『ばけばけ』最終回前の最後の“地獄” トキとイライザのヘブンへの異なる愛の形

『ばけばけ』ヘブンの“優しい嘘”への反応

「どうして『KWAIDAN』を書いたの?」

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第123話は、穏やかな死を迎えたヘブン(トミー・バストウ)の心の内をトキ(髙石あかり)が辿るような物語だった。だが、それをもたらしたイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の無念さ、そしてそこからくる怒り具合は激しいもので、最後の“地獄”が訪れたようだった。

 ある日、トキのもとにヘブンの死を知ったイライザが訪れる。ヘブンの書斎を訪れ、机は西向きにすることを望んだことなどを居合わせた丈(杉田雷麟)が通訳しながら、ヘブンのことをともに悼むトキとイライザ。そしてイライザはヘブンが出版した『KWAIDAN』を見つけると切なく微笑んだ。その笑顔を見たトキは、最後にベストセラーを出せてよかったと嬉しそうだが、それを聞いたイライザは予想外の反応をし出す。

「『KWAIDAN』がベストセラーというのはどういうことですか?」

 イライザはヘブンにもっと高尚な本を書くことを期待していたし、『KWAIDAN』自体は話題にもましてやベストセラーにもなっていない。ついに、ヘブンの優しい嘘がバレてしまった。本作は一貫して“本音”、つまり“本当のこと”をひとつの軸として描いてきた。ヘブンが家族のためを思ってついた嘘も、嘘は嘘であり、“本当のこと”はいつか明らかになるのだ。

 冒頭のセリフは、絶望感に満ちた声色でイライザが言った言葉である。イライザは、作家としてのヘブンを愛し、期待していたのだろう。そんな彼女にとって『KWAIDAN』ははっきり言って駄作なのである。トキはイライザの言葉を聞いて落ち込んでしまう。自分がヘブンの人生を、もっと明るかったはずの人生を変えてしまったと考えているのだろうか。

 もしかしたら、どうしてヘブンが『KWAIDAN』を書いたのかは、これまでのヘブンとトキを見てきた私たちのほうが、イライザより理解しているのかもしれない。

 司之介(岡部たかし)はイライザの発言に憤慨しながら、雪女の話は、司之介の父が松江でヘブンに話したことが基になっているから、「宝物じゃ」と言った。フミ(池脇千鶴)も、クマ(夏目透羽)も『KWAIDAN』を読んでいる。トキが「自分でも読めるものを」と言って出来上がった『KWAIDAN』はまさに誰でも読めるものとなった。ヘブンが『KWAIDAN』を書いたのは、トキをはじめとした家族のためであり、心から愛し、そしてその良さがなくなりかけてきた日本のためだったことは間違いない。

 作家としての人生は、特にトキと家族を作ったことによって大きく変わってしまったかもしれない。でもそこで、ヘブンの人生は愛する家族と穏やかに暮らすことに変わったのだ。「ベストセラーになった」という嘘も、家族を笑顔にするためのもの。死後も感じられる変わらぬヘブンの優しさに、涙がこぼれそうになった。

 トキはヘブンという人を愛していたけれど、イライザはヘブンの仕事を愛していたように思う。だから、自らは文章が書けないトキに丈を通してでもいいからヘブンとの回顧録を書くように言ったのだろう。依頼というより、命令だ。イライザはどこまでも仕事一筋の人なのだ。

 トキはどんな決断をするのか。ここもまたトキの人生の大きなターニングポイントになるだろう。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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