w-inds. 橘慶太×Yaffle(小島裕規)対談【後編】 「楽音と楽音じゃない音の境目が曖昧になってる」

橘慶太×小島裕規による“機材トーク”

 「出てきたものを早く見つけて、人と違うサウンドを作る」

橘:海外でよく使われてるハードとかソフトってあるんですか?

小島:個人的な感想としては、向こうの方が右にならえが多い感じがしますね。一個流行ってるとみんなそれ、どこ行ってもApollo Twin、みたいな。日本人の方が人によって混沌としてる印象があります。あと日本が楽器を買う環境がいい。まず楽器屋が多いですよね。それこそソフトウェアとかはインターネットで買えますけど、オーディオインターフェースくらいのハードをそんなにしょっちゅう気軽に買えない感じではあるから、機材まわりは日本人が一番オタクっぽいかもしれないです。あ、CamelCrusherっていうフリーソフトは使ってる人が多いかもしれないです。

橘:小島くんもよく使うんですか? クラッシャー。

小島:「俺はMura Masaだ」って思いたい時は使ってます(笑)。

橘:(笑)。Mura Masaも使ってるんでしたっけ?

小島:Mura Masaも使ってますよ。スネアを入れるとほんとMura Masaっぽい音になります。TR-808に繋いで使うと、詰まり気味のディストーションが掛かった感じになって。

橘:そうなんだ! 帰ったら試してみよう(笑)。あと、作業効率を上げるためにAbletonのお気に入り、ショートカットは充実させてます?

小島:ショートカットは全部覚える人ですね。サンプルもお気に入りのタグにしておいて。

橘:パッチは作ってます?

小島:パッチは作ってないですね。あるにはあるけど、パッチの名前が思い出せなくて。いいのができても、保存して名前を思い出すよりもそれを作ったほうが早いんですよ。作ります?

橘:僕はめっちゃ作ります。Pro Tools開いた瞬間、最初の初期設定がシンセが全部入ってるのをオフにしてて、オンにすると立ち上がるようにしてます。ビートに掛けるものもプラグインであって、サイドチェインもシンセのところにコンプが掛かってて、それをオンにしたらバスも入ってて、サイドチェインが掛かるようにしてます。Pro Toolsはそこまでしないとめんどくさいんですよね。

小島:そういうことを考えると、最終的には脳内でやりたくなるんです(笑)。なるべく思いついたらあとはパッとやりたい。

橘:反応がいいタッチパネルも欲しいですね。頭で鳴ってるコードをすぐ鳴らしてもらえたら一番いいけど(笑)。

小島:それができれば望むものはないですね。

橘:急に非現実的な話になった(笑)。タッチパネルの方がまだ早いかな。

小島:でももう時代はAIですよ。

橘:iZotopeのNeutronとNectar 3は、AIアシスタントでマスタリングもボーカルも帯域を計算して削ってくれるらしいですからね。使ったことあります?

小島:OzoneとNeutronはありますね。まだ「ん?」って感じでしたけど。

橘:まだ、自分がやったほうが良いなと思っちゃいますよね。初心者向けではあるのかもしれない。

小島:プリセットの域を出ているのかというとちょっとね。

橘:でもそれが進化して自分が敵わなくなったらもう……。

小島:やめどきですね(笑)。でもフレーズの自動生成はほしいかもしれない。曲の中で核となる大事なメロディの背景でふわっと鳴るような。あれをサンプルで探すんだったらAIでもいいのかなって。ABCDのパターンから提案してくれるとか。

橘:たしかに。探すのはめちゃくちゃ時間が掛かりますし。

小島:ちょっと前まで、ギターソロもAIで作ってくれないかなって思ったことありますもん。だいぶ理論化できると思うんですよね。どこでどの音が来たら気持ちいいとか。理論化されていくと、ポップスじゃなくなっていく、というのもありますけど。クラシック、ジャズとか、EDMももうお決まりの流れのサンプルが死ぬほどあるし。

橘:それは名言です。あと最近Outputが気に入ってて。一番新しいことをやろうとしてるシンセだなってイメージがあって。

小島:Output Arcadeは買いました? クラウドでループする。

橘:買いましたよ。あれもすごいですよね。

小島:Splice Soundsは入ってます? サンプルのサブスクリプションサービス。

橘:入ってますよ。どんどん進化しててついていく方も大変ですけど。

小島:でもアップデートは大事ですよね。

橘:そうなんですよ。新しいものにどれだけ早く食いつけるかだと思ってて。僕たちはそういうものを作れはしないので。出てきたものを早く見つけて、人と違うサウンドを作るっていうのが自分の理想ではあるので、常にチェックしなきゃなと思ってるんですけどね。FabfilterのPro-Q 3も多分、僕が日本で一番アップデート早かったと思いますもん。メールが来た瞬間、夜中にやって。

小島:無の感情で。

橘:心の中では「ありがとうございます」って言ってましたけど(笑)。Outputで言えば、Substanceもいいですよね。

小島:小袋(成彬)とよくSignalを使ってたことがあって。テレビで犬か猫の特集をやってて、「ペットは画が持つなぁ」みたいな話になった時に「Signalも間がもつなぁ、猫とSignalは持つなぁ」みたいな話になったことがありました(笑)。

橘:(笑)。あのあたりのソフトが出た時は感動しましたもんね。

小島:でもああなった瞬間、理論が立ったなと思いましたね。ワブルベースなんかも、みんなが持っちゃったら、一から作ろうがソフトを使おうが変わらないじゃないですか。

橘:たしかにそれはあるかもしれないです。そう、最近見たOutputの動画で外の音を加工して音楽にしてるのがあって。この前もスノーバイクの音を録ってベースにしてたんですよ。それがすごくかっこよかった。聞いたことのないベースの音をサビ前のドロップ前に入れてて。次のステップはこういうことかって思いましたよ。

小島:不確定のところに入るとサウンドは面白いですよね。

橘:その動画で、山に行く格好でいろんなところの音を録ってて。音楽を作るのにここまで必要だったか、って思ったんですけど、うちのグループに山が大好きな登山家がいるんですよ。だから彼にその役目をしてきてもらおうかなって(笑)。山で素材を全部録ってきてもらって、あとは僕が加工する段取りが一番いいなと(笑)。

インタビュー最後にはスタジオ訪問記念にピアノにサイン

小島:山のアルバムを作ればいいんですね(笑)。

橘:サンプルで「富士山」とか「南アルプス」とか作って販売しようかな(笑)。

小島:(笑)。でもそういうオーガニックなサウンドも増えてますよね。ループをサンプラーで和音にして、Abletonでワープを外すとループの波がずれるじゃないですか。それを適当に足したり引いたりするのが面白くてよくやってたんですけど、デジタルっぽくないオーガニックな感じになりますよ。

橘:それはやったことなかった。

小島:あとYouTubeでASMRってあるじゃないですか。癒しの音が聴こえる動画。そういう音の印象にも近いかもしれない。最近スネアでもドラムマシンの音じゃなくて、紙をクシャっとするような音が混じってるサンプルを使うんですけど、なんであの音がいいのかなって思った時に「ASMR的な快感なんじゃないか」って。

橘:その音は録るんですか?

小島:録ったりもしますね。でも劇伴用のサンプルでそういうオーガニック系の音があるんですよ。レイドバック感が出るし、それプラスASMRな感じでいいですよ。

橘:これからはもう新しい音を録りにいく作業もしないとですね。男二人で旅行してずっと「いい音くださいー」みたいな(笑)。

小島:(笑)。でも楽音と楽音じゃない音の境目が曖昧になってるな、っていうのは最近感じることかもしれないです。気持ちよければ単音でもいい。ASMRでも気持ちよければ、それでいいんだろうなと思いますね。

■Yaffle(小島裕規)

Tokyo Recordingsの設立メンバーの一人で、Capesonのプロデュース、柴咲コウ、水曜日のカンパネラ、上白石萌音、Charisma.com、SIRUP、iriらのアレンジや楽曲提供から CM、映画『ナラタージュ』などの音楽制作等、幅広く活躍する気鋭のソングライター/プロデューサー。

Yaffle 小島裕規 Twitter
Tokyo Recordingsオフィシャルサイト

■橘慶太(w-inds.)

1985年12月16日生まれ。福岡県出身。
3人組ダンスボーカルユニットw-inds.のメインボーカリストとして、2001年にシングル『Forever Memories』でデビュー。同年、第43回日本レコード大賞最優秀新人賞に輝く。その17年の活動において、いままでにw-inds.として12枚のオリジナルアルバムと40枚のシングルをリリース。
国内外でそのアーティスト性、パフォーマンス、そしてセールスは高く評価され、デビュー当初より日本のみならずアジア各国で数々の賞を受賞。その活躍は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナム・タイ・マレーシアなど東南アジア全域に拡がっている。
2017年、「We Don't Need To Talk Anymore」からは、橘慶太が作詞・作曲・編曲をセルフプロデュースするなど、世界の音楽のトレンドをいち早く取り入れながら、グループ独自の音楽を追求し、常に進化を遂げている。

(構成=久蔵千恵/写真=下屋敷和文)

■w-inds.リリース情報
『w-inds. LIVE TOUR 2018 "100"』
2018年12月12日(水)発売

初回限定盤DVD(2枚組+2CD)¥5,926+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 “100” -Another Story-
特典CD:w-inds. LIVE TOUR 2018 "100" Live CD(2枚組)

Blu-ray(1枚組)¥5,926+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 "100"

DVD(2枚組)¥4,907+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 "100"

<収録楽曲>
M00. Introduction
M01. Bring back the summer
M02. In Love With The Music
M03. Show You Tonight
M04. All my love is here for you
M05. I missed you
M06. try your emotion
M07. 四季
M08. A Trip In My Hard Days
M09. Do Your Actions
M10. Celebration
M11. The Right Thing
M12. ORIGINAL LOVE
M13. In your warmth
M14. TOKYO
M15. 十六夜の月
M16. Long Road
M17. SUPER LOVER 〜I need you tonight〜
M18. We Don't Need To Talk Anymore
M19. Temporary
M20. The love
M21. Time Has Gone
M22. Come Back to Bed
M23. Stay Gold
M24. We Gotta Go
M25. Drive All Night
EN1. Dirty Talk
EN2. Sugar

w-inds. オフィシャルHP & MOBILE SITE

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