『未来のミライ』に見る、非アニメーションの才能を活かした多様なセンスの混在

『未来のミライ』に見る多様なセンスの混在

非アニメーションの才能を活かした多様なセンスの混在

 細田作品は、絵画的伝統の中にアニメーションを位置づけていることは先に述べたが、その伝統的表現をさらに刷新していこうとしているのか。それはアニメーション以外の才能を多く登用することで多様なセンスを取り入れようとすることで果たされている。

 細田守作品の美術・背景は非常に写実的だ。現代日本をそのまま舞台にすることが多い昨今の作品では特に顕著になってきている。冒頭で触れたメインビジュアルの入道雲をそうだが、陰影を排した人物絵とは対照的な実在感がある。

 この実在感の創出に一役買っているのが、非アニメーション業界の人材の登用だ。例えば衣装担当の伊賀大介だ。伊賀は『おおかみこどもの雨と雪』以来、細田作品に連続参加しているが、彼はキャラクターのイメージに合わせて実際に衣装を用意している。それをアニメーターが絵にしていくのだが、普段生身の人間を相手にスタイリングしている人間のセンスをアニメーションの世界に登用したのは細田守が初めてだろう。

 他にも『サマーウォーズ』以来、細田作品の常連である美術デザイナーの上條安里も普段は実写作品への参加が多いし、『未来のミライ』では彼らに加えて、建築家の谷尻誠が主人公の家のデザインを手がけ、映画のクライマックスで登場する黒い新幹線は、車両デザイナーとして数多くの車両を手がけた川崎重工業の亀田芳高が手がけている。その他、本作では絵本作家のtupera tuperaもプロダクションデザインとして参加している。

 本作の主舞台となる、くんちゃんの家はとりわけユニークなだ。美術設定がそのまま作品のテーマとも直結している。くんちゃんのお父さんが建築家であるという設定を活かして、子どもの成長と家族形態の変化によって、家も有機的に変化してゆくというコンセプトになっている。段差の多い構造になっているのは、段差を成長のための「乗り越えるもの」の暗喩だ。

 アニメの背景としての家は専ら固定的なものであるが(例えばドラえもんののび太の家はいつまでも変化しない)、人も街も、そして家も本作の中では有機的に変化してゆく。

 家のコンセプトでもう一つユニークな点は庭が中心にあることだ。庭を建物が囲むように作られており、箱庭的なイメージを想起させるが、この小さな世界が、4歳の男の子の小さな世界を具現化している。

 また細田監督の庭に対するイメージも非常に独創的だ。本作には庭にいたくんちゃんが突然、空想の中の水に飛ばされるシーンがあるが、細田監督はすみだ水族館の展示「自然水景」からインスプレーションを受けて、作り上げたシーンであるとインタビューで語っているが(参照:細田守監督がインスピレーションを受けた「自然水景」が映画とコラボレーション | すみだ水族館)、水槽も一種の庭だと考えたのだそうだ。このシーンの魚の大群はマッシブという3DCG技術が用いられている。『バケモノの子』の渋谷の群衆シーンでも用いられている技術だが、このシーンや未来の東京駅の群衆シーンなどのダイナミックなCG美術も本作の見どころのひとつと言っていい。

 細田守は映像作家というよりも「絵の作家」というべきなのかもしれない。その込められた作家性は物語だけでなく、絵にも色濃く宿っている。日本画の伝統の中にアニメを位置づける姿勢は、くんちゃんの人生も過去の血縁とつながっているという本作の物語に説得力を与えているし、物語にリアリティを生み出すための美術のこだわりとダイナミックな変化は、それ自体が変化と成長という細田作品のテーマを体現している。くんちゃんの未来も家族の歴史の中の一部であるとすれば、日本アニメの未来も日本絵画の歴史の一部なのだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『未来のミライ』
全国東宝系にて公開中
声の出演:上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子、役所広司、福山雅治
監督・脚本・原作:細田守
作画監督:青山浩行、秦綾子
美術監督:大森崇、高松洋平
音楽:高木正勝
オープニングテーマ・エンディングテーマ:山下達郎
企画・制作:スタジオ地図
配給:東宝
(c)2018 スタジオ地図
公式サイト:http://mirai-no-mirai.jp/

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