『冬のさ春のね』は恋愛論であり人生論に 今泉力哉が描いた“編まれていく”自己の物語

誰かと共に編んだ目の数を増やし、時にほどいていく
時に残酷で、不都合な真実を暴くような少し恐ろしい側面を持つ一方、終始温かみを感じる『冬のさ春のね』。最終話で、文菜はゆきおのために編んだマフラーの縫い目をほどいていく。

本作は、最初こそ自分の欲求に忠実すぎる主人公の奔放さを見つめていく物語に思えた。しかし実際に映し出されていたのは、彼女がなぜ今の恋愛観に至ったのか、なぜ今の“文菜”になったのかを、過去の恋人たちとのやりとりを通して紐解く時間だった。彼女は、本当は真面目で、1人の人と向き合ってきた時間もあった。それでも、だんだんと変わっていって、今はもうわけがわからなくなってしまった。その姿は、恋愛観や価値観という“自分を自分とたらしめるもの”が、誰かと共に“編んできたもの”であることを、私たちに改めて教えてくれる。
編み物とは最初に基準となる結び目を作り、その中に糸を通して輪(目)を作ることの繰り返しだ。まるで恋愛そのもののように思える。結ばれたあと、そこからさらに互いを知り合い、共に時間を過ごし、目の数が増えていく。そうやって蓄積していったものが、時にはダメになって最初から全部編み直しになることだってある。文菜が編んだ“温泉ズ・ブルー”の毛糸のマフラーも、全てほどけてしまった。

それでも、そうやってこれまでいろんな人と作ってきた結び目(基準)や目は、良くも悪くも簡単にはほどけずに彼女の中で編まれ続けていく。それが十分な長さになったら、今度は誰かのために作ったマフラーではなく、自分を寒さから守り温めてくれるものになる。そんな自己形成そのものの過程を、その最たる例とも言える恋愛を軸に多角的に捉えた本作。
「なんかさ、なんかね」
伝えすぎないように、それでも真意を伝えるために。なんとなく感じたこと、実は少し大切なことを話そうとするとどんどん拙くなってしまう。それでも、何かを伝えたくなってしまう気持ち、そのとりとめのなさを、本作は否定もせず肯定もせず、そこに横たわる人間らしさとして映し続けてくれる稀有な作品だった。
■配信情報
『冬のなんかさ、春のなんかね』
Hulu、TVerにて配信中
出演:杉咲花、成田凌、岡山天音、水沢林太郎、野内まる、志田彩良、倉悠貴、栁俊太郎、細田佳央太、内堀太郎、林裕太、河井青葉、芹澤興人
脚本:今泉力哉
監督:今泉力哉、山下敦弘、山田卓司
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:Homecomings 「knit」(IRORI Records / PONY CANYON)
プロデューサー:大倉寛子、藤森真実、角田道明、山内遊
チーフプロデューサー:道坂忠久
制作協力:AX-ON、Lat-Lon
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/fuyunonankasa/
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