『しあわせは食べて寝て待て』SPの“団地”はこうして生まれた 暮らしが宿る美術セットに潜入

『しあわせは食べて寝て待て』美術の裏側

鈴の部屋に隠された細かすぎる工夫

 一方で、鈴と司(宮沢氷魚)が暮らす部屋のキッチンには、さとこの部屋とはまた異なる工夫が凝らされている。さとこよりも住んでいる年数が長いため、コンロ周りやタイルの油汚れなどの経年変化の汚しを少し激しめに設定。ただ、一緒に住む司が掃除をする性格であるため、過剰に汚すのではなく「常に使いやすくきれいな環境」が保たれた絶妙なバランスを実現した。

鈴の部屋のキッチン フライパンの高さに注目
ちょこんと置かれた大根の葉っぱ

「みなさんが現場に来たときに『鈴さんのキッチンのフライパン、高さ的に届かなくない?』と気になるそうなのですが、あれは料理をする高身長の司さんに合わせて、あえてあの高さにかけているんです。もうひとつ、原作者の水凪トリ先生も描かれていましたが、リボベジ(再生野菜)という野菜のへたを水につけたものを鈴さんの棚の上にこっそり置かせていいただきました。ドラマを観ていても気づかれないような細かいところですが、大切に飾っています」

さとこの“しあわせな”暮らしを作るまで

 では、すでに原作と脚本がある中で、セットや美術デザインはどのように形作られていくのか。今回は中野亮平チーフ演出の「原作の世界観を大事にしたい」という思いを受け、原作漫画1巻から5巻までの「さとこの部屋が載っているコマ」をすべて洗い出して並べることからスタートした。間取りや配置を研究し、独自に図面を引いて立ち上げた空間は、原作へのリスペクトで溢れている。

「セットのプランとは別に、『さとこはこういう服装をして、こういうことを言っている人物だ』という人物デザインも行いました。セットは“そこに住んでいる人”から考えていかないとデザインできないので、まず人から考えて部屋を立ち上げていったんです」

 そこから発想をひろげ、生活空間は倹約を心掛けている設定に。よく知られた既成品の均一なイメージは避けつつも、愛用品を長く丁寧に使い続ける感じを出していく。持ち道具スタッフともイメージを共有し、若々しいさとことレトロな鈴の時代感の差を食器や小物のひとつひとつまで表現し尽くしていった。

 細部に至るまで登場人物たちの暮らしが確かに息づく『しあわせは食べて寝て待て』の団地セット。画面から伝わる心地よさは、作品とキャラクターを愛する美術チームの深いこだわりによって支えられていた。

■放送情報
特集ドラマ『しあわせは食べて寝て待て~早春の養生編~』
NHK総合にて、8月18日(火)22:00~23:12放送
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、西山潤、土居志央梨、加賀まりこ、大西利空、徳永えり、根岸季衣 ほか
原作:水凪トリ
脚本:澤井香織
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、石澤かおる(NHK)
写真提供=NHK

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