『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の巧みな反芻構造 交差する佐藤&高木、降谷零の軌跡

『コナン ハロウィンの花嫁』巧みな反芻構造

 思えば『名探偵コナン』という作品において、社会の不条理や大切な人の死との直面を通して、泥臭い感情……エモーショナルな人間ドラマを牽引していくのは、いつだって“警察官”たちだった。

 劇場版第25作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はそれを改めて実感させてくれるようなシリーズ屈指の傑作だ。華やかな「ハロウィン」や「結婚式」というモチーフの裏で本作が描くのは、“過去の呪縛”と“前に進んで掴んだ愛”、そして“連鎖する復讐”と“未来への祈り”という、大人たちによる静かで熱いヒューマンドラマである。そして、その中心にいるのが佐藤美和子と高木渉、そして降谷零なのだ。

“死神の影”が見えなくなるまで

 本作のエモーショナルなドラマを語るうえで、まず見つめ直したいのが、佐藤美和子と高木渉の長きにわたる関係性と歩みだ。

 思えば、アニメ『名探偵コナン 本庁の刑事恋物語』シリーズなどを通じて少しずつ距離を縮めてきた2人の道のりは、決して平坦なものではなかった。佐藤の心の奥底には、かつて想いを寄せた松田陣平の死というトラウマが“死神の幻影”となってまとわりついていたのだ。松田のような天才肌とは程遠く、お人好しで不器用な高木渉。しかし彼は、決して松田の代わりになろうとしたわけではない。自分自身のやり方で、佐藤が抱える傷から逃げずにまるごと受け止めようとし続けてきた。

 だからこそ、松田の変装をしてまで命懸けで職務を全うしようとする彼の姿は、佐藤のかつてのトラウマを呼び起こすと同時に、彼が今や松田にも劣らない頼もしい刑事になったことを証明していて胸を打つ。そして、すべての事件が解決した後の救急車でのラストシーン。重傷を負いながらも照れ隠しのようにキスをねだる高木と、それに応える佐藤の姿は“過去の呪縛”から解放され、前に進んだことで掴めた愛を体現していて、たまらなく愛おしい。

反芻される「揺れる警視庁」 復讐の連鎖を断ち切る

 この佐藤と高木のドラマが、単なる恋愛ドラマにとどまらず、映画全体のテーマである「復讐と正義」にシームレスに繋がっている点も、本作の特筆すべき魅力だ。

 遡ることアニメ第304話、松田の殉職が描かれた「揺れる警視庁 1200万人の人質」のクライマックスで、佐藤は松田を殺された恨みから理性を失い、犯人に向けて発砲してしまう。その弾道から犯人を守るため、彼女に猛然と体当たりをして命を救い、結果として愛する人を「人殺し」の業から引き戻したのが、他ならぬ高木だった。

 皮肉なことに、『ハロウィンの花嫁』の冒頭で降谷零を誘き出す餌として利用されたのは、まさにこの時の爆弾犯である。過去の因縁が現在の引き金となる中、映画の終盤で非常に印象的な構図が描かれる。連続爆弾魔プラーミャに家族を殺された被害者組織のリーダー・エレニカが、憎きプラーミャに銃口を向けるシーンだ。復讐という狂気に囚われかけた彼女を、今度はコナンが「ダメだよエレニカさん」と諭し、優しく包み込んで踏みとどまらせる。

 「揺れる警視庁」で銃口を向け、復讐の淵に立たされた佐藤と、彼女を救った高木。そして本作で復讐に憑りつかれたエレニカと、彼女を救ったコナン。形は違えど、「悲しみの連鎖を正義と愛で断ち切る」というこの反芻構造が素晴らしく、過去の原作エピソードの重みを余すところなく映画のメインテーマに結びつけた、脚本家・大倉崇裕の卓越した手腕が窺える。

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