『銀河の一票』が超えたドラマで政治を描くハードル 黒木華×野呂佳代コンビが都政を変える

『銀河の一票』が超えた政治を描くハードル

 選挙のたび疑問に思うことがある。どんな人が政治に向いているのか? どんな人生コースをたどったら政治家になろうなどと考えるのか? どうして彼/彼女たちは、すまし顔のいかにも準備万端という雰囲気で、常に自信と余裕に満ちた態度を示しているのか? 仮に実態はまったく違うとしても。

 4月20日にスタートした『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)は、政治という摩訶不思議なトワイライトゾーン、あるいは百鬼夜行の伏魔殿を知るためのこれ以上ないサンプルを提供してくれる。

 主人公は議員秘書の星野茉莉(黒木華)。父の鷹臣(坂東彌十郎)は与党・民政党の幹事長を務める政界の重鎮だ。小さい頃から父の姿を見て育った茉莉は、鷹臣の後継者と目されていた。

 永田町の内幕というミクロの人間関係を拡大鏡で映す筆致は、観始めてしばらくは「何を見せられているのだろう?」と感じるぼんやりとした印象だった。ドラマで描かれる作中のリアルと、こちらの現実感覚が合っていない。そこに事件か事故かわからない疑惑が持ち上がり、そうしている間に、茉莉が秘書を辞めてスナックのママの月岡あかり(野呂佳代)と出会うあたりで、「ああ、これはこちら側の世界の話なんだな」と事態をようやく飲み込めた。

 ドラマで政治を描く最大のハードルは、現実感のなさに顕著であるように、リアリティのすり合わせが難しいことだ。端的に何をやっているのかわからない。政治家が選挙のときに何を言っているかはわかる。しかし、そこに至るまでのプロセスと、そこから先の手続が不明なのだ。だから、なんとなく不都合なことが裏で行われているのではないかと疑ってしまう。そうやって妄想しはじめたら最後、陰謀論の世界へようこそである。

 作り手が悩んだ形跡がうかがえる『銀河の一票』第1話は、端的に「物語をはじめる話」だった。永田町を追われた茉莉は楽園を追放された上級国民で、下界のスナックでしもじもの民草と出会う。茉莉には生い立ちのトラウマや亡き母との記憶があり、あかりには全てを失った経験と救えなかった後悔があった。

 傷ついた女性たちの連帯。孤独が彼女たちの根底にある。一瞬ナイーブすぎると感じたが、政治とはそもそもナイーブなものだと思い直した。あかりが語る「次はもう絶対に離さない」は、目の前の一人を見捨てないという誓いで、それは今この国の政治にもっとも欠けているものだからだ。

 そのことは、茉莉やあかりと対置される民政党の議員・日山流星(松下洸平)の言動から明らかだ。「党の体質は内側から変えないと」「死んだ人間が生き返るわけじゃない」「国を背負う人間は個人を背負っちゃいけない」など、どこかで聞いたような台詞を口にする日山の中身は生成AIなのだろうか。意味の表層を摩擦係数ゼロで滑走する言葉のシャワー。どれもそれっぽいのだが、全部が全部うまい言い回し以上の何かにならないのがすごい。

 だからこそ、素人で政治のことは何もわからないスナックのママあかりが放つ「あなたを一人にしない」という思いが強烈なインパクトを生む。2024年に行われた都知事選は話題豊富だったが、新しい政治の胎動を感じさせるものだった。二人三脚の茉莉が、あかりをどんな政治家にプロデュースするかが今後の見どころになるだろう。

 今作を推す理由を一つ挙げると、何度か引用された宮沢賢治の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉がある。国会・社会を考えるマクロの視点と、個人を救済するミクロの視点が合流する場所に政治家のやるべき仕事があるとして、第1話にして楔を打ち込んだ『銀河の一票』は、意図せずして“まつりごと”の眼目を射抜いている。

 有力作が出そろった春ドラマ候補の中で、今作が特大のハリボテか、あるいは一大スペクタクル巨編となるか、はたまた地に足の着いた人間ドラマになるかは、現時点で未知数である。期待は禁物だが、注目したいと思う。

■放送情報
『銀河の一票』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、木野花、岩松了、坂東彌十郎、松下洸平ほか
脚本:蛭田直美
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
音楽:坂東祐大
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/ginganoippyou/
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