『風、薫る』池田朱那が物語に生む緊張感 NHKドラマでキャリアを重ねてきた若き実力派

NHK連続テレビ小説『風、薫る』に、池田朱那が土居ヒデ役で登場している。
明治の看護をめぐる物語の中で、池田が演じるヒデは、りん(見上愛)の生徒にあたる人物だ。帝都医大病院に新設された看護科の第1期生であり、西洋式の看護を学びたいという強い意欲を持っている。だが、その前に立つりんは、まだ若い日本人の看護婦取締。ヒデからすれば、素直にすべてを受け入れられる相手ではないのだろう。教えを請う立場でありながら、どこか相手を測るような視線を向ける。そこにあるのは、単なる反抗ではなく、もっと先へ行きたいという焦りや、簡単には頭を下げられない若さゆえの硬さである。

キャストが発表されたタイミングで、少しざわついたのは筆者だけではないだろう。池田はこれまでもNHK作品で、時代の変わり目にいる若い世代を演じてきた。今回のヒデもまた、りんの成長を映し出す相手であり、物語の空気を動かしていく存在になるはずだ。看護を学ぶ側だったりんが、教える側へと立場を変えていく。その前に現れる生徒が池田であることには、どこか納得感がある。
池田は小学1年から7年間、地元の野球チームに所属していた経歴を持ち、ゲームアプリ『八月のシンデレラナイン』のCM「全力少女」シリーズで注目を集めた。その後、『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレ東系)にも出演し、“野球女子”としての印象を強めていく。さらに『ここは今から倫理です。』(NHK総合)、映画『彼女が好きなものは』『20歳のソウル』、主演映画『17歳は止まらない』など、青春期の揺れや痛みを映す作品にも参加してきた。背筋の伸びた立ち姿、相手の言葉を受けた時の反応の速さ、感情が先に走りすぎない目線の強さも含めて、池田の演技には、内面の揺れを身体ごと画面に置くような魅力がある。
その魅力が、早くから時代ものの中でも生きてきた。NHK大河ドラマでは、2019年の『いだてん~東京オリムピック噺~』に出演。さらに2021年の『青天を衝け』では、渋沢栄一の次女・阪谷琴子を演じた。池田は琴子として、渋沢を父として見つめる娘の距離感を自然に表現していた。大きな時代の変化の中にいる家族のひとりとして、物語に生活の温度を添えていたのだ。そこで見せた自然さは、彼女が時代劇の中にすっとなじむ理由のひとつでもある。
NHK連続テレビ小説では、『虎に翼』で汐見薫を演じたことも記憶に新しい。薫は、汐見圭(平埜生成)と香淑(ハ・ヨンス)の長女であり、大学生として登場する人物。学生運動に関わっていく彼女の姿には、親世代が築いてきたものの上に立ちながら、そのままではいられない若者の危うさがあった。自分の正しさを信じたい気持ちと、社会に対する違和感。『虎に翼』が描いてきた法律、家族、差別、戦後社会の変化といったテーマを、次の時代へ接続する役割を、池田は終盤の登場ながら印象的に引き受けていた。
思えば、池田は“時代の子”を演じることに長けた俳優なのかもしれない。『青天を衝け』、『虎に翼』、そして『風、薫る』と、それぞれ時代も立場も違うが、共通しているのは、すでにある価値観をそのまま受け取るだけの人物ではないということだ。池田が演じる若者たちは、いつも少し前のめりで、少し不器用で、目の前の大人たちを困らせるだけの熱を持っている。

だからこそ、『風、薫る』のヒデは、りんにとって重要な人物になっていくのだろう。りんはこれまで、看護婦としての理想と現実の間で何度も揺れてきた。自分が何を学び、何を信じ、どう人と向き合うのか。その問いを抱えながら歩いてきたりんが、今度は誰かに教える立場になる。そこに現れるヒデのまっすぐな疑問や反発は、りんにとって厄介なものでもあり、同時に自分自身を映す鏡にもなるはずだ。
新しい知識を求め、自分の目で相手を見極めようとするヒデは、りんにとって手ごわい生徒になっていくだろう。池田がそのまっすぐさや未熟さをどう見せていくのか。りんが教える側として成長していく物語の中で、ヒデの存在はますます大きくなっていきそうだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















