“夏休み映画”復権にふさわしい『クレヨンしんちゃん 奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』

思い出すのは、シリーズ屈指の傑作と名高い原恵一監督による『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)だ。何者かの企みによって子供時代の思い出にとらわれ、しんちゃんたちを捨てて出ていったひろしとみさえを取り戻そうと、しんのすけはかすかべ防衛隊の子供たちと共に立ち上がる。

同じ原監督による『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)では逆に、戦国時代にタイムスリップしたしんのすけを探して、ひろしとみさえも戦国時代にやってきて、元の世界に戻る方法を探す。しんのすけのコミカルでアグレッシブな言動に振り回される楽しさがメインの『クレヨンしんちゃん』シリーズだが、根底には野原一家の絆がしっかりと流れている。そのことを改めて教えてくれた2作だった。
『奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』はその意味で、『クレしん』映画らしさを色濃く持った一作だ。同時に、夏休み中の公開となったことにふさわしい一作だとも言える。

2作目の『クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』(1994年)からゴールデンウィーク公開に移った『クレヨンしんちゃん』映画が、夏公開に戻ったのは番外作でフル3DCGの『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』(2023年)から。続く『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(2024年)では日本に現れた恐竜とのバトル、『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』(2025年)ではインドを舞台にした子供たちの大冒険が描かれたが、夏の公開にマッチした内容だったかというと難しい。
その点、『奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』は、作中の季節が夏で舞台は帰省先の田舎で、そこでは花火大会も行われるなど、夏の風情に溢れている。登場するのも妖怪たちとこれまた夏にふさわしい。ストーリー自体にもひと夏の冒険めいたところがあって、観終わった子供たちの心に、夏休み中の日常とは少し違った不思議な思い出を書き足してくれる。
しんちゃんが「妖怪の国」で出会う、やこという名の狐の少女に関するエピソードも、そんな夏の思い出の心地よさを加えてくれる。ひろしとみさえの「おしりだま」を取り戻すために、しんのすけはまめ太や唐傘の唐蔵、アマビエのピン子、そしてやこと一緒に行動する。その途中、なぜか魚の妖怪たちと野球をする場面がある。とても楽しいシーンだが、そこでやこが何気に野球が得意なところを見せる。ここに、ひと夏の思い出と言えるエピソードが重なってくる。

しんちゃんの祖父の銀の介も関わるそのエピソードから漂う切なさが、ずっと一緒にいられることの大切さを改めて感じさせてくれる。やこが姿こそしんのすけのように等身の低い愛らしさを見せながら、中身は500年を生きた九尾の狐という力の強い妖怪というギャップを、『虎と翼』の伊藤沙莉が演じて感じさせているところにも注目だ。
最後の花火も打ち上がって、夏休み感をさらに深める『奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』が、『クレヨンしんちゃん』映画に夏のイメージを刻みつけた。続く2027年でより深く定着するかはお話次第だが、映画の終わりに流された、魔女なり魔法使いが絡んできそうな次回作の予告映像から、夏休みに欠かせない楽しい経験を与えてくれる映画にはなりそう。そうした積み重ねが、夏休みの映画興行における映画『クレヨンしんちゃん』シリーズの存在感を高めていく。
ちいさくてかわいい奴が来年の夏も続いたら、少し話は変わってきそうだが。
■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん 奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』
全国公開中
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ
声の特別出演:伊藤沙莉、阪本(マユリカ)、中谷(マユリカ)
原作:臼井儀人(らくだ社)、『まんがクレヨンしんちゃん.com』(双葉社)連載中
監督:渡辺正樹
脚本:中村能子
主題歌:TOMOO「大人になったら」(IRORI Records/PONY CANYON)
製作:シンエイ動画、テレビ朝日、ADKエモーションズ、双葉社
配給:東宝
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