tofubeats、水カンら手がける空間演出ユニット huezが語る、日本のライブ演出に必要なもの

空間演出ユニット huezインタビュー

 tofubeatsや水曜日のカンパネラ、ちゃんみななど幅広いアーティストのライブ演出を手掛ける、空間演出ユニット・huez(ヒューズ) 。 “フレームの変更” をコンセプトに活動する彼らは、今のライブ演出をどのように見ているのか。同ユニットのとしくに(ステージディレクター・演出家)、YAVAO(VJ・LJ・ステージエンジニア)、YAMAGE(テクニカルディレクター・オペレーター)に日本のライブ演出の現状から未来まで、じっくりと語ってもらった。 (編集部)

huez

「アーティストの作った世界観や物語に別の入り口を」

ーー最初に「huez」はどんなユニットなのか、教えてください。

としくに:“フレームの変更” をコンセプトに活動するアーティストユニットで、映像や照明をベースに、音楽ライブの演出を手がけることが多いですね。所属人数は8人ほどで出自やジャンルもバラバラな複合演出ユニットです。

YAVAO:“フレームの変更” というのは、ちょっとわかりにくいのですが、空間や人間、楽曲が元々もっているフレームを別なるアウトプットへと変更してしまう、ということです。最近はライブ演出の仕事が多いので、ライブというアウトプットに偏りがちですが、展示場の演出やガジェットの制作などでも、そこで取り扱う素材のもつフレームを、別なるアウトプットへと変換、拡張するということを常に意識しています。

 僕は大学の卒制で、無数のカメラで一つの空間を監視するような映像を作っていて、その頃から人間が意図しない状況でフレームに収められてしまうことの暴力性や、そこに巻き込まれていくライブ感に興味があった。それから過去には、ライブハウスのフロア全体を布で覆い「VideoBomber」という手持ちVJツールで空間の中に無数の映像を投影するパフォーマンスをやったりもしてました。最近でこそ、色々な技術を扱えるようになったけど、元々は技術で勝負するタイプではなく、空間や物語をベースに考えているんです。

ーー様々なライブ演出を手がけられていますが、最近のライブ演出の流行や傾向をどのように捉えていますか?

としくに:全体を見ると、いまのライブ演出は大きく2つのパターン、アーティストと近い場所で活動する世界観共有型のチームと、プロダクトアウトで演出素材をつくる技術提供型のチームとに分かれている印象がありますね。huezというチームは、僕が世界観となるフレームをディレクションして、YAMAGEやYAVAOといった、より細部を作り込めるクルーが技術的に実装する。そのときに重要になるのは、世界観や技術に、遊び心や笑いといった要素をどれだけ盛り込めるかです。

 例えば、水曜日のカンパネラの武道館ライブでは、レーザー演出の部分だけを職人的に作り込んで持ち込ませてもらいました。YAMAGEとYAVAOは、それぞれ別の曲を担当したんですが、YAMAGEは楽曲の一音一音を全て拾うマッシブな方向性で、逆にYAVAOは、極端に少ない本数のレーザーで琴の音の「さわり(弦の振動による音のブレ)」だけを表現するというようなコンセプチュアルな方向性でデザインをおこないました。レーザーというメジャーに使われている演出素材であっても「作り込みを徹底することでこういう効果があげられるんだ」ということを出していければ、やがてその差はとても大きなものになると思っています。

ーー日本のライブ演出と海外の演出を比較したとき、違いは感じますか。

としくに:大雑把に言えば、日本のライブ演出は無駄を省き、海外の演出はより空間全体を会場としたものが多いと思います。例えば日本特有のポップカルチャー的なゴチャゴチャした演出であっても、実は割と少ない要素でまとまっている。比べて海外のライブ会場には「何これ?」と思うようなオブジェやガジェットが何の説明もなしに置いてあることがあります。要はアーティストの世界観が剥き出しで置いてあっても、そんなに驚かずについてきてくれる。

 日本では、そもそも客席が求めているのは世界観よりもアーティスト自体という場合が多く、そうなってくると演出は必然的に、アーティストに華を添えるピンポイントなものになります。作り込んだ一つ一つの素材が観客の入った空間を掌握することで、より大きな幸福感の体験を後押しできる。僕たちは裏方的に動くことも多いけど、むしろアーティストと対等な目線でナラティブ (叙述) に手を加えることで、そもそもの場の持つ価値を最大化できると考えています。

YAMAGE:僕は演出的な関心で、海外のライブ演出を参照することはありますね。例えば、ケンドリック・ラマーは、途中にコメディアンの語り部を用意して、演劇とライブを行き来するようなパフォーマンスをしていました。ラッパーというのは身体・技術・感情を使って自分のストーリーに観客を巻き込んでいくわけですが、単にそれだけだとついてこられる人とついてこられない人の間に落差が生じてしまう。途中にコメディアンの語り部を入れるのは、演劇とライブの行き来をさせることで、ついてこられなくなった観客に、改めて入り口を提示することとして機能します。僕は割とマッシブなレーザー素材を作ることが多いのですが、それは音楽だけでストーリーに入り込めない人に別の入り口を提案しているとも言えます。アーティストの作った世界観や物語に別の入り口を与える。それが空間演出の魅力ですね。

ーー他に技術面などでの違いはありますか。

としくに:日本の場合、最先端の技術をライブにがっつり持ち込みはじめたのは、ライゾマティクスさんやチームラボさんですよね。ライゾマティクスさんやチームラボさんは、やはり技術に対する理解や愛情の面で素晴らしく、日本の技術面のリテラシーも自然と上がっていると思います。ただ日本のライブには無駄がない良さがある一方、新しい技術を入れる実験がしにくいという問題があります。

 僕たちは渋家(シブハウス)というスペースの地下に「クヌギ」という実験場をもっていて、最初はそこに機材を持ち込んで、壊れるまで使って遊んでいたんです。それからライブハウスや展示場へと、その遊びを持ち込んで、演出チームとしての活動をはじめました。

 だから機材を使った様々な実験、それもある意味では身内で視覚効果がすごいと盛り上がったものを、どんどんライブへと持ち込めるという強みがあります。僕らとしては、他のジャンルを跨ぐような演出、そして世界観の構築という部分で独自性を出すことを大切にしています。

YAMAGE:僕らは研究や実験にもリソースを割きつつ、入れられるものはどんどん入れていこう、そして技術はみんなでシェアしようというカルチャーなので、そういう意味では流行り物をどんどん使っていく腰の軽さがあり、自分たちの間で盛り上がった技法を取り入れていくことに自信があります。例えばで海外のフェスの映像を見て「この技術は、たぶんこうやって作られているけど、これくらいの効果が出せるならアリかもしれない」みたいなことを話しながら、他の技術と組み合わせてみたりといった実験をしていますね。そういう意味ではチームワークや共同性というよりは、やはり遊びという要素が強いですね。だから僕らは技術よりは素朴な効果にテンションが上がることが多いです。

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