『ばけばけ』トキのヒロイン像は異色? “なにも起きない日常”を描いたドラマを総括

当時のトキは、銀二郎(寛一郎)から破談され、好意を寄せられていた小谷(下川恭平)にも、一方的に別れを告げられた直後だった。銀二郎との関係も仲睦まじく、そこに芽生えた感情も恋心だとは思うのだが、“家のための結婚”という前提のなかで育まれた感情でもあった。出奔した銀二郎から、二人きりで東京で暮らさないかと誘われ、それに答えられず涙する場面もあったが、あの涙は銀二郎への申し訳なさと、家族を捨てられない居た堪れなさの狭間で、こぼれ落ちたものではないだろうか。

その一方で、橋のたもとで別れたヘブンを見送る際、トキが思わず涙をこぼす。ゆくゆく日本を離れるヘブンを引き止めることはできない。家族のことを思えば、銀二郎との再婚以上の選択肢はない。それでもなお、止められないヘブンへの想いを示すかのように溢れたその涙は、抑圧にすっかり慣れてしまったトキが、初めて自分のエゴで流したものだ。実はこの涙が髙石あかりのアドリブだというのだから、驚かずにはいられないのだが、『ばけばけ』のなかでもひときわ印象に残るシーンになった。

さて、3月に入ってからの『ばけばけ』は、もうひとりの主人公であるヘブンの作家人生に焦点が当てられる。日本に帰化して「雨清水八雲」にもなった。いよいよ代表作の『怪談』が誕生したのだが、それは同時に、ヘブンの最期が近づいていることを指す。
「なにも起きない日常」を心がけてきた『ばけばけ』らしからぬ、どこか胸騒ぎのする最終週の予告だったものの、たとえ命が尽きたとしても、残した作品を通して、トキたちのなかでヘブンは生きつづけるのだろう。それは最終回を迎えても、私たちのなかに『ばけばけ』という物語が在りつづけることを意味している。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2025/11/post-2221564.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















