『風、薫る』“定石崩し”の構成が生む新鮮さと戸惑い “看護”が突きつける社会の矛盾

一見、病院と遊郭は関係なさそうで、どこかつながっているように見える。直美の母が遊女で、運ばれてきた女性と同じ「夕凪」という源氏名だったこともあるし、それだけではない。補助線として、亡くなった男の父が激しい剣幕で夕凪を責めに行くとき、穏やかな口調で強い腕っぷしを見せつける柴田(飯尾和樹)と、女郎屋の主人(梅垣義昭)をうまく説得するヨシ(明星真由美)の存在に着目したい。
ヨシはかつて遊郭のやり手婆(遊女を管理する仕事)だった過去が明かされた。柴田が何者かはわからないが、庭掃除や大工仕事やドアの修理から暴力沙汰があったときに処理するなど汚れ仕事を引き受けているということは、何かありそうだ。登場時は、実は偉い人パターンかと思わせたが、ワケアリのパターンも考えられる。

ヨシたち看病婦はお金のためにしぶしぶやるような仕事で、そんな他者から卑しい仕事と思われる仕事のもうひとつが遊女である。病院で働く看病婦もまた、遊女ほどではないにしても、誰も喜んでやる仕事ではなかった時代なのだ。その看病婦を「看病婦なんか」と言われる仕事から、大事な仕事だと認識させた先駆者となるのがりんたちだ。
りんは、夕凪を助けようと、卯三郎(坂東彌十郎)に相談に行く。「その女郎1人助けても、遊郭の仕組みは変わりません。社会は変わらない」と極めて醒めた論調ながら、「廃娼運動」に関する新聞記事をりんに見せる。

りんは、卯三郎にたまたま助けてもらったので、卯三郎のその言い分は釈然としない。視聴者も同じだろう。卯三郎はりんを助けることは自分のビジネスのリターンになると考えたからと言うが、論点ずらしにしか聞こえない。だが卯三郎の詭弁もまた社会の矛盾のひとつなのであるとすればリアリティはある。
物語は「廃娼運動」に向かうのかーーというところで来週に続く。振り返ると、第9週も千佳子(仲間由紀恵)のエピソードを第10週の前半まで引っ張ってからゆきのエピソードに入った。第10週は先述したようにゆきのエピソードからはじまって夕凪へとシフトした。朝ドラは1週間がワンエピソードという先入観を覆し、週の後半と翌週の前半でエピソードが変わるスタイルは新鮮だ。毎朝見るのではなく配信で見る層が増えているとしたら、週ごとをワンセットにする必要もない。ただ、昔ながらに毎日、月〜金まで見ていると、金曜から月曜に話が跨ぐのが生理的には落ち着かないのも否めない。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















