ビヨンセが本年度『コーチェラ』に与えた影響は? Netflix映画『HOMECOMING』から考える
ビーチェラを総監督したビヨンセ
この映画を通して最大の驚きは、ビヨンセ本人がビーチェラの全てを監督していたことだ。舞台裏を映した映像では、ビヨンセがダンサー、バンド、カメラマンなどに直接指導する場面が何度も挿入される。それは「建物が揺れる音や足踏みの音や、皆の掛け声まで録音しないといけない」という技術的な点から、『コーチェラ』へ出るにあたって持つべき意気込みをダンサーたちに直伝する場面まで幅広く、「これ以上作っても無駄よ」と厳しい言葉を出す時さえあるほどだ。
また、「手間を尊敬する」ビヨンセはダンサー、ライト、階段の材料、ピラミッドの高さや形、(衣装の)素材など全てを自ら選んだことを明かし、「細部全てに意図があるの」とも説明している。色、シルエット、視覚効果が何を意味しもたらすのか、個々のダンサーの個性はどう生かせるか、詳細全てが、ビヨンセ本人が関わって、研究されていたのだ。
つまり、共演者たちを鼓舞することから、ステージ細部への拘りまで、この映画はビヨンセ自身が2時間のパフォーマンス全てのクリエイティブコントロールを握っていたことを伝える。そんなことがわかると、よりビーチェラを通してビヨンセが表現したかったことがダイレクトに伝わるし、観客である私たちさえステージに立っている演者たちと同じようにその興奮を感じられる。
「舞台の総監督となるビヨンセ」を今年の『コーチェラ』で受け継いでいたのは、ヘッドライナーの一人、チャイルディッシュ・ガンビーノだ。「これはコンサートではなくて俺の教会だ」と宣言し、ゴスペル色の濃いファンクミュージックと共にスピリチュアルな空間を演出。照明やスクリーンに映る映像のカメラワークは、私たちがライブパフォーマンスではなく、既に高度に編集された映画そのものを見ている気分にさせた。シンガー、ラッパーであり、俳優、コメディアン、脚本家でもある彼の拘りを尽くしたパフォーマンスは、まさにビーチェラと同じく「体験」と呼ぶべきものだった。
映画の中でダンサーの一人は「HBCUでのホームカミングはスーパーボウル。それはコーチェラだ。長い間会ってない人たちが帰ってくる。伝統があり、前年より良いホームカミングかみんなが注目している。全要素が集まる」と語っている。ビーチェラを超えられるか? 長い歴史の中で自分は何が出来るか? この映画は、ビヨンセが『コーチェラ・フェスティバル』を、いままでよりもずっと特別な舞台に変えてしまったことを伝えている。
■山本大地
1992年生まれ。ライター、編集者。海外の音楽を中心に執筆。2016年まで「Hard To Explain」編集部。現在は音楽メディア「TURN」編集スタッフも。