生田絵梨花、『風、薫る』で問われる人物造形の精度 “脇役”だからこそ際立つ玉田多江

それぞれの想いを抱えて、ヒロインの一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)は梅岡女学校付属看護婦養成所へ──朝ドラ『風、薫る』(NHK総合)では「看護婦養成所編」がスタート。新章のはじまりに期待するのは、やはり新たなキャラクターたちの存在だ。養成所に集まった個性的な面々の中で、さっそく目立っている人物がいる。そう、玉田多江だ。演じているのは生田絵梨花である。

本作は、日本社会の大きな転換期となった明治の時代を舞台に、ふたりの“トレインドナース(=正規に訓練された看護師)”の活躍を描くもの。ヒロインであるりんと直美はこれから看護師となり、医者や患者たちとの関わりの中で“最強のバディ”になっていく。ふたりが養成所に入所したいま、ようやく本作はその入口に立ったというわけだ。しかし、道は険しく、一筋縄ではいかない。新章の幕開けで描かれたのは、看護の道を志す女たちの衝突だったのである。
ここで本作の重要ポジションに躍り出てきたのが、生田が演じる多江というキャラクターだ。父が奥医師という環境で生まれ育ち、彼女の兄や弟も医者。トレインドナースを目指すのにもっとも相応しい人物だといえるが、であるがゆえにプライドが高く、他人に厳しい。お人好しなりんを翻弄し、直美とは対立。養成所に入所したメンバーの中で、直美以上に気の強い性格の持ち主である。

生田はステラnet内のインタビューで多江について、「強い女性だな」という印象を抱いたいっぽうで、「きつい性格の女性にはしたくない」と考えたと述べている。多江の気の強い性格には、いったい何が影響しているのか。私たちはこれまでの『風、薫る』の流れの中で、なぜこうも直美が厳しくてしたたかな人物なのかを理解してきた。そこには彼女の出自が大きく影響している。対する多江は、経済的には恵まれた環境で育ってきたのかもしれない。しかし彼女の心が満たされていたのかどうかは、また別の話だ。生田は多江に関して、「自分自身も医者になりたいけれど、女性であるがゆえになれなかった。そのことへの劣等感を抱えていたのではないかと感じました」と続けている(※)。
これからの『風、薫る』において、生田に期待できることは何だろうか。ひとつは、かぎられた時間の中で、玉田多江という人間を養成所の仲間たちと視聴者に提示すること。多江は本作のヒロインではないから、直美のように時間をかけて周囲に理解してもらうのは難しい。おっとりとした性格のりんや弁の立つ直美と手を取り合い、私たちとも手をつなぐことができるかどうか。もちろん、そういった決定的な瞬間は用意されているはず。けれどもこの“決定的な瞬間”というのは、一朝一夕で実現するものではない。ここで生田絵梨花という俳優の表現力が試されることになるだろう。
連続ドラマとは、ある程度の時間をかけて、人間の心や人々の関係性を描くもの。近年の生田の出演作でいえば、『アンメット ある脳外科医の日記』(2024年/カンテレ・フジテレビ系)や、児童相談所を舞台にした『明日はもっと、いい日になる』(2025年/フジテレビ系)がある。いずれも“個人”の活動以上に、“チーム”での動きが重要な作品だった。彼女は元アイドルグループの一員でもあるから、ここまでのキャリアが今作にも生きてくるはず。
生田絵梨花、舞台で鍛えたスキルが光る 『明日はもっと、いい日になる』で際立つ静かな演技
フジテレビ“月9”枠で放送がスタートした『明日はもっと、いい日になる』。その中で、児童心理司・蒔田向日葵を演じるのが生田絵梨花だ…それでいて生田は、ミュージカル『MEAN GIRLS』(2023年)や『リア王』(2025年)など、継続して舞台に立ち続けている。これらの作品で物語が展開するのは、連続ドラマとは比べ物にならないほど短い時間だ。演者たちはその中で、個々のキャラクターがどういう存在なのかを示さなければならない。瞬時に特定のシーンの主役のポジションに躍り出ることもしばしば。そしてその積み重ねが、ひとつの作品となる。

養成所にはそれぞれ異なる魅力を持った演技者たちが集ったが、踏んできた場数とその多様さでいえば、生田が一番だろう。多江が『風、薫る』の主役ポジションに立った瞬間、私たちは生田の真価に触れることになるはずだ。彼女にとってこれが初の朝ドラ。その動向から目を離してはならない。
参照
※ https://www.steranet.jp/articles/114696
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















