『トイ・ストーリー5』佐野勇斗はなぜハマった? スマーティー・パンツ役が高評価の理由

そしてもうひとつ、この仕事にはキャラの振れ幅とは別次元の関門がある。『トイ・ストーリー』の吹き替えが持つ、独特の“声の質感”だ。

アニメーション作品の吹き替えに俳優が起用される際、その理由としてよく挙げられるのが、実写で積んできた経験に裏打ちされたナチュラルさやリアルな芝居だ。だが『トイ・ストーリー』には、30年かけて作られてきた音の統一感がある。佐野自身も「『トイ・ストーリー』っぽいかどうか」を演じるうえで最も意識したと語っており、一筋縄ではいかない領域であることをうかがわせる(※3)。
考えてみれば、唐沢寿明も所ジョージも、本来は誰もが顔を知る有名人である。にもかかわらず、映画を観ながら彼らの顔がちらついて仕方ないという人は少ないのではないか。30年にわたる吹き替えの歴史のなかで形作られてきたのは、リアルすぎず、かといって誇張しすぎない“おもちゃの喋り方”の暗黙のルールだ。

予定通りに収録を終えたあと、自分の声を聞き返して納得がいかなかった佐野は、演出側に相談のうえ、8〜9割ものシーンを録り直したという(※4)。本人が「『トイ・ストーリー』っぽくない」と感じたその違和感こそ、佐野が直面した見えない壁だったのかもしれない。驚くべき話だが、むしろ注目したいのは、初挑戦の演者がその周波数のズレを自力で聴き分けられた“耳”のほうではないか。
違和感に気づけることと、それを修正できることは別の能力だ。佐野はその両方を持っていたことになる。本人いわく、その調整は理詰めというより、やりすぎたと感じたらトーンを落とす“チューニング”のような感覚だったという(※5)。シリーズのファンとして積み重ねてきた視聴体験によって、作品の音や空気が身体に染み込んでいたからこそたどり着けた声だったのだろう。
ジェシー役の日下由美ら、シリーズと長く歩んできたベテラン勢と多くの場面で組みながら、佐野は『トイ・ストーリー』の世界に確かに溶け込んでいた。観客が俳優の存在を忘れ、キャラクターの声として受け止められること。それこそが、佐野勇斗という俳優の現在地を示す、最も雄弁な成果ではないだろうか。
参考
※1. https://www.disney.co.jp/movie/toy5/news/20260704_01
※2. https://www.disney.co.jp/movie/toy5/news/20260518_01
※3. https://www.crank-in.net/trend/interview/187663/1
※4. https://www.disney.co.jp/movie/toy5/news/20260518_01
※5. https://encount.press/archives/1026794/
■公開情報
『トイ・ストーリー5』
全国公開中
監督:アンドリュー・スタントン
共同監督:ケナ・ハリス
製作:リンジー・コリンズ
声の出演:唐沢寿明(ウッディ役)、所ジョージ(バズ役)、日下由美(ジェシー役)、広瀬アリス(リリーパッド役)、佐野勇斗(スマーティー・パンツ役)、井上和/乃木坂46(スナッピー役)、松井ケムリ/令和ロマン(アトラス役)、竜星涼(フォーキー役)ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
全米公開日:2026年6月19日/原題:Toy Story
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