに接することは歴史に接することであり、自分たちもその積み重ねの中にいるのだということを教えてくれるのだ。

 今年の『コーチェラ』で、ビーチェラのそんな側面を受け継いでいたアーティストを挙げるなら間違いなくジャネール・モネイだろう。私たちの中にある不完全さを祝福するというテーマの昨年のアルバム『Dirty Computer』の楽曲を軸にし、たくさんのバックダンサーを従え、ソウル、ファンク、ヒップホップまで網羅したジャネールのパフォーマンスも、先駆者たちが築いた歴史への尊敬が込められたものだった。

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